消費者のデジタルプライバシーを巡る争いがますます複雑になり熾烈さを増している傍らで、多くの消費者は先が見通せない戦塵の中に取り残されたままである。Firefoxを運営する非営利団体Mozillaは、この状況をラリー(Rally)で変えようとしている。
消費者のデジタルプライバシーを巡る争いがますます複雑になり、熾烈さを増している傍らで、多くの消費者は先が見通せない戦塵のなかに取り残されたままでいる。
Firefoxを運営する非営利団体Mozillaは、この状況を「ラリー(Rally)」で変えようとしている。ラリーは、インターネットを利用した調査研究の民主化を図り、データがどのようにプラットフォーム企業や民間企業によって収集され、利用されているのかを一般消費者に広く知ってもらえるように開発された、新しいブラウザ拡張機能だ。
5月のアルファ版を経て、6月25日に公開されたラリーでは、インターネット利用に関する調査研究プロジェクトが行うトラッキングに、ユーザーが参加できる。通常、このような調査研究を行うことは難しい。インターネットの日常的な利用のかなりの部分を支配するプラットフォーム企業(Google、Facebook、Amazonなど)は、研究者、非営利団体、サードパーティにデータを渡さないことが多いからだ。
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ラリーを利用する最初の3つのプロジェクトのう2つは、学術機関と共同で開発されている。3つ目のプロジェクトは、最近認識されるようになった「ドゥームスクローリング(doomscrolling)」 という、暗くネガティブなニュースばかり検索してしまうユーザーのスクロール行動に焦点を当てたものた。これはMozillaが社内で実施することになっている。
ラリーのプロジェクトリードを務めるレベッカ・ワイス氏は「これらの企業は人の行動からモデルを構築し、オンライン上での行動予測に使用している。さらにはオフラインの行動予測も増えている」と、話す。「物事がデータに基づいて築かれるときに、そのデータがごく一部の人たちに掌握されるのならば、この損失は社会にも影響を与えることになる」。
重要なキーポイント:
- ワイス氏によると、現時点でラリーは「数百人」に使用されているのみであるが、調査パネルの大幅な拡大が目標だという。
- ラリーユーザーに関するデータのどれが渡されるかは、参加するプロジェクトの性格によって異なる。閲覧のみをトラッキングするプロジェクトもあれば、ソーシャルメディアでコンテンツを共有したかなど、ユーザーの行動をトラッキングするプロジェクトもある。また、データが渡されるのは、調査研究プロジェクトを実施する組織のみである。
- Mozillaは、個人データがどのように使用されているかをより明確にするプロジェクトを、消費者相手のスタートアップ企業や団体と提携して実施することに前向きではあるが、消費者データの販売など、最初から商用目的での利用は行わない。
- ラリーは19歳以上のインターネット利用者が利用できる。
ネイバーフッドウォッチ
これまで、人々のインターネット上での行動を研究するために学術研究者がGoogle、Facebook、Amazonなど、データを大量に収集するデジタル企業のデータにアクセスしようとしても、簡単にはできなかった。近年、いくつかの企業がその構図を変えようと取り組みを始めており、その多くはブラウザ拡張機能を使用して行おうとしている。
非営利メディア会社のザ・マークアップ(The Markup)が2020年後半に立ち上げたシチズンブラウザ(Citizen Browser)のプロジェクトでは、拡張機能をブラウザにインストールし、マークアップの研究者がさまざまなプラットフォームは利用時にどのような動きを見せるのかについて情報を集められるようにした。最近シチズンブラウザは、Facebookがユーザーにいまだ政治団体の推薦を行っていることを突き止めた。これは、1月6日の米議会襲撃事件のあと、Facebookがやめると誓ったことである。
これとは別に、目に見えない形で、当初はパブリッシャーのサイトにおける広告表示を全面的に変えようとしていたスタートアップ企業が、現在はより調査に焦点を当てた製品に注力している。
しかし、現時点では、このような取り組みの多くは規模の小さいものでしかない。たとえばシチズンブラウザ・プロジェクトの人数は1200人ほど。代表的な例ではあるが、数十万規模の市場調査パネル、さらには一部広告代理店のパネルに比べれば、はるかに少ない人数である。オムニコム・メディアグループ(Omnicom Media Group)では先月後半に2億人近い消費者パネルの存在を明かしている。スタットカウンター(Statcounter)によれば、ラリーは数多くのブラウザに対応しているものの、FirefoxがPCウェブブラウザのグローバル市場に占める割合は約7%である。
ワイス氏はラリーのパネリストの目標人数について具体的な数字は教えてくれなかったが、市場調査会社のパネルに匹敵できるだけの規模に積み上げていくことがMozillaの目標のひとつであると話した。
鏡をかざす
ラリーで成功できるか、ラリーは役に立てるのかは、そのパネルの規模にかかっている。そしてその規模を拡大していくには、ラリーが使いものになることを利用者に示していくほかない。
「現在、集中的に取り組んでいるのは、利用者コミュニティがラリーに何を求めているかだ」とワイス氏は話す。
現時点では、ラリーはある種、インターネット利用者の市民意識に訴えるものだ。だがワイス氏は、外部団体との調査研究やコラボレーションがより洗練されていったあかつきには、パネルのほかのユーザーたちの行動に関する情報をラリーユーザーに還元していきたいと語る。これは一種の価値交換として、そして、大手デジタル企業が消費者から何を入手でき、実際入手しているのかどうかを理解するためのものとしてだ。
「この世界では、データの集合を使用して、推論が導き出される」と、ワイス氏は語る。「自分をその集合に照らし合わせることによって、相手がどれだけ知っているのかを理解することができる」。
[原文:Cheat Sheet: How Mozilla aims to reveal the nature of consumer data collection with Rally]
MAX WILLENS(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)