ベライゾンの米ヤフー買収、その「勝者」と「敗者」は誰?

ついに確定した。ずっと話題になっていたベライゾンによる米ヤフーの50億ドル(約5100億円)での買収だ。

AOLに続いてヤフーも買収したことで、ベライゾンはアクセスプロバイダーという垣根を越えようとしている。ほかのメディアにもプロダクトを売り、GoogleとFacebookによる広告独占状態に立ち向かう姿勢だ。この買収によってメリットを受ける側とデメリットを受ける側、勝者と敗者をまとめたい。

Winners / 勝者たち

ベライゾン:多くのインターネットプロバイダーたちは、ただ消費者にネットアクセスを売るビジネスから、ほかのビジネスラインへと拡大することを狙っている。2015年にベライゾンがAOLを44億ドル(約4500億円)で買収し、そして今回ヤフーを買収したのも、2社が擁するデータと広告ビジネスを手に入れるためだ。これによってベライゾンはオンライン広告市場でGoogleとFacebookに(はるかに離れてはいるものの)3位の座についたことになる。

ピボタルリサーチ(Pivotal Research)のブライアン・ウィーザー氏によるとベライゾンは、これによって推定80億から90億ドル(約8200億〜9200億円)のオンライン広告をプロダクトとして保有することになるという。米ヤフーを買収したことで、減少傾向にあるものの、まだまだ重要な検索広告の分野でも、ベライゾンは収穫を得ることになる。米ヤフーにおけるこの分野での収益は、14億ドル(約1400億円)ほどだ。

広告主:ベライゾンは、AOLの買収を通してすでに、エンドツーエンドのアドテックスタックを所有している。しかし、今回の買収は広告主にとっても、いくつかの点でさらなる改善を意味している。

「クロスデバイスのユーザーに取り組んできた経験、しかも彼らほどの幅広さを持って取り組んできたことは、非常に大きなポイントだ」と、グッドウェイグループ(Goodway Group)のCOOであるジェイ・フリードマンは言った。「これによって彼らのユーザーリーチをさらに拡大できるようになる」。

また、今回の買収によって、AOLが提供するファーストパーティデータも改善されるだろう。というのも、米ヤフーは買収したアドテック企業ブライトロール(BrightRoll)内でデータがすぐに使える状態に進歩してきたからだ。

「(私自身も)検索分野出身だから、ブライトロールにおける検索データに関して、ここ最近起きてきたことはすごく励ましになっている。ヤフーの検索シェアは小さいが、それでもほかのDSPがファーストパーティデータとしては保有していない強力な(ユーザーの)意図を探るシグナルであることに変わりない」と、メディアキッチン(The Media Kitchen)のプログラマティックメディアのディレクターであるアンドリュー・サンドヴァル氏は語る。

ティム・アームストロング氏:AOLと米ヤフーがあわさったあとは、AOLのトップであるアームストロング氏が率いることが予想されている。米ヤフーのリーダーたちはここまで、会社を立て直すことに失敗してきており、FacebookとGoolgeに負け続けている。しかし、ここで状況を好転させることができれば、アームストロング氏はまるでヒーローのように称賛されるだろう。損失を切り落とし、前進する彼の能力は、すでに経歴が証明している。彼はAOLのローカルニュースネットワークであるパッチ(Patch)を苦境から立て直した。

また、米ヤフーを巡る環境も大きく変わる。ひとつの独立した会社として、投資家たちの厳しい注目のもとにさらされていた以前とは違い、さらに巨大な企業の一部として運営することになる。またアームストロング氏は広告バイヤーのあいだでも人気がある。それはAOLのビデオとプログラマティックのビジネスで彼が築いてきたものだ。「費用をしっかり削ること、かつウォールストリートにペコペコしないこと、こういった、これまでのCEOが擁していなかった能力をアームストロングは擁している。以前であれば、投資家が質問を浴びせていただろう」と語るのは、グッドウェイグループのジェイ・フリードマン氏だ。

ほかのインターネット企業:ベライゾンがこの取引をどれくらい上手くこなすかによって、Google、Facebook、Twitterといった、ほかの会社にもメリットが生まれることになる。今回の買収取引は、2017年の第一四半期までは完了しないと見られている。これはかなり長い時間だ。

この期間中に彼らのセールス担当者たちが集中力を失い、他社に職を求めはじめるということがありえる。その場合は、ほかのインターネット企業にとって、この機会に乗じてセールスの人材を確保し、自分たちのセールス力を増強する良いチャンスとなるだろう。「ベライゾンがこれらの問題を適切にマネージメントしなければ、ほかの競合、全員にチャンスが訪れることになる」と、ウィーザー氏は言った。

Losers / 敗者たち

米ヤフーのブランド:もはや遠い昔のことのように思えるが、米ヤフーは長い間、健全なインターネット産業の先導者だった。賛否両論はあったかもしれないが、米ヤフーには個性があったし、またそれ自身がディスプレイ広告ビジネスの主なクリエーターであった。

しかし、米ヤフーは、古い遺跡のような存在になってしまった。検索とソーシャルプラットフォームによってポータルサイトが取って代わられた時代のポータルサイトであったし、ネイティブとビデオがデジタル広告産業を席巻する時代のバナー広告であった。

まだ面白いコンテンツ資源は持ってはいるものの、大部分が薄れ消え去ってしまったブランドとなってしまったことは否めない。それが、さらにベライゾンという大きな企業の一部分である、AOLの一部分となるのだ。かつて世界中で知られていた形の米ヤフーというのは、あらゆる意味で死んでしまったと言える。

米ヤフーの従業員:かつてインターネット業界の雄であった米ヤフーは、いまやデジタル広告のエコシステムのなかでGoogleとFacebookに負けてしまっている。ベライゾンの傘下で、AOLと合併することが予期されており、すでに確立した広告セールスの基盤があることから、おそらくベライゾンはコスト削減による効率化を探るだろう。

あるアナリストの推測によると米ヤフーが抱える9000人の従業員の40%が削減されるという。「米ヤフーの中核ビジネスを成長する状態に戻すことと、そのビジネスからコスト削減することが、ベライゾンが直面する主な課題となるだろう」と、ウィーザー氏はリサーチ報告のなかで指摘した。不確定要素として大きいのは米ヤフーの元で価値が急落しているブログプラットフォームのTumblrだ。しかしマリッサ・メイヤー氏のもとでは十分ではなかったセールスの専門知識をこの買収によって得ることができるだろう。

ビジネスインサイダーの米ヤフー観測・分析担当であるニコラス・カールソン氏が、米DIGIDAYのポッドキャストで述べたのは、米ヤフーはもはや成長期ではないが、コスト削減によって収穫できる収益が、まだ存在するステージであるということだ。彼はアームストロング氏を指して「最適化をする人だ」と形容する。「彼は米ヤフーの強みに集中して、収益を吸いあげるということをすると思う」。

米ヤフーの広告プロダクト:米ヤフーのポートフォリオにはネイティブ広告のプロダクトであるジェミナイ(Gemini)と、ビデオ広告プラットフォームであるブライトロールがある。これらは低品質な在庫しか提供できていないと批判されてきた。

eマーケターアナリストであるポール・ヴァーナ氏は「アドテック分野に重複しているものがある」と指摘する。「当時は(AOLが買収された時は)AOLはベライゾンと良い組み合わせだと思った。というのも華やかではないけれども良いアドテック技術とコンテンツ専門知識をベライゾンが手に入れることになったからだ。今回は同じような物をまた買収している形だ。なので彼らが払っている金額に見合った、素晴らしい価値が存在しているかどうかは明らかではない」。

Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)