米国では新型コロナウイルスの感染者が再び急増している。これを受けて多少の緊張状態にはあるものの、エージェンシーをはじめ、バイヤー、パブリッシャーいずれも春のような大規模な広告出稿停止は起きないと分析している。契約の柔軟性もひとつの要因ではあるが、コンサルタントたちは今こそ先行投資が必要な時期だからだと指摘する。
米国では新型コロナウイルスの感染者が再び急増している。これを受けて、州によっては休校の実施をはじめ、可能な限り外出しないよう呼びかけたり、店舗などの営業再開の時期を延期したりと、対策が講じられている。
このような状況下にもかかわらず、広告出稿量についてはあまり大きな変化は見られない。メディアバイヤーやエージェンシー幹部は、今回のようなケースに備え広告主に対して柔軟な契約内容を提案し、締結したことがその背景にあると指摘する。
米DIGIDAYが以前に報じたように、米国のテレビ業界ではパンデミックの第1波から数カ月で、キャンセル期間や配信時期により柔軟性をもたせた長期契約が広まった。
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第1波ほどの衝撃はなし
米デジタルエージェンシー、360iで取締役兼CIO(chief investment officer)を務めるキャサリン・ウォーバートン氏は、「エージェンシーやメディアはもちろん広告主も含めて、たとえ出稿を取りやめた場合でも、双方に損失が生じないような柔軟な内容の契約締結を積極的に進めてきた」と語る。
バイヤーサイドでも、「広告主としても柔軟な契約をしていることで、第2波による出稿停止に踏み切るところは少ない」という見解が一般的だ。全米規模でのロックダウンがなければ、このトレンド(柔軟な契約とそれに伴う広告出稿の継続)は維持される可能性が高いためだ。さらには、上半期で損失を出した広告主が、クリスマスシーズンの売上でそれを補填しようとしていることもこれに拍車をかけている。短期のキャンペーンを展開することにより、コロナの状況が悪化してもすぐに支出削減には至らないケースも少なくない。
クリエイティブエージェンシーであるメカニズム(Mekanism)の共同経営者兼CSO(chief social officer)のブレンダ・ガーハン氏は、「3月には、特に大手ブランドのあいだで広告出稿を停止するところが多かった」と指摘する。「(コロナ禍で)成功した企業であっても、マーケティング予算は変わらずか、わずかに削減されており、失われた時間を取り戻そうと躍起になっている。それに加えて、1年で最大のかきいれ時であるホリデーシーズンに予算を充てるブランドが増えている」。
バイヤーとパブリッシャーも動揺せず
また、今のところパブリッシャーも第1波のような打撃を受けていない。11月第3週に米DIGIDAY記者のマックス・ウィレンスは、パブリッシャー5社のCROを対象に、パブリッシャーに対する広告主の反応について調査をおこなっている。その結果、5社ともに出稿量は変わっていないと回答した。さらには、たとえ大規模なロックダウンがおこなわれても、広告主はパブリッシャーを「よきパートナー」と信頼し、出稿量が落ちる可能性は低いだろうと答えている。
バイヤー各社も、「第1波のとき、広告主はすぐさま出稿停止を訴えた。これをパブリッシャーが躊躇することなく了承したことが、今の出稿継続という流れにつながっている」と述べている。
ブランドコンサルティング企業、メダフォース(Metaforce)の共同創業者であるアレン・アダムソン氏は、春先の出稿停止後、「メディアバイヤーやエージェンシーは、新型コロナウイルスの存在する社会に慣れたと考えている」と述べている。これはもちろん、広告主の業務が通常に戻ったということではない。パンデミック初期に世界を覆ったような、先行きの見えない不安や恐怖に苛まされることはないだろう、という指摘だ。コロナウイルスの感染方法が判明し、有望なワクチンも登場した。暗く長いトンネルの先に光が見えてきた状態であり、こういった条件が広告への費用支出の継続を後押ししている。
ピュブリシス・コマース(Publicis Commerce)の執行役員兼北米担当リーダーを務めるエイミー・ランツィ氏は「人々は、将来への希望を絶やさぬよう先行投資を続けている」と分析する。
今後エージェンシーが求められるもの
今年はまた、クリエイティブエージェンシーの統合が相次いで生じている。直近では、WWPグループのVMLY&Rとジオメトリー(Geometry)が統合し、VMLY&Rコマース(VMLY&R Commerce)が誕生。さらに、WPPは傘下のグレイ(Grey)とAKQAを統合し、後者をプライマリーブランドとしたAKQAグループ(AKQA Group)を設立している。
こうしたエージェンシーを取り巻く状況について、米DIGIDAYは複数のコンサルタントから意見を聞くことができた。いずれのコンサルタントも、今年はクリエイティブのレビューにおいて「パフォーマンスベースのクリエイティブ」の必要性が繰り返し主張されてきたという。AKQAがプライマリーブランドとなったのもこれが理由であり、従来のクリエイティブエージェンシーが今後のピッチやアプローチをパフォーマンスベースという方向に舵を切る可能性もある、と指摘する。
調査コンサルティング会社のAARパートナーズ(AAR Partners)の代表を務めるリサ・コラントゥオーノ氏は、「広告主は業種を問わず、『クリエイティブエージェンシーが必要なことに変わりはない。だが、求めているのは会社が成長するためのビジネスチャンスをいかにつかみ、活かすかについて一緒に考えてくれるエージェンシーだ』と言っている」と語る。
「そこで必要になってくるのが、パフォーマンスベースという考え方を持ったクリエイティブエージェンシーだ。今の当社もこれにあたる。クリエイティブエージェンシーの役目が終わったわけではない。時代の状況に合わせて常に戦略を変え、進化を続けていくだけだ」。
[原文:‘A more hopeful future’ As the coronavirus surges, advertisers aren’t pressing pause]
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)
Illustrated by IVY LIU