プログラマティックによる広告バイイングは、理論上、広告購入に完全な透明性をもたらすとされるが、システムの本質がプロセスを覆い隠してしまうことが多い。「どんな種類のオークションか?」という一見単純な問題を例にとってみよう。
プログラマティックによる広告バイイングは、理論上、広告購入に完全な透明性をもたらすとされるが、システムの本質がプロセスを覆い隠してしまうことが多い。「どんな種類のオークションか?」という一見単純な問題を例にとってみよう。
オークションの種類
プログラマティックによる広告バイイングは長年、セカンドプライスオークションが主流だった。この方法ならばバイヤーは、2番目に高い入札額より1セントだけ高い額を支払うだけでいい。たとえば、あなたが価値あるユーザーに40ドルのCPMで入札し、次の人が12ドルと入札した場合、落札者であるあなたは12.01ドル支払えばいいということだ。ファーストプライスオークションでは、一番高い入札額がオークションを落札するので、あなたは40ドル払わなければならない。言うまでもなく、どちらの方法をとるかによって、入札戦略も違ってくる。
プログラマティックの領域にファーストプライスオークションが入り込んできたことから、現在のように複雑な状況になった。多くの広告バイヤーは、これから自分が入札するオークションの設定がわからずにいる。バイヤーが監査できるのは、デマンドサイドで直接一緒に仕事をするベンダーだけなので、アドサプライチェーン内のほかのプログラマティックプラットフォームが、密かに売上を増やそうとしてオークションの仕組みを変更しようとしても、それを確認する方法はない。つまり、バイヤーはセカンドプライスオークションで買っているつもりでいて、実はファーストプライスオークションだったということもあり得るのだ。そうなると、入札戦略がまるで違ってくるので、費用がかさむことになる。
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広告エージェンシーCTPボストン(CTP Boston)のメディア担当アソシエイトディレクター、エリザ・センテイオ氏は次のように語る。「ベンダーは、セカンドプライスモデルでやっていると言うが、それはミーティングで彼らが口にする宣伝文句の一部だ。だが、キャンペーン終了後、それを証明するデータは何もなく、どうしようもないほど不満がつのる。相手の言葉に疑念を抱いてしまうのはそんなときだ」。
ヘッダー入札の影響
ファーストプライスオークションへの変更は、必ずしもおとり商法というわけではない。ファーストプライスオークションにする理由もいくつかある。たとえば、ヘッダー入札では、セカンドプライスオークションの場合、最高額の入札者が必ず勝つわけではない。下図の例では、25ドルではなく14ドルの入札者が勝った。1つ目のアドエクスチェンジで2番目に高い入札が、2つ目のアドエクスチェンジの2番目に高い入札より高額だったからだ。
こうした混乱を解消するために、アドエクスチェンジやサプライサイドプラットフォーム(以下、SSP)は、ファーストプライスオークションの製品を提供することでヘッダー入札に適応している、とアドエージェンシーのクレイマー=クラッセルト(Cramer-Krasselt)でプログラマティックメディア担当ディレクターを務めるマイケル・サンティー氏は言う。これはどちらにとっても理にかなったやり方だ。
だが、新しいオークションダイナミクスの導入によって、混乱も生まれた。価格構造は通常可視化されていないため、入札しようとしているオークションの設定がバイヤーにはわからないからだ。価格の決め方が明確でなければ、バイヤーは入札の戦略をどう立てればよいかがわからない。ファーストプライスオークションなら、バイヤーは自分が払いたい額で入札すればいい。セカンドプライスオークションならば、自分の入札額より低い価格になることが明白なので、インプレッションを勝ち取るために高い入札額を出せる。
デジタスLBi(DigitasLBi)のプログラマティックメディア担当アソシエイトディレクター、リアン・ナドー氏は「今のようにふたつが混在する状況では、どのレバーを引き、どれくらいの額で入札すべきかを理解するのは難しい」と語る。
DSPの先にある闇
さらなる問題点もある。SSPのなかには、クライアントであるパブリッシャーの好みに合わせて、ファーストプライスとセカンドプライスの両方を提供しているところがある。パブリッシャー自身も、利用する価格構造をコロコロと変えることができる。
ここで舞台下手から「不正」が登場する。たとえば、デマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)はバイヤーに、利用するアドエクスチェンジがファーストプライスオークションを採用していると言う。するとバイヤーは、入札価格はインプレッションを勝ち取るのと同じ額になるという印象をもつ。現実には、このアドエクスチェンジはセカンドプライスオークションを使う。間に置かれたお金、つまり、インプレッションにかかるコストとバイヤーの入札額との差は、トランザクションに使われたプログラマティックプラットフォーム間で分割される。これぞまさに、余分なマージンの誕生だ。
あるDSP幹部(匿名希望)は、「インプレッションあたり1~2セントなんてたいした額には聞こえないが、インプレッションが数億単位になれば、額も大きい」と述べた。
広告バイヤーは、アドサプライチェーン内の1ステップのみを覗いているに過ぎず、それはつまり、バイヤーにはトランザクションが追跡できないことを意味している。広告バイヤーがDSPを使い、そのDSPがアドエクスチェンジを使っていて、さらにそのアドエクスチェンジがSSPを使っていたら、バイヤーは自分が直接関わるDSPの入札しか覗き見ることはできない、とアドテク企業ソノビ(Sonobi)の共同創設者ジャスティン・ケネディー氏は説明する。ソノビはSSPとしてスタートしたが、現在は購入サイドでも業務を行っている。SSPがインベントリー(在庫)を再販している場合、取引の追跡は一層複雑になる。
開示の法的義務
これはバイヤーにとってはゆゆしき問題だ。オークションの仕組みの変更がSSPに一任されているとしたら、バイヤーにはSSPに説明責任を負わせることができないからだ。あるDSP幹部(匿名希望)によると、SSPやアドエクスチェンジには広告バイヤーの監査を受ける法的義務はないという。理屈から言うと、DSPはアドエクスチェンジに対して、アドエクスチェンジはSSPに対して、それぞれ説明や報告を要求できるはずだが、大口のクライアントが関係打ち切りを持ち出して脅しでもかけない限り、DSPがサプライチェーン内のほかのプラットフォームに強く要求する動機などほとんどない。
前述のDSP幹部は次のように述べている。「プラットフォームが悪いとか、無法なことをしているというのではない。彼らは叩かれ、マージンを少なくするよう圧力をかけられている。だから座席のクッションの下にお金が落ちていないか探していて、これがいくばくかのマージンを得る方法のひとつになっている。クライアントであるブランドの多くは、そんなことは気にかけてさえいない。彼らが気にするのはエージェンシーがお金を取っていることだけだ。三者以外に誰かがどのように稼いでいるかは気にしない。」
インタラクティブ広告協議会(IAB)の「RTB(リアルタイム入札)3.0」プロトコルにはすでに、ファーストプライスかセカンドプライスか、インプレッションがどちらで売られたかを示す「オークションタイプ」と呼ばれる変数がある。だが、IABはアドエクスチェンジに対して変数の採用を強制できず、多くのプログラマティックプラットフォームはそれを避けている。バイヤーもこの件を強要すらしていない。あるDSP幹部は、オークションの価格設定について可視化を求めてきたクライアントはいなかったと語る。
ナドー氏はこう言う。「実際に何が起きているか知らない人が多い。だから、この程度細かいレベルまで透明性を求めるべきだということも自覚していない」。
Ross Benes(原文 / 訳:ガリレオ)