ウェブサイトの広告表示を止めるアドブロックがネット広告業界を脅かしている。一部の調査では、広告がブロックされることによる損失が218億ドル(約2兆5500億円)に達しているという。全世界で利用者が拡大しているさなかに、Appleが9月16日にローンチするiOS9の「Safariにブロッカーを実装すると取り沙汰されている。業界は16日のiOS9配信に注意を払っている。
Webサイトにおける広告表示を止めるアドブロックがネット広告業界を脅かしている。一部の調査では、広告がブロックされることによる損失は、年間218億ドル(約2兆5500億円)に上ると予測されているほどだ。そんななか、Appleが新しいiOS9のブラウザにアドブロック機能を実装するという噂が広まっていた。
Appleは2015年9月9日(米現地時間)、新製品発表会で新しいiOS9を9月16日から全世界で配信すると発表。だが、iOS9のブラウザ「Safari」に搭載するといわれていた、アドブロック機能については触れていない。ITジャーナリストの本田雅一氏は「東洋経済オンライン」(8/28付)で、アドブロックが実装される可能性について、こう説明する。
今般、「広告を遮断する機能」と伝えられているのは、iOS 9に内蔵されるウェブブラウザ「Safari」に組み込まれる”Content Blocker”と呼ばれる機能だ。この機能は一般ユーザーが先行利用可能なiOS 9の公開ベータには含まれていない。また、開発者登録を行える最新版では存在が確認でき、開発者向け情報も得られるが、その場合は守秘義務契約で内容を伝えることはできない。
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もしこれが本当に実装され、ユーザーがブロックを設定すれば、「Safari」で閲覧されるWebページのモバイル広告は、表示されなくなる可能性がある。
ちなみに、他のベンダーからリリースされているアドブロックでは、ドイツのソフトウェア企業アイオー(Eyeo)がリリースする「アドブロック・プラス」などが有名だ。米テックメディア「The Next Web」によると、アドブロックは解析ツール「Google Analytics」、「Parse.ly」までブロックする可能性があり、パブリッシャーが有効なサイト分析をできなくなる可能性もあるという。
世界アドブロックユーザーは5年間で9倍
アドブロックの利用は欧州から火がつき、やがて北米に広がった。ページフェアとアドビの調査によれば、アドブロックのデイリーアクティブユーザー(DAU)は欧州で7700万(前年同期比48%増)、米国で4500万(前年同期比35%増)と拡大傾向だ。全世界のマンスリーアクティブユーザー(MAU)は、2010年の2100万から2015年には約9倍の1億8100万にまで急増している(下図)。
同調査は、広告が表示されないことによる全世界の損失は218億ドルに上ると予測。この発表は、パブリッシャーが広告枠を提供し、広告主が枠を購入するというWeb広告のビジネスモデルを根底から揺さぶった。また、この状況はパブリッシャーと広告主、アドテク企業に甚大な損失をもたらすかもしれない。
モバイルシフトに打撃も
そもそもパブリッシャーはユーザーのモバイルシフトを効果的にマネタイズできていない。「モバイル・ギャップ」と呼ばれるデスクトップ視聴との収益性の格差が存在するからだ。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、「ニューヨーク・タイムズ」のウェブ版はモバイル利用が半分を越えたが、デジタル広告収入に占めるモバイル関連広告の割合はたったの15%。モバイルシフトが叫ばれるが、もともと儲からないところに、アドブロックが追い打ちをかける可能性がある。
Facebook、Googleの2社だけで全体の半分を占めているという、モバイル広告の売上。そのため、iOS9の「コンテンツ・ブロッカー」は、特に、AppleのライバルであるGoogleのAdwords、Adsenseによる広告をブロックすることが狙いと指摘する専門家もいる。
ただし、ユーザーはスマホでブラウザ自体を利用していないという指摘もある。また、アドブロックは、ブロックの範囲外に出る独自の空間を持つ巨大プラットフォームに利する可能性が高い。米調査企業フォレスター・リサーチによると、スマートフォンでの利用時間の85%がアプリによるものだ。今後はアプリ内の広告が主戦場になるかもしれない。
ネイティブアドへの影響も
ネイティブアドに関しても困難がある。どのような仕組みになっているのかは不明だが、Adweekによると、iOS9のアドブロック「コンテンツ・ブロッカー」は、スポンサード・コンテンツやブランデッド・コンテンツも取り除くケースがあるという。
「われわれはネイティブアドの別の提供方法を考え、それを広告主に報告しなくてはならないだろう。最悪の状態に備えておく」と、新興経済メディア「ビジネスインサイダー」の最高収益責任者ピーター・スペンド氏は語った。eMarketerは、ネイティブアド市場が今年43億ドル(約5160億円)規模まで拡大すると予測する。
iOS9のリリースは、2015年9月16日。「コンテンツ・ブロッカー」の実装の可否は、そのときに明かされる。
(吉田拓史)
【2015年9月17日 追記】本日未明にリリースされたiOS9では、「コンテンツブロッカー」の存在は確認されていない。2015年9月25日に発売される新モデルにおいての実装になるか確認が待たれる。詳細は改めて追っていきたい。(DIGIDAY[日本版]編集部)
【2015年9月19日 16:18 追記】編集部が記述した、上記の9月17日の追記を取り下げる。「コンテンツブロッカー」は実装されている。iOS9のアドブロックに関しては情報が錯綜している部分もあり、続報で読者に状況を伝えていきたい。(DIGIDAY[日本版]編集部、編集者・吉田拓史)
<参考サイト・文献>
DIGIDAY『Why publishers shouldn’t fight ad blockers: ‘The hackers will always find a way’』
DIGIDAY『Ad blocking’s collateral damage: publisher data』
DIGIDAY『The global rise of ad blocking in 4 charts』
Page Dair, Adobe『The cost of ad blocking』
Adweek『Apple’s New Openness to Ad Blockers Threatens to Remove Publishers’ Mobile Ads』
WSJ『Mobile Readers Abound; the Ads, Not So Much』
東洋経済オンライン「「新iPhone」から広告は締め出されるのか iOS9でアップルがやろうとしていること」