「広告業界の将来は、いままでになく明るい」:ザ・トレード・デスクCEOが語るデジタル広告の現状

グローバル全体での広告支出は2018年、5876億ドル(約65兆円)に及ぶと予測されている。ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)のCEO兼創設者のジェフ・グリーン氏は、「そのすべてがプログラマティックに取って代わる日が来るのを業界は認識すべきだ」と語る。

アドテクノロジーによって、ブランドと消費者とのコミュニケーションが多様化し、デジタルへの広告予算の投資は、今後もますます成長すると見込まれている。しかし、ブランドセーフティ、アドフラウド、透明性、ビューアビリティなど、アドテクの進化は新たな問題も生んだ。そんななか、先述のグリーン氏の言葉は、アドテクが広告業界にもたらした変化と課題を受け入れつつも、とてもポジティブな印象だ。

DIGIDAY[日本版]は、プログラマティックがはじまって以来、DSPの開発に注力してきたザ・トレード・デスクの代表にインタビューを実施した。

業界はじまって以来、広告の将来は明るい

DSPが数年前に出てきた当初、アドテク企業はとても魅力的でもてはやされたが、2014年を境にアドテク企業へのVCからの投資は年々厳しくなっているという状況もある。しかしグリーン氏は、「広告業界にとって、いまほど将来が明るい状況はない」と明言する。その理由として、キャンペーンの効果測定がこれまで以上に可能になっていることと、全体のデジタル予算の支出が年間20%の成長を続けていることを挙げた。

「我々のビジネスも昨年比で100%成長を遂げた。グローバルの広告支出のすべてが(デジタルへの)移行期にあるといえる」とグリーン氏。

いまだザ・トレード・デスクの収益の90%は北米からとなっているが、アジアの成長率は300%になるという。同社の投資予算の割合は、2/3が北米以外のグローバルにまわるという。「私がウォールストリート街で金融機関と話すとき、将来の投資先について注目される分野はやはり、TV、モバイル、そして国際的な成長だ」。

トレンドになっているモバイルの成長については、「モバイルファーストだけをすべての市場でやみくもにやっていくことだけが将来のポイントではなく、デジタルで成功することが重要。その意味で、日本はデジタルのなかではリーダー的存在。オムニチャンネルのストーリーを伝えていくことが重要」と語った。

市場での差別化ポイントは客観性と技術

とはいえ、市場にはすでに沢山のアドテクプレーヤーが存在していて、レッドオーシャン化している。競合他社との差別化について聞いたところ、同社は2つの強みをもっているという。

ひとつは、メディアを所有していないため、ブランドに提供するプレミアムコンテンツにバイアス(偏り)がないこと。「Googleなどのグローバル大手競合と違って、我々が有する強みは客観性。GoogleはYouTubeやGoogle.comがあるので、それらを重視するために(広告配信面に)バイアスがかかってしまうだろう。しかし、我々はメディア資産を所有していないため、提供するサービスに対して客観性を保てることは大きい」。

ふたつ目は、ローカルなプレイヤーに対して、プログラマティックがはじまった当初から技術開発を続けてきたというアドバンテージがあるため、マーケットで優位性を維持できていることだ。

「我々の技術が意義ある形でローカルのプレイヤーよりもベターなものであり、かつ客観性があることで、大手ブランドや大手代理店を獲得できている。P&Gやナイキ、マクドナルドといった企業は広告を150カ国以上で展開しているが、それぞれの地域にそれぞれのプラットフォームがあるというわけではない。そこで、我々のようなグローバルなオムニチャンネルのプレイヤーが好まれる」。

国際的なブランドとのビジネス獲得のため、ローカルな市場でのキャンペーンを最適管理できるようにすることで、グローバルとローカルの両方に対して好循環を生み出しているということだ。

真のプログラマティックとは価格の発見ができること

また、語る者の立ち位置によって異なる定義がされがちなプログラマティック広告について、同氏が考えるプログラマティックの定義を聞いたところ、「先日それについては、Snapchatとも議論したばかり。我々にとっての真のプログラマティックは、価格の発見を可能にすることだ。十分なデータを持つことで、ある特定のインプレッションの価値をリアルタイムで分かるようにしている」。

「明確にしておきたいのは、FacebookやSnapchatがAPIを提供して、それを介して、顧客が予算だけを提示すれば、何に入札して買うかをプラットフォームが決める、という手法は私たちの考えるプログラマティックではない」と断言した。

また、日本市場では他国と比べてプログラマティックの普及が緩やかなことについては、「それぞれの市場で技術を採用していくスピードは違うと思う。たとえば、シンガポールでは線形の右肩上がりだが、日本やドイツはホッケースティック型。最初は採用スピードが鈍化するが、あるところからいきなり加速するポイントがある」。

さらに、プログラマティックの普及のためには、アトリビューションの見直しが要だと同氏。「ラストクリックやらラストビューを重視したアトリビューションはあまり良くない。しかし、それが一番プログラマティック予算が使われている部分でもある。転換期に重要なことは、ラストクリックのアトリビューションモデルからほかのモデルにシフトしていくことだ」と述べた。

代理店フィーの話はもっと語られるべき

次に代理店のマージンに対する透明性が業界で話題になるようになったことについて同氏に聞いてみた。これまで誰も十分に語ってこなかった問題であるため、今後十分に議論されるべき課題であると言及する。

「大手ブランドは代理店に対してプレッシャーを与え、マージンを引き締めている。それはまるで、すごく良いものをタダで欲しいと言っているようなもの。そういう状況があるからこそ、代理店は埋め合わせをするために、少ないインベントリで高いマージンを取ることで、インセンティブを取っている」。

「きちんとした会話をブランド側と代理店側でしていかなければならない。代理店が十分なマージンを取れるような環境を作り出していけるよう会話をすべき。それによって代理店は素晴らしい仕事ができ、利益も出せる構図ができると思う。ブランド側にはそれを可能にするための努力も必要になるだろう。我々の技術、または哲学は、代理店とブランドのあいだで合意がされれば、それに基いて、どのようなレベルでも透明性の実現ができると考える。そのためにはまずは合意が必要。それはブランドと代理店次第であり、現在、業界のなかで議論を待たれている部分だ。技術的な制限があって実現されていない問題ではない」と語った。

こうした代理店フィーの透明性が問われるようになったことで、ブランドが直接パブリッシャーと取引するケースも出てきている。そうした状況について、代理店を介さない直接的な取引は、結果的にブランドにとって選択できる余地を狭めていると語る。

「直接的なつながりが起こっている理由が、先ほど話した、代理店フィーの透明性が十分でなく、そこに信頼がないという問題があったからだと思う。ただ、そういう直接的なつながりでやっていくと、バイヤーが欲しいインプレッションや欲しい価格帯を選択することができなくなってきているようだ。それは、最適な状態とはいえない」。

「場合によっては、SSPがパブリッシャーに対してあまりに多くの請求をしてきた。そういうフィーは下がってきて、在庫のボリュームは上がることによって、バイサイドが選択できる価格的な価値は、あいだに入る会社が提供する価値よりも小さくなるだろう」。

Written by 中島未知代
Photo from The Trade Desk