ads.txtは、デジタル広告業界の不正防止の取り組みのひとつだ。パブリッシャーが導入を進めるなか、バイヤー側は、この制度の施行によって、リーチや価格の面で妥協を強いられるのではないかと懸念していた。こうした点について、電通イージス系エージェンシーの360iは、「心配無用」だという判断を下した。【※本記事は、一般読者の方にもnoteにて個別販売中(190円)です!】
ads.txtは、デジタル広告業界の不正防止の取り組みのひとつだ。パブリッシャーが導入を進めるなか、バイヤー側は、この制度の施行によって、リーチや価格の面で妥協を強いられるのではないかと懸念していた。こうした点について、あるエージェンシーは、「心配無用」だという判断を下した。
電通イージス系エージェンシーの360iは、全クライアントを対象に、Googleのデマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)を利用したプログラマティック入札において、ads.txtのみを購入可能とするオプションを導入した。同社のシニアバイスプレジデント兼プログラマティック責任者であるコリン・クレベノ氏によれば、この決定は、今年8月に少数のクライアントを対象にads.txtオンリーの入札オプションを試験導入した際、スケールの低下やCPMの上昇といった悪影響が見られなかったことを受けてのものだという。
ads.txtの具体的な影響
リーチと価格に対するads.txtの影響を検証するため、360iは、Googleが今年6月にDSPに追加したオプションを利用した。これは、広告主が購入できる在庫を、プログラマティックによる販売や再販を許可された企業を列挙するads.txtファイルがアップロードされているサイトのものだけに限定するというものだ。
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360iは、8月にads.txtオンリーオプションを利用した匿名クライアント3社の結果を公開した。うち2社はCPMがわずかに上昇し、1日あたりのインプレッションは3社ともわずかに減少したが、これらの変化は微々たるものだと、クレベノ氏はいう。
最初のクライアントの場合、ads.txtオンリーオプションの導入後、CPMは2.25ドルから2.48ドルに上昇し、デイリーインプレッションは110万から100万に減少した。2番目のクライアントの場合、CPMは導入前の3.09ドルから2.80ドルに下落し、デイリーインプレッションは240万から180万に減少した。残る3社目では、CPMは4.51ドルから4.62ドルに上昇し、デイリーインプレッションは62万8000から43万6000に減少した。
360iのクライアントがads.txtオンリー入札の導入後に経験した、インプレッションの減少とCPMの上昇は、導入前と比較して顕著なものではなかったと、クレベノ氏はいう。プログラマティック広告の価格とリーチにはもとから周期変動があり、観測された変化は通常の変動幅に収まるという。また、CPMが下落するケースもあった。
Googleの広報担当者は、ads.txtオンリーオプションを利用した広告主やキャンペーンの数について、またオプションを利用する場合と利用しない場合を比較したインプレッションと価格について、コメントを控えている。
第4四半期に向けた施策
360iが価格とリーチに対するads.txtの影響に満足していることを示す、もっとも説得力のある証拠として、クレベノ氏があげたのは、同社がGoogleのDSPを利用するクライアントに対して、2018年の第4四半期も引き続いてads.txtオンリーオプションを提供する予定だという点だ。ここで重要なのは、第4四半期は通常、広告主がアドバイイングを行ううえでもっとも重要な時期であり、かつ広告のリーチと費用にもっとも敏感になる時期だということだ。
「こうしていち早くテストを行った結果、我々は手頃な価格とクライアントが設定したKPIの達成に関して、自信を持って第4四半期に臨むことができる」と、クレベノ氏はいう。
360iによるads.txt限定入札の導入は、2017年5月に発足したこの不正防止イニシアチブの進展を物語っている。パブリッシャーは当初から積極的で、不正防止に取り組むアドテク企業ピクサレート(Pixalate)によれば、プログラマティック広告売上の上位1000サイトの75%が、今年6月末までにads.txtファイルをアップロードした。メディアマス(MediaMath)やGoogleのDisplay & Video 360(かつてのDoubleClick Bid Manager)といったDSPは、広告主向けにads.txtの利用を促すツールを提供した。一方、アドバイヤーはこれまでads.txt限定入札の導入に慎重で、いまのところ価格とリーチへの影響を見極めている段階だ。
360iがads.txtオンリー入札を導入したというだけでは、他のアドバイヤーが後に続く理由にはならないかもしれない。とはいえ、他社も独自に調査を進めているようだ。RPAはパブリックメディアプレシジョン(Public Media Precision)といったエージェンシーは以前、DSPのads.txtオンリー入札オプションの試験導入を行い、全面的に導入した場合に広告パフォーマンスにどう影響するかを見極める予定であることを明かしている。かれらが360iと同様の感触を得たとしたら、ads.txtの普及は加速し、ビューアビリティに並ぶデフォルトの入札オプションになるかもしれない。
Tim Peterson(原文 / 訳:ガリレオ)