ここ数年マーケターたちは、インハウスチームによって、ブランドのコントロールを取り戻すことに成功してきた。しかし、これを実施したからといって、すぐに問題が解決するわけでもなく、プロセスも単純ではない。マーケターのなかには、エージェンシーを再起用するものが出てくるだろう。ただし今回はハイブリットな形での起用となる。
ここ数年マーケターたちはブランドのコントロールを取り戻すことに成功してきた。これは、クリエイティブ、ソーシャル、プログラマティック、そして時にはメディアバイイングといったエージェンシーの機能をインハウス化する形で行われてきた。ただコスト削減だけでなく、フットワークを軽くすることも狙いである。しかし、これを実施したからといって、すぐに問題が解決するわけでもなく、プロセスも単純ではない。この現実にマーケターたちが気づきはじめるとともに、エージェンシーを再び起用しはじめるところが出てくるだろう。ただし今回はハイブリットな形での起用となる。
エージェンシーによるマーケティング業務をインハウスに取り込むことの現実的な課題が明らかになったいまでは、CMOがインハウス部門の設立をCEOやCFOに説得するのもさらに困難になるだろう。エージェンシー業務のインハウス化を実践するマーケターたちが増えるにつれて、そのことが抱える困難がより明確になってきている。特にプログラマティック部門において顕著だ。問題は無数に存在している。なかでも大きいのは人材の調達だ。マーケターたちはなかなか人材を見つけられず悩んでおり、見つけたとしてもその人材を維持できずに苦しんでいる。コスト削減の解決策になると思っていたが、実際はそうではなかったと気づくマーケターたちもいる。インテル(Intel)のエージェンシー・インサイド(Agency Inside)やトムソン・ロイターズ(Thomson Reuters)のGSCといったエージェンシー業務のインハウス化の成功例のいくつかが、いまになって解体されつつある。またUber(ウーバー)のような大手のマーケターたちもインハウスのマーケティングスタッフの頭数を減らしている。インハウスエージェンシーの長期的な実現可能性がいま、注目を集めている。
インハウスチームの問題点
インハウスチームを作ることに関して、マーケターたちは1年を通して懸念を表明してきた。「外部の機能をインハウス化しようとすると、非常に大きな業務が必要になり、最終的にはエージェンシーと同じだけのスタッフ数が必要になる」と、マーケターのひとりは語った。
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「(インハウスまたはエージェンシー)どちらであっても、ちゃんとノーを言ってくれるチーム、もしくは自分たちのアイデアが良くない時は良くないと、ちゃんと言ってくれるチームと一緒に働く時に、最善の結果が生まれる。大きな企業においては時々、エージェンシーが入ってきて『このアイデアは悪い、カルチャーの流れが理解できていない』と、はっきり伝えてもらうことが必要だ」と、もうひとりのマーケターは述べた。
別のマーケターのひとりは率直にインハウスエージェンシーの問題を次のように評した。「外部エージェンシーはいつも反応が早い。インハウスチームのスタッフに対して週末に返事をもらう事はできない」。
ハイブリッド形式のメリット
だからといって、ビジネスがすべて外部エージェンシー起用へと完全に戻ってしまうわけではない。マーケターやエージェンシーエグゼクティブたちは新しいハイブリット型のモデルが立ち上がってくるだろうと考えている。業務はインハウスチームとエージェンシーの間で分割され、ときおり、このふたつが協働することで、マーケターたちが両方のもっとも良い部分を活用することができるだろう。世界最大のビール醸造企業であるアンハイザー・ブッシュ(Anheuser-Busch)は、すでにハイブリッド型を運用している。ここ1〜2年、アンハイザー・ブッシュ・インベブ(A-B InBev)はインハウスチームを構築したが、それはエージェンシーとの関係を減らすことを目的とはしていなかった。むしろ、「大きなクリエイティブエージェンシーが(スーパーボウルのような)大きなアイデアに集中できるよう時間を生み出す」ためのハイブリッドモデルを作ることが目的だったと、アンハイザー・ブッシュ・インベブのCMO、マーセル・マルコンデス氏は以前、米DIGIDAYに語っている。
このように、エージェンシーがリーダーとなり、インハウスチームが日常的な業務の処理を行うという形はマーケターたちの間で人気を得るだろうと、コンサルティング企業ジャックマン・リインヴェンツ(Jackman Reinvents)の戦略・アクティベーション・オペレーション部門のシニアバイスプレジデントのサンドラ・ダフ氏は述べた。インハウスでクリエイティブ機能を持っている企業では、時間が経つにつれてこれがもともとの意図を失い、制作部門と化してしまう可能性がある。その点でもハイブリッド形式が人気になる可能性は高い。「そのため2020年には状況がぐるりと一巡して、もう一度、エージェンシーたちがクリエイティブにおけるリーダー的な役割を担い、ブランドに大胆なアイデアを提供し、小規模な業務遂行にはインハウスの縮小された部門を使う、ということが起きるかもしれない」。
この事態はインハウスでクリエイティブ業務が扱われている企業だけに限らない。「我々のメンバーが聞いたところによると、インハウス化の現状レベルでは、彼らの多くがこうした社内リソースと提携する方法を模索しており、社内リソース自体が顧客になっているという」と、4A’sのエージェンシー管理サービス部門シニアバイスプレジデントであるマット・カシンドーフ氏は言う。彼はこの状況が「スローダウン」し、ハイブリッドモデルが今後は人気を増すだろうと付け加えた。
「互いを補い合うことが重要」
エージェンシーやブランドがハイブリッドモデルを長期的にどのように管理していくかは、まだ不明確だ。当然、マーケターたちがそれまで外部に委託していた業務をインハウスへと取り込んでいく事態も、いくつかの業務が依然として外部エージェンシーに残されるということであれば、エージェンシーたちの不安は減るだろう。
「ビジネスの動きは停滞するか、減衰すらするかもしれない。しかし新しい統合の動きは、それでも普及するだろう。インハウスへのエージェンシー業務取り込みと何も変わらない。我々はクライアントとエージェンシーの協働関係の新しい時代に突入しつつあると思う。この関係は運用プロセスにおいて、お互いに頼ることで最適化されていく」と、BBDOの統合プロダクション部門責任者のデーヴィッド・ロルフ氏は語った。「エージェンシーたちもまた、あらゆる局面を活かすことでチャンスを生み出すことができると気づくだろう。反応の早さ、積極的なアプローチ、そしてお互いを補い合うことが重要だ」。
※ 記事公開後、タイトルの表現に一部修正を加えました。
Kristina Monllos(原文 / 訳:塚本 紺)