多くのブランドがデータサイエンスの必要性に気づく一方で、ビジネスに活用する方法や、適切な人材を雇用する方法についてはまだ混乱している。エージェンシーはいま、このギャップを埋めるため、クライアント向けのデータサイエンス講座で自社の解析サービスを補ったり、経営幹部対象のデータサイエンス学校を新設している。【※本記事は、一般読者の方にもnoteにて個別販売中(480円)です!】
データサイエンスは熱を帯びているが難しい。だが、エージェンシーはそこにチャンスがあると思っている。
多くのブランドがデータサイエンス機能を採り入れる必要があると気づく一方で、ビジネスにデータを活用する方法や、適切な人材を雇用する方法についてはまだ混乱している。エージェンシーはいま、このギャップを埋めようと急いでおり、クライアント向けのデータサイエンス講座で自社の解析サービスを補ったり、経営幹部を対象にしたデータサイエンス学校を新設したりさえしている。
大学と手を組んで、自社のためのタレントパイプラインを作ろうとしているところもある。IBMやマイクロソフトのような企業までもが、データサイエンス講座を提供している。
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幹部向けのセッション
ブランド戦略エージェンシーであるブラック・バード・デジタル(Black Bird Digital)の最高経営責任者(CEO)ロス・マーティン氏と、データサイエンス・コンサルタント会社シレソン・アソシエイツ(Schireson Associates)のパートナーであるジェイコブ・ハリス氏は、データサイエンス大学(Data Science University)を9月に開校した。1日限りのグループセッションで、受講料は1人3000ドル(約3万4000円)だ。
セッションは、データサイエンスの基礎知識をすでにある程度持っている、マーケティング担当幹部向けに考えられている。彼らは、さまざまな業界用語(バズワード)に惑わされる可能性もあるなか、新しくチームに加わるデータサイエンティストと最小限の数学的知識で効果的にコミュニケーションして、望んでいる情報を得たいと思っているのだ。
マーティン氏によると、セッションにはこれまで、シティバンク(Citibank)やGE、モンデリーズ(Mondelēz)、CNN、ハースト(Hearst)、ボノボス(Bonobos)のような企業の幹部のほか、TBWA\シャイアット\デイ(TBWA/Chiat/Day)、MDCメディアパートナーズ(MDC Media Partners)、アクセンチュア(Accenture)のようなエージェンシーの従業員も参加している。
「現実に応用できるように」
「データサイエンスは、魅力的で、謎めいていて、価値があると信じられている」と、マーティン氏は語る。「データサイエンスがわからなければ、多くの競合相手がそうしているであろうときに、時間や焦点や予算を戦略的に投資しないかもしれないので、そこが弱みになる。(マーケターは)FacebookやGoogleのような企業と競争すると同時に、彼らの真似をしたがっているので、我々は、バズワードと巧妙なトリックだらけのこの分野全体をわかりやすく説明し、それを現実に応用できるものにしている」。
マーティン氏はさらに、企業のチーム全体が作業環境のなかで教えを受けられるようなカスタムパッケージを1講座2万5000ドル(約280万円)から用意している。こうした講座は、世界規模のホスピタリティ企業やメディア企業、大手のメディアエージェンシーを対象にしていると、マーティン氏はいう。
「すべての業界で、上級幹部の大多数がそれを知っているふりをしていることは明らかだ。彼らは単に、データサイエンスの基本原理を理解していない。バズワードは知っていて、パネルディスカッションや役員会室でのその使い方も知っているが、それが意味するものや、何が問題かがわかっていない」。
各エージェンシーの取り組み
ブランド戦略エージェンシーのジャイアントスプーン(Giant Spoon)は2018年11月はじめ、NBCユニバーサル(NBCUniversal)と提携し、直販型(DTC)ブランドに対してデータに焦点を当てたカスタムなサービスを提供すると発表した。このサービスには、エージェンシーのデータサイエンスチームやデータサイエンスワークスペースに、データや技術の専門家とともに定期的に出入りすることが含まれている。
ロサンゼルスに拠点を置くデジタルエージェンシーのオムレット(Omelet)はこの夏、データサイエンス・コンサルタント会社の97コミュニケーションズ(97 Communications)とバートナー契約を結び、数あるデータソリューションのなかから現在のクライアントを対象にデータサイエンスのワークショップを開催した。オムレットのデジタル担当エグゼクティブディレクターであるリカルド・ディアス氏によると、同社はこうしたワークショップを独立したサービスに発展させたいと考えているようだ。
BBDOニューヨーク(BBDO New York)は過去2年に渡り、クライアントや見込み客に対して、「マーケティング・サイエンス101(Marketing Science 101)」「マーケティング・サイエンス101(Marketing Science 201)」「データ・ワークアウト(Data Workouts)」という3種類のデータサイエンス講座を提供してきた。BBDOニューヨークのエグゼクティブバイスプレジデントでデータソリューション担当ディレクターのティナ・アラン氏は、今後は一緒に仕事をしているクライアント用に特別に設計した講座を作りたいとしている。
アラン氏は「今日を理解し、明日を予測したいと誰もが思っていて、我々はデータのストーリーテラーとして、データ負荷が多すぎるこの世界で、何が、なぜ、どのようにということを翻訳する手助けができる」と言い、価格やカリキュラムについての詳細は明かさなかったが、参加者が学ぶ内容の一部にはコーディングが含まれると話した。
大学と連携をするところも
大学と協力して、最終的には社内でデータサイエンスのインターンシップやデータサイエンティストの確保につながりうる支援を提供しているエージェンシーもある。IPGが所有するメディアブランド(Mediabrands)のデータおよびテクノロジーチームは2月、コロラド大学ボルダー校とともに、学生を対象にデータサイエンスやプログラマティック購入のトレーニングを行う2日間の認定ワークショップを開催しており、同社によると2019年にももう一度講座を開講する予定だという。
R2Cグループ(R2C Group)はミネソタ大学でマーケティング分析講座を開発。自社のインターンシッププログラムにフィードバックしたり、ポートランド州立大学とともにデータサイエンス講座を含むビジネス系カリキュラムを作ったりしている。
メディアエージェンシーのザ・トレード・デスク(The Trade Desk)は2013年、マーケターにプログラマティックの認定プログラムを提供するという発想をいち早く実現した。データサイエンスの諸理論やデータ管理プラットフォーム(DMP)の実装が、5時間にもおよぶ動画講座4本を含む500ドル(5万6000円)のカリキュラムに組み込まれていた。ザ・トレード・デスクの学習ならびに開発担当ゼネラルマネージャー、メレディス・ホール氏は、2014年には72人の学生を認定したが、その数は2018年には2995人にまで増加したと説明する。
参加者・第三者からの意見
経営幹部やマーケティングのリーダーたちは、解析チームやデータサイエンティストだけにデータサイエンスの理解を任せることはできないと考えるようになってきた。ブルックリン・ネッツ(Brooklyn Nets)を所有するBSEグローバル(BSE Global)のマーケティング責任者を務めるエリザベス・ブルックス氏は、知識を持ち帰り、社内の解析部門だけでなく、彼女のチームの全員がデータサイエンスの原理を理解できるようにするためにデータサイエンス大学のセッションに参加した。「我々はデータサイエンスでもかなり進歩しているが、我々が目指すところは、マーケティングチーム内のどこにいるかに関係なく、データが収集される方法や、ファーストパーティのデータとサードパーティのデータの違い、その活用法を理解することにある」と、同氏は語った。
セールスフォース(Salesforce)が所有するデータクラウドサービス、クラックス(Krux)の元CEOで『Data Driven: Harnessing Data and AI to Reinvent Customer Engagement』の共同著者のトム・チャベス氏は、次のように話す。「データドリブンの問題はますます、デジタルマーケティングにおける競争の基本を定義している。もっぱらクリエイティブサイドにいるマーケターは、クールなコンセプトや非常にホットなクリエイティブ要素を壁越しに投げておいて、後は技術者に『おまかせ』するわけにはいかないと知っている」。
Ilyse Liffreing(原文 / 訳:ガリレオ)