ニューヨークで20年以上の経験をもつベテラン広告マン、マーク・ダフィ氏(54歳)がつづる、広告業界への濃厚なメッセージがこもった辛口エッセイ。これを読めば米広告業界の裏側がよく見えてくる? 連載第9回のテーマは「テクノロジー時代もクリエイエティブは不滅」。
――もちろんどちらも大人同士だ。そこは両サイド、「クライアントのために一緒に協力して働きましょうね」とかニコニコしながらぬかすだろう。だが、そういった「タテマエ」を取り払ったら、テクノロジーとクリエイティビティは犬猿の仲にある。正直、相手が凄惨な死を迎えることを願っているほどだ。
なんで仲良くできないのか? 簡単に言うとこうだ。テクノロジー側の人間は広告を紛れもない科学やデータにしようとしている。きゃつらはテクノロジーの「伝道師」連中は、どんな広告(クリエイティブだろうがなかろうが)でもXパーセントの売上の伸びを保証できるアルゴリズムを作ろうとしている。そうかそうか、まあ、がんばれ。
このコラムの著者、マーク・ダフィ氏(54)は、広告業界を辛口批評する人気ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人で、現在、失業中のコピーライター。米大手Webメディア「Gawker」でも週刊コラムを担当し、直近では、世界一のバイラルメディア「BuzzFeed」で「広告批評」記事を担当していたが、2013年に解雇を通達された。
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言ってみればコンピューターゲームの「ドンキーコング」のようなものだ。この場合はドンキーがテクノロジーでマリオがクリエイティビティだ。
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もちろんどちらも大人同士だ。そこは両サイド、「クライアントのために一緒に協力して働きましょうね」とかニコニコしながらぬかすだろう。だが、そういった「タテマエ」を取り払ったら、テクノロジーとクリエイティビティは犬猿の仲にある。正直、相手が凄惨な死を迎えることを願っているほどだ。
クリエイティビティは科学ではない
なんで仲良くできないのか? 簡単に言うとこうだ。テクノロジー側の人間は広告を紛れもない科学やデータにしようとしている。彼らテクノロジーの「伝道師」連中は、どんな広告でもXパーセントの売上の伸びを保証できるアルゴリズムを作ろうとしている。そうかそうか、まあ、がんばれ。
いいクリエイティブを作るのは科学ではない。アートと説得力のあるコピーの奇跡的な融合だ。そしてそれはもう大変なおシゴトで、ごちゃごちゃとしたカオスから突如生み出されるものでもあるから、いつだって結果がどうなるか予想不可能だ。最高マーケティング責任者(CMO)だって、「本当にこの案でいいのか?」と悩みに悩み、ゴーサインを出すのに相当の覚悟がいるほどだ。
……とまあ、こういう状況はFacebook創業者のマーク・ザッカーバーグの生まれ変わり気取りである、左脳一辺倒の理詰め連中には耐えきれんだろう。あの方々にはホワイトボードを囲んだ喧々諤々(かんかんがくがく)の議論のなかで突如現れるあの「アイデアの神様が降りてくる瞬間」は理解できない。
自分たちが作るターゲット・オーディエンスの現在地もタイミングも完璧に見計らった記事風Webコンテンツが、なぜ素晴らしくクリエイティブな広告に、売り上げ面でもブランドイメージ構築という面でも、毎度毎度負け続けるのかわかっていない。
クリエイティビティはコード化などできないのだよ、シリコンバレーで働く諸君!
テクノロジーは広告の革命ではない
ニュースサイト「BuzzFeed」の最高経営責任者ジョナ・ペレッティは事実上、テクノロジー系広告のスポークスマンで、最大のサポーターだ。そして(自社のネイティブ広告のクオリティを見る限りでは)クリエイティビティの最大の敵のひとりでもある。
最近、ペレッティは会場から溢れんばかりのメディア/広告業界の取り巻き連中の前で「Pound」を発表した。「Pound」とは「Process for Optimizing and Understanding Network Diffusion (ネットワーク拡散の理解と最適化の手段)」の略だ……と言われてもわけがわからんのは私だけか? ペレッティによると、「どうやってコンテンツがインターネット上で広まるのかをブランドがもっと理解できる新しい技術」らしい。「我々の過去の成功から学べるため、データはとても重要なのです」……だとさ。
とはいえ、多くのマーケット担当者がテクノロジー広告系のデータを妄信し続けている。だが老舗広告代理店が示す輝かしい過去の実績と同様に、テクノロジー系の連中らが提示する数値も疑ってかかるべきだ。最近はテクノロジー系の広告代理店は「ゴミのようなデータ」を各社に売りつけているご様子でもある。
2015年6月4日に「The Revolution Will Not Be Digitized(革命はデジタル化しない)」掲載された記事では、大手エージェンシー「DDB」の最高クリエイティブ責任者であるアミール・カサイはこう語る。広告業界の最大の革命はいまだに70年前ビル・バーンバック(DDBの創始者)が起こしたクリエイティブ革命だ、と。
「我々の業界で起こる真の革命はデータ、アルゴリズムまたはテクノロジーから来ているのではない。実に単純でとても大切な事実から来ているのだ。我々の存在意義は商品にまつわる真実を見つけたり、作ったりすることにある」
商品を売ることが広告の目的
「そんな昔話をされてもなあ……」と鼻で笑っている諸君に、彼の言っている意味をクリアにしておこう。バーンバックが言う「商品にまつわる真実」とはブランドや商品の売り上げに関わる重要なことだ。なぜなら、いまも昔も広告の唯一の存在意義は商品の販売だからだ。
テクノロジー系広告の彼らはアメリカの広告黄金時代を舞台にした人気ドラマ「マッドメン」のあるセリフを覚えておいて欲しい。クリエイティブ・ディレクターのドン・ドレイパーの口から放たれた言葉のなかで、もっとも知的だと思うもののひとつだ。シーズン3の第1話で今後スターリング・クーパー社は広告のクリエイティビティでは勝負しない、と買収元のダックフィリップス社から通告を受けたときのひと言だ。
「どうぞどうぞ。私が売っているのは広告じゃなくて商品ですから」
つまり彼は自分たちのことなんかどうでもよくて、ただただ商品のことを考えているんだな。だから……自分たちの手法を売りつけようと躍起になっているテクノロジー系広告会社の諸君、この言葉をしっかり胸に刻んでほしい。キミたちのやっていることはやっぱり完全に間違っているぞ。(敬称略)
Mark Duffy(原文 / 訳:柳沢大河)
Image by 星野美緒(Original Photos of Thinkstock / Getty Images)