「スマホネイティブ」を囲い込む、花王のメディア戦略:ミレニアル・Z世代の攻略法

1980年代以降に生まれた「ミレニアル世代」に続き、1990年代半ばから2000年代初頭生まれの「Z世代」(ジェネレーションZ)への注目が集まっている。彼らが購買力、存在感を持ったいま、テレビ広告がリーチしないといわれる、この層に向けたマーケティングとして関心が高まるのが、スマホネイティブな動画クリエイティブだ。

2015年以降、日本の広告における動画分野は転換期に差し掛かり、より一般に身近なものになってきた。ビューティ事業を中心に、デジタルを活用したマーケティングの戦略立案、実行、分析まで幅広く行う、花王 デジタルMKセンター コミュニケーション企画室の廣澤 祐氏は、「動画マーケティングのKPIは、(届けたい人に対する)リーチとブランドリフトの2点だ」と語る。

ミレニアル世代、Z世代の躍進を前に、マーケターはどのように動画マーケティングに取り組むべきか、廣澤氏が語った。

スマホネイティブな世代

1980年代以降に生まれ、2000年前後に成人を迎えたミレニアル世代は、インターネットが普及した環境で育った最初の世代として注目を集めてきた。最近では、1990年代半ばから2000年代初頭に生まれた世代が「Z世代」と呼ばれている。

これらの世代の特徴は「スマホネイティブ」だ。スマホアプリの接触時間が多くを占めるようになり、「ミレニアル世代の7割以上が情報検索にTwitter検索を利用している」ともいわれる。マーケターはこれらの世代とどう向き合い、どう商品を訴求していけばよいのか。

女性向け動画メディア「C CHANNEL(シーチャンネル)」が、11月9日に開催したイベント「攻略し共感させよ! 次世代マーケターセミナー」。そのなかのトークセッション「動画マーケティング最前線:Z世代・ミレニアル世代を攻略せよ!」に登壇した廣澤氏は、「自らもZ世代にあたる」と述べつつ、「テレビも好きでよく見るし、自宅にはWi-Fiがない」と、イメージされるようなZ世代とは異なる生活スタイルだと述べた。

そのうえで、マーケターとしてZ世代には注目しており「自分が知らないこと、わからないことは人に聞いて、実際に見ることを心がけている」と話す。ソーシャルなどを通じ、Z世代と積極的に交流の場を持つことも意識しているという。

かつての手法は使えない

かつての花王のマーケティングは、テレビを中心としたマス広告と、店頭が中心だった。

「テレビで存在感を出すことで店頭と交渉ができる。店頭に商品が積まれると、リアルでのプレゼンスが高まる」と、廣澤氏は説明する。「この連環により、お客様がどこにいても花王の商品を目にする、手に取る機会が高まるというモデルが確立されていた」。

しかし、昨今は、動画に限らずコンテンツを見られる場所が分散している。そのため、「これまでと同じモデルを確立しようとすると、オウンドメディア、ソーシャルメディア、バーティカルメディア、ECサイトなど、あらゆるメディアで消費者がコンテンツに接触できるようにする必要がある」と、廣澤氏は話す。これは現実には不可能だ。

メディアを理解し、人を知る

ミレニアル、Z世代はテレビを見ない。つまり、これまでのように、テレビに張りついていれば、商品を認知させ、買ってもらえる時代は終わった。そこで大事になるのが、情報を届けたいユーザーはどのメディアを利用しているのか、どんなコンテンツが最適かを考えることだという。廣澤氏は、動画マーケティングで心がけていることとして3つのポイントを挙げた。

1つ目は「各メディアの特徴を知る」こと。メディアによって広告フォーマットも違えば表現方法も違う。テレビと同じ広告をTwitterに流しても、ユーザーには浸透しない。メディアによって広告フォーマットはどう異なり、コンテンツはどうシェアされるか、きちんと理解しないと広告が打てない。

2つ目は、「各メディアを見ている人を知る」こと。ミレニアル、Z世代の人はどういう生活をしているか、会って、話を聞いて、知ることが大事だ。

3つ目は、「各メディアの効果を知る」こと。テレビ広告では、放映された瞬間に効果が可視化される。しかし、バーティカルメディアや分散型メディアへの出稿が、ただちに全国の店舗の売上に影響するかというと難しい。広告によってどのように人が動いたのか、数値ですべて洗い出すのは難しいが、ある程度の傾向値はつかめる。

テレビ・検索を軸に囲い込み

では、実際にテレビとインターネットをどう使い分けているのか。廣澤氏は、「ケープ キープウォーター」というヘアスタイリング剤を使ったマーケティングの事例を紹介した。

マス広告は、毎週日曜朝にテレビで放映されている情報番組へ生コマーシャルを入れており、あわせて、店頭ではPOP(販促ツール)を作成、設置している。一方、Webでは、検索流入の導線づくりを行った。具体的には、「ケープ キープウォーター」でキーワードを購入、商品が特徴とするキーワードも併せて購入しておく。「テレビとインターネット検索、売上の相関はものすごく強い。テレビで放映されると、検索ボリュームが増える」。

そこで、検索した人が、ブランドサイトや「C CHANNEL」あるいは「@cosme」などのような美容系の口コミサイトに来訪する導線も用意した。「テレビを見ていない人も、分散型メディアとしてC CHANNELのコンテンツがTwitter、Facebookなどのプラットフォームに流れてくる。「主要なメディアにおいて、情報のタッチポイントを用意することが重要」なのだそうだ。また、動画メディアとしてC CHANNELを選んだ理由として、廣澤氏はコンテンツの親和性を挙げる。

「『ケープキープウォーター』は、ミストのヘアスタイリング剤。従来のスプレーは前髪スタイリング時に、顔にかかるなどのネガティブイメージがあり、これを払拭する商品だ。一方、C CHANNELの人気コンテンツを見ると、『前髪』に関する検索ボリュームが相当多かった」。そこで、動画広告として「ふんわり前髪の巻き方はコレだ!かわいい女子はみんな知っている」というハウツー動画を制作、出稿した。

再生数もエンゲージも2倍に

また、動画マーケティングの評価指標として、廣澤氏は「(届けたい人に対する)リーチ」「ブランドリフト」の2点を重視している。「売上に対する貢献、影響はさまざまな要素が有機的に関わっており、分散型メディアへの出稿が、直接売上に結びついたとはいえない。そこで動画に求めているのがブランドリフト。C CHANNELのなかで、コンテンツとブランドがどれだけ存在感を出したかをKPIに設定した」。

動画広告「ふんわり前髪の巻き方はコレだ!〜」は、通常の広告動画の2倍の再生数を記録。SNSのエンゲージメントも、いいね!、シェア数が通常の2倍以上だった。また、売上についても、販売店のPOSデータから、配信前の5週間と、配信後の5週間で、販売店における「ケープキープウォーター」の売上金額シェアが2%上がったとの結果が得られた。

一方、販売店で購入した「人」をベースに売上分析を行ったところ、「女性の世代別で見ると、10代の女性は、配信前まで『ケープキープウォーター』の売上が限りなく小さいものだったが、C CHANNELでの配信後に動きがあった」と、廣澤氏は説明。「すべてがC CHANNELの効果とはいえないが、バーティカルメディアとしてのC CHANNELへの動画広告出稿は成功だったと結論づけられる」。

「無視されない」広告作り

動画マーケティングの今後の方向性について、廣澤氏は「個人的には、コンテンツオプティマイゼーションの仕組みと、インタラクティブ動画の仕組みに注目している」と述べた。

たとえば、Spotful(スポットフル)というインタラクティブ動作制作サービスは、動画内の好きな場所に「スポット」と呼ばれるボタンを設置することで、動画内にさまざまな機能を埋め込むことが可能だ。

「動画を見ながら、コンテンツにタッチし、次のストーリー展開を見られるようにしたり、SNSボタンを設置してエンゲージメントを高めるといったことが可能になる」と、廣澤氏。動画を見るだけでなく、見ながら楽しむ仕掛け、そして、その先には、ユーザーにあわせたコンテンツの出し分けがあるとの展望を述べた。そうした背景には、「広告が無視される傾向」があると、廣澤氏は述べる。

「ミレニアル世代、Z世代にとって動画広告は、興味のあるものは見るが、そうでないものは飛ばす。では、広告と接触したあとに、次にどんなストーリーを用意すればユーザーを引きつけることができるのか、それを考えながら出し分けていくことが、動画マーケティングに携わるマーケターに求められると考える」。

Written by 阿部欽一