[ DIGIDAY+ 限定記事 ]デジタル広告ターゲティングにおける手法は、必要に迫られて残酷なまでの変化を強いられている。この変化を突き動かしている要因が、これまでアドテクのビジネスモデルで中心的な役割を果たしてきたサードパーティのクッキーからの脱却だ。この記事では、米DIGIDAYの調査に基づく広告ターゲティングの現状についてご紹介する。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]デジタル広告ターゲティングにおける手法は、必要に迫られて残酷なまでの変化を強いられている。この変化を突き動かしている大きな要因が、これまでアドテクのビジネスモデルで中心的な役割を果たしてきたサードパーティのクッキーからの脱却だ。
それ以外にも原因はある。AppleのブラウザであるSafariではITPというアンチトラッキングが導入され、プログラマティックによる収益化の道はほぼ閉ざされた。一方Googleはセカンドプライスオークションからファーストプライスオークションへと移行しており、個人情報に配慮した広告環境というトレンドとあわせて、今後も広告ターゲティングの手法は変化に拍車がかかると思われる。
この記事では、米DIGIDAYの調査に基づく広告ターゲティングの現状についてご紹介しよう。
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ファーストプライスオークションの導入
オークション分野における今年最大の変化に挙げられるのが、Googleのファーストプライスオークションへの参入だろう。アドテク幹部のあいだでは、このGoogleの動きに呼応して今後さらに業界全体に変化が波及していくのではないかと予想する声もあがっている。
昨年11月の米DIGIDAYによる調査に回答したパブリッシャー87社のうち、78%でプログラマティック収益が増加しており、その理由としてファーストプライスオークションへの移行を挙げている。ファーストプライスオークションでは、インプレッションのためにオークションに参加して競り落としたメディアバイヤーは入札額をそのまま支払う必要がある(セカンドプライスオークションであれば、確実に勝つために異常に高い額で入札して競り落としても、2番目に高かった入札額プラス1セントの支払いで済む)。これに伴い入札戦略をよりスマートに洗練させる必要がある。パブリッシャーの収益が少しのあいだ増加したのもそのためだ。
この増加が今後も続くかといえば、それはまた別の問題だ。バイヤーが徐々に変化に対応できるように、デマンドサイドプラットフォーム(DSP)はビッドシェーディングという仕組み導入した。ファーストプライスとセカンドプライスの中間額でバイヤーが購入できる仕組みだ。だがこれに対する警戒心を強める広告主が増えており、アドテク関係者のなかでは近いうちになくなるだろうと予測する声が多い。パブリッシャー各社はGoogleがファーストプライスオークションと並行して導入した統一価格設定についていまだに不満を抱えている。これによって広告収益増の収束につながる可能性もある。
存在感を薄める行動ターゲティング
サードパーティのクッキーからの脱却、規制への遵守、オープンオークションでの入札リクエストにおけるユーザー個人情報の適切な使用、といった理由から広告ターゲティング形式は変化しつづけている。英国の個人情報保護監督機関であるICO(Information Commissioner’s Office:情報コミッショナー局)は、今後もGDPRを軽視し続ける企業に対する姿勢を明確にしている。ユーザーの個人データを大量に使用する行動ターゲティングだが、その効果には疑問の声が上がっている。とりわけ問題視しているのがパブリッシャーで、6月に米DIGIDAYが行ったアンケートに回答したパブリッシャー40社のうち、行動ターゲティングによって広告収益が減少したパブリッシャーが23%、変化なしが45%を占めた。
新たな流行:文脈ターゲティングとプログラマティックギャランティード契約
次世代の正確性を重視した文脈(コンテクスチュアル:Contextual)ターゲティング商品をプッシュするメディアバイヤーが増えている。従来の文脈ターゲティングよりさらに詳細なターゲティングが売りのこうした商品は、ワシントン・ポスト(The Washington Post)などのパブリッシャーが需要に応える形で、いちはやく導入している。2月に米DIGIDAYの行った調査では、パブリッシャー103社のうち28%が2018年以降、文脈ターゲティングの収益が増加したと回答している。今後市場にはさらに商品が投入され、この割合も増加していくと予想される。アドテク企業サイズミック(Sizmek)の広告ターゲティングプラットフォーム「ピア39(Peer39)」のようなコンテクストアドテク事業の買収もはじまっている。ピア39は8月第1週に広告業界のプライベートエクイティ企業に1800万ドル(約19億円)で売却された。
ここ数カ月で、プログラマティックギャランティード契約による収益増を報告するパブリッシャーが増えている。2月に行われた米DIGIDAYの調査では、パブリッシャー103社のうち44%が2018年にプログラマティックギャランティードの収益が増加したと回答している。たとえばVice Mediaでは昨年度の同収益が156%増加しており、ほかのパブリッシャー各社でも同様の大幅増を記録している。オープンエクスチェンジ購入はいまでも重要性を保っているが、プライベート契約をよりプッシュしたいと考えているパブリッシャーも存在する。たとえばガーディアン(The Guardian)とタイムズ・オブ・ロンドン(The Times of London)はオープンオークションを通じた自社サイトでの広告購入機能の縮小または廃止を行っている。よりブランドセーフな環境を広告主に提供できる、プログラマティックギャランティードとプライベートマーケットプレイスによる購入を推進するためだ。
アドテクの浄化が重視されている
これまでデジタル広告業界に長い間はびこってきた寄生虫、アドフラウドはいまでも市場の収益を蝕んでいる。フラウドがとりわけ急増しているのが、スマートテレビやモバイルアプリといったOTT(オーバー・ザ・トップ)環境だ。これに対抗してIAB Tech Labの「Ads.txt」や「app-ads.txt」といったツールが開発されたが、「Sellers.json」 やサプライチェーンオブジェクトといったさらに新しいツールによって今年のアドテクベンダー業界に大きな変化が生まれるだろうと予測する同業界関係者も少なくない。同関係者らは、無駄な中間業者が省かれることで広告ターゲティングがスリム化するだろうと期待している。また、サーバー側の広告挿入といったOTTのフラウド技術の抑止ツールも重要になる。アドフラウド対策企業の米ピクサレート(Pixalate)の試算によると、OTTにおけるフラウドの増加によってリスクが生じるマーケティング予算は2019年度で3億7500万ドル(約395億円)、2020年度で5億ドル(約527億円)となっている。
Jessica Davies(原文 / 訳:SI Japan)