ザ・トレード・デスクは、なぜP&Gを勝ち得たのか?:アドテクビジネスの成長戦略

世界最大の消費財メーカーであるプロクター&ギャンブル(以下P&G)は2017月5月、プログラマティックバイイング事業を見直し、北米地域のデマンドサイドプラットフォーム(以下DSP)をオーディエンス・サイエンス(Audience Science)からザ・トレード・デスク(The Trade Desk)に変更することにした。

これは、ザ・トレード・デスクにとって新たな大勝利と言える。同社は5月11日、2017年1~3月期の売上高が前年同期比76%増の5340万ドル(約60億円)に達したと発表した。その直後に、同社の株価は、前日から30%以上も上昇して、12日に1株当たり51.90ドル(約5800円)になった。

トレードデスクの株価は、12日に30%以上上昇した。出典:The Motley Fool

ザ・トレード・デスクの株価は、12日に30%以上上昇した。出典:The Motley Fool

アドテクノロジーは、かなりの批判にさらされている。3月には、英紙ガーディアン(Guardian)が、購入側の手数料を公表していないとして、米アドテク大手ルビコンプロジェクト(Rubicon Project)を訴えた。2014年9月には、DSPプロバイダーのロケット・フューエル(Rocket Fuel)が、連邦証券法に違反したとして、投資家による集団訴訟に直面している。また、株式市場はアドテク企業に対して冷ややかな反応を示す。たとえば、ルビコンプロジェクト、ロケット・ フューエル、動画広告企業トレマー・ビデオ(Tremor Video)の株価はそれぞれ、新規株式公開(IPO)価格と比べると43%、89%、75%低下した。

成長をなし得た理由

ザ・トレード・デスクの創設者で最高経営責任者(CEO)を務めるジェフ・グリーン氏は同社の成長について、オムニチャネル戦略だけでなく、エージェンシーと購入側の技術を重視したおかげでもあると考えている。

「売上高の50%超は、エージェンシーから上がっている。我々は、エージェンシーとは決して競合せず、マネージドサービスにはまったく関心がない。それに、我々はオムニチャネルでグローバルでもある。会社を守るのに十分なほどしっかりしていて、けれどもパートナーと戦略的提携関係を結ぶ邪魔にならない程度の定款を定める必要がある」と、グリーン氏は言う。

ザ・トレード・デスクの成功は、DSP事業への進出に対する懸念のアンチテーゼのように見える。メディアトレーニングテック企業アイピーオンウェブ(IPONWEB)のCEO兼チーフサイエンティストであるボリス・マウザイカンツキー氏が述べているように、DSPは現在、万力で締め付けられているような状態だ。パフォーマンスと効率の向上を求める広告主やエージェンシーからの圧力を感じつつ、一方では重複入札によるハードウェア費用の増加が、それでなくても少ない利ざやを食いつぶしつつある。

「こうした圧力から解放されるために、DSPは、事業のありようを進化させ、データベンダーやサプライパートナー、パブリッシャー、新しいビジネスモデルから新たな収益源を探ろうと、急ピッチで取り組みを進めている」と、マウザイカンツキー氏は述べた。

エージェンシー最重視

ザ・トレード・デスクの場合、それは、エージェンシーの最重視とプラットフォームモデルを意味する。グリーン氏の考えによると、多くのDSPは「いろいろとやり過ぎている」という。多くのDSPは、ブランドに直接出向いて、アドテクとサービスの両方を提供できると宣伝している。だが、ザ・トレード・デスクは、ブランド顧客をめぐってエージェンシーと競い合いたいとは思っていない、とグリーン氏は語る。大手ブランドは広告キャンペーンを世界で展開するのに何百人、何千人もの人手を必要とするかもしれず、それぞれの国で広告のカスタマイズが絡んでくるからだ。DSPがアドテクプロバイダーとエージェンシーを兼ねるような行動を取れば、手を広げすぎることになる。

グリーン氏は、「どうすればDSPがエージェンシーであると同時に最良のアドテクを提供できるのか、私にはわからない」と述べている。

エージェンシー最重視によりザ・トレード・デスクは、広告ホールディングス世界最大手WPP傘下のメディアエージェンシー、グループM(GroupM)にとって、市場シェアでアップネクサス(AppNexus)に次ぐ、第2位のアドテクパートナーになった。グループMのID測定部門、[m]PLATFORMのグローバルCEO、ブライアン・グリーソン氏によると、ザ・トレード・デスクはDSP機能を最適化する方法を同社幹部に教える点で、良い仕事をしてきたという。

「ザ・トレード・デスクは、製品について深く掘り下げさせたり、勤務時間中に一緒に座ってプログラマティックツールを理解させたりしてくれることが多い。教育は多めで、売り込みが少なめなのが、非常に賢い」とグリーソン氏は語る。

プラットフォームモデル

ザ・トレード・デスクは、メディアマス(MediaMath)やターン(Turn)のようなオムニチャネルDSPならびに、チューブモーグル(TubeMogul)やビデオロジー(Videology)のようなチャネル特化型ソリューションと競合している。だが、ザ・トレード・デスクは、(エージェンシーにアドテクインフラを提供して、そのエージェンシーに独自機能を追加させる)プラットフォームモデルも採用し、アップネクサスやアイピーオンウェブ、ビーズワックス(Beeswax)とも競合している。

たとえば、ブランド向けのマネージドサービスを運営するプログラマティックエージェンシー、グッドウェイグループ(Goodway Group)は、ザ・トレード・デスクの入札と統合の機能を、独自のDSPを構築する基盤として利用した。

グッドウェイグループの最高執行責任者(COO)であるジェイ・フリードマン氏は、ザ・トレード・デスクとアップネクサスは、モート(Moat)やインテグラルアドサイエンス(integral ad science)のようなサードパーティーのベンダーとの連携が進んでいるが、アイピーオンウェブやビーズワックスは、エージェンシーが入札者やトラフィックのために利用できる、もっと「未加工の素材」を提供している、と考えている。

「我々が何かを提案すると、ザ・トレード・デスクは、そうした機能や製品を必ず開発してくれる。ザ・トレード・デスクのAPIには当社の製品がかなり深いレベルで組み込まれているので、ザ・トレード・デスクのエンジニアリング部門の複数の人物と、(少なくとも週1回は)継続的に対話も行っている」とフリードマン氏。

定評のあるDSPに

エージェンシー最重視とプラットフォームモデルのおかげで、ザ・トレード・デスクは定評のあるDSPになった。ブランドがプログラマティックを内製化する傾向が続いたら、ザ・トレード・デスクの事業戦略がぐらつくかどうか尋ねられると、グリーン氏は、メディアの報道にもかかわらず、ほとんどのブランドはプログラマティックを自社で行っていないと答えた。たとえばP&Gの場合、ザ・トレード・デスクはまだ、同ブランドのメディアエージェンシーであるハーツ・アンド・サイエンス(Hearts and Science)と協力している。

「ブランドが実際にDSPやデータ管理プラットフォーム(DMP)を内製化しているとは思わない。それよりも、社内にプログラマティック部門を設けて、十二分な分析し、エージェンシーと協力するほうが一般的だ。Netflix(ネットフリックス)やAmazonは独自のプログラマティックを行っているが、ほとんどのブランドは行っていない」と、グリーン氏は指摘する。

Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)
Image courtesy of The Trade Desk