中国におけるアドテクの状況は米国とは大きく異なる。中国ではプログラマティック企業が、DSPとSSPの両方の役割を果たしているのが普通だ。中国のDSPの多くは自社で広告ネットワークを所有し独自のSSPを構築していると、複数のアドテク企業幹部が述べている。中国におけるプログラマティック市場の概要を以下にまとめた。
中国ではプログラマティック分野の活動がきわめて盛んだ。たくさんの中国人投資家が、中国にオペレーションがある米国のアドテク企業や欧米のプログラマティック企業を、積極的に買収している。
だが、中国におけるアドテクの状況は米国とは大きく異なる。たとえば米国では、FacebookやGoogleといった「ウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)」を有する企業でない限り、デマンドサイドプラットフォーム(DSP)とサプライサイドプラットフォーム(SSP)のどちらかとして活動している。両者の利害は対立するからだ。だが中国ではプログラマティックの企業がその両方の役割を果たしているのが普通だ。中国のDSPの多くは自社で広告ネットワークを所有し、独自のSSPを構築していると、複数のアドテク企業幹部が述べている。
「中国は所有志向がきわめて強い市場であり、バイサイドの大手企業はすべてを網羅した技術スタックを構築したがる」と語るのは、モバイル広告企業インモビ(InMobi)の共同創設者で、CRO(最高収益責任者)を務めるアブヘイ・シンハル氏だ。
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「たとえば、米国のAmazonは自社でアドエクスチェンジを所有しているが、メディアの購入についてはザ・トレード・デスク(The Trade Desk)のようなサードパーティソリューションと提携している。それに対して、中国のeコマースプラットフォーム『JD.com』はDSPを所有しており、ほかのどのDSPとも提携していない」。
中国におけるプログラマティック市場の概要を以下にまとめた。
バイサイド
中国ではバイサイドのビジネスの方がセルサイドよりダイナミックだ。中国では米国と異なり広告主とパブリッシャーのほとんどが、透明性に大きな関心を寄せていない。そのため、企業がバイサイドとセルサイドの両方のソリューションを提供していることが多いと、モバイルアドテク企業タプティカ(Taptica)のCEO、ハガイ・タル氏は述べる。「中国ではパブリッシャーやベンダーが、DSPとSSPの両方を構築し、それぞれの側で30%の手数料を取っている例が見られる」。
モバイル分析企業アップス・フライヤー(AppsFlyer)で中国担当マネージャーを務めるウェイ・ワン氏も、中国ではSSPとDSPの境界線が曖昧だという点に同意する。さらに、データ管理プラットフォーム(DMP)すら、境界線が曖昧な場合があるという。同氏によれば、DSPと同時に自社のアプリトラフィックと、一般のアドエクスチェンジから購入した広告インベントリー(在庫)で構成された広告ネットワークを所有している企業は、非常にありふれた存在だという。
「このような企業は、自らを『DSPAN』と呼んでいる。彼らの多くは、DSPの隆盛に追いつこうとする独立系モバイル広告ネットワークだ」とワン氏はいう。
DSPANモデルの問題は、余ったインベントリーを安値で大量に購入し、かなりの高値で広告主に売りつける企業がいることだ。さらにこうしたDSPは、エクスチェンジでインベントリーを購入する前に、まずは自社の広告ネットワークで広告インベントリーを販売する傾向があると述べるのは、DSPのアイクリック・インタラクティブ(iClick Interactive)でマーケティング担当バイスプレジデントを務めるセリーナ・ウォン氏だ。「ただし、すべての企業がこのようなことをしているわけではない」と彼女は指摘する。「DSPANによっては、技術料しか取らないところもある」。
インベントリーを安値で買い付けて高値で売り抜けるアドテク企業は米国にも存在する。だが、中国では第3者による市場の評価が行われないため、そのような行為がより表に出にくいと、インモビのシンハル氏は指摘する。「中国の大手パブリッシャーは、外部の測定企業が自社のインベントリーにアクセスすることを認めていない」。
中国のプログラマティック市場で大きなシェアを占めているのは、BATと総称されるバイドゥ(Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)の3社だ。BAT以外の大手の独立系DSPにはアイピンユー(iPinYou)、リーメイ・テクノロジーズ(Limei Technologies)、アドセイム(AdSame)などがあると、アップス・フライヤーのワン氏はいう。
また、中国ではエージェンシーのトレーディングデスクが米国ほど大きな購買力をもっていないとシンハル氏は指摘する。中国のブランドは、テクノロジーベンダーと直接提携することを好み、エージェンシーにはプログラマティックキャンペーンのみを依頼するからだ。
「中国では、エージェンシーを活用するより、ブランドと直接提携する傾向が強い。中国のエージェンシーはメディアをそれほどコントロールしておらず、メディアバイイングの意思決定をしていないからだ」と、シンハル氏は付け加えた。
セルサイド
中国には独立系のSSPはほとんどいない。その理由は大手パブリッシャーが自社で構築したSSPでトラフィックをできるだけ高値で販売するなか、小規模なパブリッシャーは自社の広告インベントリーをBATなどの大手広告ネットワークに販売するのが普通だからだと、アップス・フライヤーのワン氏は説明する。「ほとんどのSSPは位置情報を使ったマッチング系アプリのモモ(Momo、陌陌)、ライブストリーミングサービスのヨウク(Youku、优酷)、及びアイチーイー(愛奇芸:iQiYi)といった大手アプリだ」。
欧米のアドテク企業が中国で果たす役割
最近では、米国の大手アドテク企業の多くが中国に進出している。たとえばザ・トレード・デスクは2017年、上海にオフィスを開設した。また、チューブモーグル(TubeMogul)は2016年8月、上海の営業社員を6名に増やし、成都にある研究調査センターのエンジニアを50名に増員したと報じられた。その後、同社は11月にアドビシステムズ(Adobe Systems)に買収されている。ただし、このような欧米系アドテク企業が中国で事業規模を拡大するのは難しいと、中国のあるアドテク企業幹部は、匿名を条件に話してくれた。
この幹部によれば、欧米のプログラマティック企業の多くが手がけているのは、中国でのプレゼンスがない欧米ブランドが、中国メディアで中国のオーディエンスをターゲットにするのを支援する「インバウンドビジネス」か、テンセントやファーウェイ(Huawei)といった中国ブランドが欧米メディアで世界中のオーディエンスをターゲットにするのを支援する「アウトバウンドビジネス」だという。
欧米のアドテク企業で、「中国国内向けのビジネス」を獲得できたところはほとんどない。国内向けビジネスとは、国内ブランドとの仕事や、あるいは、すでに中国にオフィスがあり中国のパブリッシャーやアプリで中国の顧客をターゲットにしている化粧品大手ロレアル(L’Oréal)やプロクター・ アンド・ギャンブル(The Procter & Gamble)との仕事だ。
「欧米企業がアウトバウンドビジネスとインバウンドビジネスだけを行っていれば事業は安泰だが、規模を拡大することはできない。なぜなら、利益が回っているのは国内向けビジネスだからだ」とこの幹部は指摘する。さらに、欧米のアドテク企業が、中国国内向けビジネスの取引で現地のDSPと競争するのは難しいという。その理由は、テクノロジーの統合が必要になること、そして割引やリベートといった柔軟な商業的施策が難しいことだ。
「言語の壁はそれほど問題ではない。ブランドやエージェンシーは中国語で広告を作成できるからだ」と、この幹部はいう。「ビジネス文化とパブリッシャーとの交渉のやり方のほうが、より大きな問題だ」。
Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)
Image from 米DIGIDAY