秘密保持契約を使ったセクハラ隠し、エージェンシーの実態

広告エージェンシーは秘密保持契約(NDA)を使い、セクシャルハラスメントの主張をいまも隠している。

米DIGIDAYはこの記事のために女性15人に話を聞いた。いずれもハラスメント――性的なものとそうでないもの――に端を発してなんらかの守秘義務契約に署名したことがある女性たちだが、それだけでなく、当時、働いていた会社のほかのNDA署名のケースを、全員が少なくとも1件以上知っていた。

彼女たちの話から浮かび上がったのは、ハラスメントの告発が公になるのを阻止するために秘密保持契約を使うパターンが存在することだ。女性たちによると、これが加害者の保護になっている。いずれのケースも、米DIGIDAYが話を聞いた女性たちによると、秘密保持契約が退職パッケージに組み込まれ、加害者の身分はそのままになったという。

「大きなエージェンシーと弁護士は、感情的にすでに難しい状況にあるところにさらに大きな圧力をかけることで、要するに従業員を脅し、すり減らせて最終的に和解に持ち込むと私は見ている」と、ニューヨーク在住の女性が語った。この女性は、複数のエージェンシーで働き、不当解雇の訴訟を起こそうとしたことがある。「NDAに署名なんてしなければと思っているか? そうだ。エージェンシーを法廷まで連れ出していればよかった」と、この女性は語った。

映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタインによる性暴力、セクシャルハラスメント、性的な職権乱用の主張を取り上げたレポートを、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)が公開して以降、女性たちが業界を超えて自らの体験を告白し、恥と秘密の文化がハラスメント加害者の保護につながっていることにさらなる注目が集まっている。なかには、沈黙を守り転職することを女性たち自身が選択したということもある。しかし、力も資金も十分な企業が弁護士と組み、守秘義務契約を推し進め、女性の主張や訴訟の要求を和解金と引き換えに永久に阻止したために隠蔽されたものがかなりある。

20年以上になる業界のベテランは、NDAの署名を少なくとも3件は知っていると語った(そして、「私が3件知っていたということは、おそらく10件はあったのだろう」と推測した)。ひとつは、和解したのはエージェンシーの男性シニア幹部だった。しかし、この幹部は5年後に再びハラスメントを告発される。その時、この男性は「退職」して顧問になっていた。つまり、スタッフとの日々の第一線での仕事は減ったが、依然としてクライアントと仕事をして報酬を得ていた。

どの話も過程が不気味なほど似通っている。男性同僚にセクハラを受けてNDAに署名したある女性は、その問題を社内で2度、提起した。1回は上司に、もう1回は人事部に。そして、この女性は弁護士に相談をした。エージェンシーの対応は、NDAを含む和解パッケージの交渉だったが、持株会社傘下のエージェンシーの大半がそうであるように、このエージェンシーは「和解は一切していない」と公には主張している。女性は、示された選択肢を受け入れることを選び、提訴をしなかった。男性は職にとどまった。

「そのときの感触だと、直接の上司を含む経営陣の手を離れ、弁護士が話を進めていた」と、この女性は語った。

先述の業界のベテランによると、女性たちが「大騒ぎをしないのは、一緒に働きにくい人として名前を広げたくないから」なのだという。経験上、そういう「暗黙の了解」があると、この女性は語った。

「有害な」女性

「物事は自分のことになると、違いが生じるものだ」と考えるキム氏(仮名)。同氏はハラスメントの申し立てのなかでNDAに署名し、その後、採用とコーチングの仕事に移った。

キム氏は大手企業のVP級だった。そして同氏によると、いくつもの形のハラスメントを体験した。キム氏はその一部を内面化した。「どう言えばいいのかわからない。だからとにかく言葉にするとすれば、自分は背が高く、スリムで、きちんと着こなすのが好きで、健康だということ。それが私の仕事のキャリアに貢献してきた」と、同氏。

キム氏は仕事が得意だったが、会議に彼女を連れてくるように頼まれたり、契約や取引の成立に彼女の外見を利用するように言われたりしている人が多いとは感じていたという。「仕事は順調だったが、見栄えのする女性ということで性的な対象として扱われていることには、まだ気がついていなかった」と、キム氏。「うまくこなしていて、それについては相当な埋め合わせをされていた」と語る。

キム氏によると、米DIGIDAYが話を聞いた女性の多くがそうだったが、彼女もお酒の席が多いマーケティングの環境に配属され、誤解を回避するように一層気をつける必要があったという。「私は退屈な人間だった。出張時にいつもより余計に飲んだり遅くまで出歩いたりしないからだと、男性たちには言われていた」とキム氏。

それだけではなかった。ある時、男性の同僚と関係を持っているという(事実ではない)噂が流れていることを彼女は知った。「あれは辛かった」とキム氏。また、一部の幹部が一緒のときにラインの深いドレスを着るのは、プロジェクトを承認してもらうやり方なのだと冗談が交わされる文化もあった。

新しい上司がやってきたとき、キム氏は業績の審査で高く評価されていた。その新しい上司から、受動的攻撃性によるコメント、仕事やリーダーシップに関する噂など、彼女を貶めるさまざまな方法でハラスメントを受けたのだとキム氏は語った。彼女は人事部に行った。すると、和解するか、アジアのオフィスへの配置転換するかだと提案された。そこで弁護士を雇うと、会社に、「訴訟好き」、「有害」などと言われたという。会社は、NDAと1年間の特別手当のパッケージを示してきた。

それは、退職パッケージの条件について彼女は一切語らないという取引だった。加害者の名前はなかったが、元同僚など誰にも話をしないという条件が含まれていた。雇った弁護士には、標準的な法律用語だと言われた。

キム氏は結局、新しい都市に移り、新しい仕事を手に入れた。もし公表していたら得られなかっただろうと同氏。キム氏はセラピーを受けた。「あまりに不当だった。たくさんだった」と語り、落ち込んだのだと付け加えた。それから4年が経ったいまは、もっと自分を守っていたらと思っているという。

「いま起こっていることを見ると、女性たちが力を取り戻し、こうしたことを明るみに出すのは可能なのだと感じる」と、キム氏は語る。「そんなに恥ずかしいことではないのだ」。

それにはほかの人も同調する。女性ふたりは、エージェンシーは発覚するかもしれないことを恐れ、判明している加害者をいまの職から外すように、さらに取り組むようになるだろうと語った。NDAは増えるだろうが、加害者が署名を迫られるようになるということだ。

また、ニューヨークのエージェンシーで働く、先ほどとは別の女性は、NDAには通常、見え見えの退社がつきもので、ときには、普通に成績がよい女性が不自然にレイオフに入れられることもあると語った。また、個人的なことはすべて「内密に」解決するように、従業員の実際の雇用契約に書かれていることもあるという。ハラスメントがある場合に備えて、実際に起きる前に守秘義務契約を結ぶのだ、そして「支払い」があるとこの女性。年上の既婚の同僚にセクシャルハラスメントを受けた際、この女性は報告しなかったが、それは言いくるめられるだろうと感じたからだという。あるいは、「そうなるように私が頼んだのであり、私からちょっかいを出しているのだと思われる」かもしれなかった。NDAは「バンドエイド」だったとこの女性。「物事を伏せるのは、短期的にはよい解決策に思えるかもしれないが、持続的ではない」と続けた。「ハラスメントが起き、それを静めた際に、不品行への制裁とも思えるものなど、その他の不届きな行為ができるようになるのを見てきた」のだという。

「首が切られるとき」

多くの業界のハラスメント事件で従業員にアドバイスをしてきた、雇用問題弁護士のケネス・カッツ氏によると、ハラスメントの罪の隠蔽に使われている契約を裁判官が強制するかどうかは、どちらとも言えない。そうなることはある。企業はNDAに署名した従業員に、その際のお金の返金に加え、弁護士の費用、さらには損害金の支払いを主張できるのだ。訴訟が起こされたら、差し止め命令を申請することもできる。しかし、企業側がそうした行動を起こすことはまれだ。「契約があった感覚を従業員に抱かせるための、脅し戦術のようなところがある」とカッツ氏。同氏の経験上、女性に対してはこれが決定的で――「たいていは女性だ」とカッツ氏――、女性はあきらめをつけて話をしなくなるのだという(ハラスメントの事件においてNDAが強制できるべきものなのかについては、ワインスタイン氏の事件を受けて法律論争になっている)。

カッツ氏によると、会社は同じことを言う人が出ることを心配している。NDAの署名を実施すると、常習の加害者の場合、同様の条件を期待してほかの人が申し出る。いわゆるワインスタイン効果により、企業は和解の意向を一層強めていくことになるとカッツ氏。ただ、加害者がエージェンシーから説明なく密かに追放されるという違いは出るかもしれない。「(ハラスメントは)ますます大きな話になってきている」と同氏は語った。

あるエージェンシーの人材責任者は、NDAに関する考え方を変えたと語った。「NDAは悪いアイデアではないと以前は考えていた。お金を守り仕事のキャリアに傷をつけたくない人はいる」とこの女性。「いまは? この本当にひどい行いを阻止する必要があり、こんなことを続けていてはならないと思っている。社会が良い方向に進まない。首が切られるべきときだ」とこの女性は語った。

人目を引く退社が続くことにはまだなっていない。しかし、広告業界誌「アドエイジ(Ad Age)」の最近の報道によると、匿名の情報筋によれば、IPG傘下のマーティン・エージェンシー(The Martin Agency)の最高クリエイティブ責任者、ジョー・アレクサンダー氏の最近の退社は、内部調査が原因だったという。

過去に不当解雇の訴訟を起こそうとしたすえにNDAに署名した先述の女性は、少なくとも訴訟に着手したことを誇りに思っていると語った。この女性は、税金と弁護士費用を払って残ったお金で、宝石――ダイヤモンドのイヤリング――を自分に購入した。「ちなみに、ダイヤは4分の1カラットだった」と、この女性は語った。

Shareen Pathak (原文 / 訳:ガリレオ)