年末の「予算消化」に見る、マーケティングの現実:「非合理的な予算の破棄」なのか?

アメリカではサンクスギビングの後の1週間、広告バイヤーは大量のeメールをアドテクやマーテク(マーケティング・テクノロジー)ベンダーたちから受け取る。12月31日までに年間のマーケティング予算を使い切らないといけないバイヤーへ、「ウチで使ってください」という催促をするものだ。オプションは数多い。リストレンタル、Googleアドワーズ、データベースのクリーンアップ、などだ。

少し奇妙に感じられるが、ほとんどのバイヤーが似たような経験をしている。取材に応じてくれたバイヤーのひとりは、こういったオファーによく応じるという。年末のこの期間は非常に素晴らしい時期なのだ。使ってしまうか、無くなってしまうか。マーケティング支出に関してはそんな事態が起きる。

「使ってしまわないと失ってしまう2017年の予算についてクライアントから伝えられるという経験は、我々は確実にしている。その予算は本当に非効率的な方法で使ってしまうしかなかった。1月まで待てばもっと良いCPCやCPAで使えたのに、12月に急いで使ってしまうといった具合だ」と、アドバイヤーのひとりは言った。

「私がこの業界に入ったときから、おそらくその前からこの事態は起きている。ビジネスは来年に支出を持ち越す、ということをしない。常に決算年度内での予算となる」と、大手エージェンシーで働く、エグゼクティブのひとりは語った。この人物は業界で働いて25年になる。

「非合理的な予算の破棄」

エッセンス(Essence)のグローバル・メディア・プランニングのエグゼクティブ・バイスプレジデントであるブライアン・クリック氏はこの現象を「非合理的な予算の破棄」と呼ぶ。「それは実際に起きていて、ビジネスに損失を生んでいる。お金が金庫から出てきて、それを処理しないといけないという考えが存在している」。

マーケティングに関して、効率性をともなった目標設定が欠如していることが、原因のひとつだ。マーケターたちはしばしば、効率性をともなう目標設定のための理論モデルを学ぶ。たとえばサインアップの数が増加するグラフを見て、ここまで増加すれば投資が収益へとつながる、と理解することだ。たとえば売上ごとのコストの目標が5ドルだとすると、マーケットを査定して収益が減らしてしまう分岐点を導かないといけない。この目標なら毎月100万ドルの支出が最適だ、という具合だ。

しかし、クリック氏によると、マーケターたちはこの最適な支出レベルの予測に年間を通して失敗しているという。もし予測を出していれば、11月には収益を生まない支出がどこであるかを導き出すためのデータが11カ月分あるということにあるのにだ。「これをしているマーケターたちはあまりいない。ブランドマーケターの体質ではないのだ。これは彼らの仕事が毎年ループを繰り返すという性質による」と、彼は言う。

年末に予算の余りを「捨てる」ということをせずに、年間を通して均一に割り当てていれば、リターンが5%から10%増加していただろうというケースをクリック氏はエッセンスで見てきたという。

「使うべき場所」に使うべき

メディア・キッチン(The Media Kitchen)のプレジデントであるバリー・ローウェンソル氏にとって、問題は広告支出における「無駄」ではないという。むしろ、ブランドたちがいまだに近代的な手法で予算組みをしていないことだ。ブランドが広告支出に関して、固定されるフォーマットはいくつもある。地理的なものだったり、チャンネル、そして今回のように時間に縛られるのだ。「すでに決定されたことだからといって、それに縛られるべきではない。パフォーマンスが一番良いところに予算を動かすべきなんだ。もしもお金の使い道がなければ、そのお金は使うべきではないお金だ」。

一方で360iのチェアマンであるブライアン・ウィーナー氏は、年末に予算を使い切ろうとすることは必ずしも悪いことではないという。ただリターンが良くないものを買ってしまうと、それは問題だ、と。「私にとっては、そここそがリトマス試験紙だ」。

そうではなくて、「10万ドルが残っていて、使うべき場所がある」と、マーケターたちが言えるのであれば、それは大丈夫だという。たとえばCRMデータベースのクリーンアップに使うのに最適だ、といった具合だ。

ウォール街の影響のせい

バイヤーではなくセル側にとっては、使われずに余った予算をそもそも計画しているのかどうかは不明瞭だ。アドテクベンダーは一般的にはセールス戦略として使われない予算というのを持ちがちだ。パブリッシャーのエグゼクティブのひとりは、どんな予算も「使えるものは使う」準備があるといった。第四四半期の予算が増加することは、場合によってはチャンスかもしれない、しかし、必ずしも戦略やオペレーションのプロセスの一部として見なされてはいないようだ。バイヤーたちはこのお金に関して、特定のパブリッシャーに使用するように指示されることがある。これは決まったレートを守るためだ。しかし、こういったルールはテレビ予算がいまよりもずっと大きかった時代に「人が作り上げた」ルールであって、デジタルが生み出した流動性に対応できていないだけだと、ローウェンソル氏は言う。彼によるとバイヤーの多くがこの考えに同意するという。

某エージェンシーのインベスト部門のトップも語ってくれた。使ってしまうか、失ってしまうか、という考えは薄れつつあるという。今日では報告の方法も違ってきている。「昔であればテレビ局は目標を達成するために第四四半期に予算を必要とした。クライアント側にこの支出を取り出すことができる場合は、支出させるための取引をクライアントと生み出したものだ」。彼によると、彼のチームはいまでもこの時期になると余った予算を見越して、いきなり電話がかかってくることがあるという。しかし、状況は少しずつ変わってきている。デジタルメディアはもっと流動的だ。そこには変わる勢いがある。

なぜこんな事態が生まれたのだろうか。ローウェンソル氏によると、それはウォール街の四半期や年度の扱い方に影響されたせいだという。特に上場企業は年度末の予算問題に敏感だ。

CFOとCMOの関係性も影響

もうひとつの可能性は、最高財務責任者がマーケティング部門の支出における最大の障害となっているという点があげられる。経費削減という観点で、マーケティングは常に削減のリスクを抱えている。アーンスト・アンド・ヤング(Ernst & Young)が昨年行った調査によると、最高財務責任者のうち、一層マーケティングに関わるようになったと回答したのは、63%のみであった。最高マーケティング責任者との関わりにおいてカルチャーやプロセスの違いから、大きな相違が存在していると、彼らは強調した。レポートは「最高財務責任者は自分の貢献を予算をキープするという役割にあると考えている。価値を生み出す、という観点への移行はまだ起きていないようだ」と述べている。

「最高財務責任者と最高マーケティング責任者の関係がそのような(価値創出)観点で築かれていないとする。そうすると最高財務責任者にとっては、最高マーケティング責任者は収益を生み出すのではなく、コストの原因であると認識している。そのためこの『使ってしまうか失うか』という慌ただしい事態が起きるのだ」と、クリック氏は言う。

もちろん、広告支出が高いのは「使うか失うか」が起きてるからだけではない。10月から12月はホリデーシーズンで、広告支出は常に高額になりがちだ。それは、消費者の支出が増加すること、そしてブランドがその消費者を獲得しようとすることに起因する。エプシロン(Epsilon)による推測ではホリデー中は広告インプレッションが50%上昇する。また注文価格の平均も30%増加するという。インプレッションやサイト訪問者が多いのであれば、その期間に広告費を増やすべきだ、という考えだ。

ゼロベースの予算組みも原因

ゼロベースの予算組みも原因のひとつだ。世界で二番目に大きな広告主であるユニリーバ(Unilever)のようなマーケターは、昨年ゼロベース予算組みに取り組みはじめた。これによってすべてのマネージャーが、予算はゼロから出発し、そこからあらゆるコストをちゃんと説明して正当化しなくてはいけない。最初は2015年にタイで試験的に運用されたプログラムだが、これによって全体における支出を2%減らしている。しばしばゼロベースの予算組みには、更新時期というのがある。それによってマーケティングだけでなく、すべてのマネージャーが、翌年に同じ程度の、もしくはそれ以上の予算を獲得するために、とにかく大きな支出を生み出そうとする。「使わなければ、必要がないということになってしまう」と、B2Bマーケターにおけるセールスマネージャーが語ってくれた。

問題は、こういった考えはゼロベース予算の本来の狙いではないことにある。ゼロベース予算は正しく使われれば予算の無駄使いを削ることができる。しかし、多くの予算が1月にゼロからはじまることで、マーケターたちは第四四半期を「使うか失うか」の時期だと考えてしまいがちなのだ。

「あらゆることが時間尺度の設定を必要とする。決められた時間のなかで誰しも仕事をこなさないといけない。それは避けることができない。人間はそうやって思考するのだから」と、クリック氏は語った。

Shareen Pathak(原文 / 訳:塚本 紺)