ユーチューバー斡旋企業、なぜ株主たちは関心を失ったのか?

「マルチチャンネルネットワーク(Multi-channel network:MCN)」とは、YouTubeから生まれたスター「ユーチューバー」たちにとって、無くてはならない存在といえる。その影響力が強まるにつれ、サポートやマネジメントが必要になってくるからだ。MCNの役割は、YouTubeにある無数のチャンネルをカテゴリーごとにまとめること、そしてユーチューバーたちのマネジメントである。

このビジネスが注目された数年前は、MCNに投資しようとしないベンチャーキャピタルを探すほうが難しかった。オウサムネスTV(AwesomenessTV)、フルスクリーン(Fullscreen)、メーカースタジオ(Maker Studios)などのMCN企業は、数千のYouTubeチャンネルをひとつのコンテンツ管理システムに集約して、YouTubeの広告収入から利益を得ていた。ユーチューバーたちの人気が(特に若いオーディエンスのあいだで)拡大するなか、これらの企業はエンターテインメントビジネスの未来と考えられていた。

利益はもちろん流れ込んでくる。メーカースタジオは6600万ドル(約75億円)超を調達し、フルスクリーンも3000万ドル(34億円)超を手にしたほか、オウサムネスTVはアニメーション製作会社のドリームワークスアニメーション(DreamWorks Animation)に3300万ドル(約37億円)で早々と買収された。これらの取引はすべて青田買いに近く、各社が自身の存在価値をその評価額ほど高める前に実現されたものだ。

メーカースタジオに出資した、とある企業の幹部は、「我々は自分たちが何をしているか分からずに投資していたが、それがうまくいったので、とにかく運が良かったと思うようにしていた」と話す。その株主は、同社が2014年にウォルト・ディズニー(Walt Disney)に5億ドル(567億円)強で買収されたことで、相当額の利益を上げたのだ。これをきっかけに同分野で買収が相次ぐことになった

廃れはじめた流行

MCNはいまなお、十分にエンターテインメントビジネスの未来といえるかもしれないが、資本調達をめざす新規参入企業にとって、このベンチャー市場はもはやそれほどホットではない。

MCNというエコシステム内部に見られる大きな問題のひとつは、その業態に対する誤解にある。業界内の多くの人は、MCNという言葉そのものを嘲笑し、このビジネスを正しく言い表していない。彼らは単なる見かけ倒しのYouTubeアドネットワークではなく、オリジナルコンテンツ、人材管理、コマース、ブランデッドコンテンツなどの事業領域から利益を得ている多角的企業だ。それに、YouTubeだけに依存しているわけではない。

しかし、関心は薄れた。

テクノロジーベンチャー企業サイエンス(Science)の共同創設者でパートナーのピーター・ファム氏は、次のように述べている。「どう定義しようとも、短期間で規模を拡大できるMCNやコンテンツクリエイターを見つけることは、(すでにメーカースタジオ、デファイメディア(Defy Media)、オウサムネスTV、フルスクリーンがひしめき合っている現状では)ますます難しくなっている。こうした状況とあわせ、このベンチャー市場がすでにここ数カ月で逼迫していることもあり、投資家はこれまで以上に厳しい目で選別するようになった」。

なぜ流行は去ったのか?

もちろん、この数カ月で資金を調達できた企業もいくつかある。フードや旅行をテーマにしたコンテンツ配信を行う動画配信メディア「テイストメイド(Tastemade)」は、2015年12月に4000万ドル(約45億円)を手にしたし、ラテン系のミレニアル世代向け動画配信メディア「ミトゥ(mitú)」は先ごろ1500万ドル(約17億円)のシリーズBラウンドを完了した。しかし、これらの企業は単なるアグリゲーターではなく、自社のネットワーク内に数百のチャンネルをもっているだけだ。彼らはまた、専門が比較的特化された企業でもある。

これらの小規模なネットワークは生き残っている。規模が小さいため、自社ネットワーク内でクリエイターにより多くの時間と注意を向けることができるからだ。

ある小規模なYouTubeネットワークの幹部クリエイターは、このような不満を漏らす。「我々は常にクリエイターから、彼らがどんなにMCNを嫌っているかを聞いている。彼らはMCNと提携することで利益になると考えていたが、実際はそうでないことがわかった。クリエイターが5万人いればそうなる。そして、さらにMCNはクリエイターの数を増やそうとするのだ。5万人ものクリエイターを管理することなんて、できるわけがないのに」。

市場が飽和状態になったいま、MCNの新たな「ユニコーン」(評価額が10億ドル[約1200億円]を超えている非上場ベンチャー企業)が生まれる可能性はない。それが、たとえ単一のニッチまたはジャンルを絞った小規模な企業でもだ。

変容するビジネスモデル

だからといって、この市場は成熟しきったわけでもない。これらの企業はビジネスモデルを進化させてもいる。YouTube広告の仲介者になるのは難しいことではない。特にYouTubeはプラットフォームで生成された広告収入総額の45%を受け取り、タレントは通常、全体の70%ほどを得ているからだ。メーカースタジオ、フルスクリーン、オウサムネスTVはすべて、テレビおよびサブスクリプション(定額制)ストリーミングプラットフォーム用のコンテンツを製作している。フルスクリーンは、モバイルでの視聴者向けにストリーミングアプリも開発しているのだ。

多くのスターが次々に生まれているソーシャルメディアの世界で広告主が模索するなか、すべてのネットワークはブランデッドコンテンツ事業にも注力しているようだ。たとえば、スタジオ71(Studio71)は12人からなるブランデッドコンテンツチームを抱えている。同社は2015年に、前年比30%増の500を超えるキャンペーンを展開。ブランデッドコンテンツの制作はいまや、事業全体の3分の1を占めている。

人気ユーチューバー、ローマン・アトウッド氏の動画

ただし、ここでも課題がある。新たに登場したインフルエンサーマーケティングエージェンシーおよびプラットフォームでは、一般にクリエイターが独占契約を結ぶのではなく、ブランドとタレントをマッチさせることを約束している。これは、数百万人のチャンネル登録者もおらず、ビジネスの管理担当の専任チームもない中小のクリエイターにとって魅力的な選択肢だ。しかし同時に、煩雑な環境も生み出した。

スタジオ71のCEO、レザー・イザード氏は次のように話す。「ときには、3つの異なるリストに同じタレントが載っていて、しかも価格設定がすべて異なることがある。はっきり言って冗談としか思えない。これらの小規模なクリエイターも、結局は我々が雇うことになる」。スタジオ71は、2015年にドイツの大手放送局プロジーベンザット1(ProSiebenSat.1)に買収されている。

これは、広告主がいまなおMCNと協力したがる主な理由だ。キャンペーン向けに適切なクリエイターを見つけるため、ロジスティックス面でのサポートを期待している。しかし、ここでの関係は仲介者のままだ。

MCNが進むべき未来

エージェンシー、スウェルシャーク(SwellShark)のCEO、ニック・パッパス氏はこう話す。「ほとんどのクライアントは、クリエイターの名前を携えてやって来る。MCNを名前で求めることはほとんどない。MCNは通常、我々がキャンペーンを実施すると決定してから関与することになる」。

「MCNはキャンペーンの一部にすぎない」と、ホライズンメディア(Horizon Media)でデジタル担当シニアバイスプレジデント兼マネージングディレクターのシャーロット・コックラン氏は付け加えた。ホライズンメディアは、3年前には存在していなかったが、現在は12人からなるインフルエンサーマーケティングチームを擁している。同氏は、「我々は、(トップの)インフルエンサーに直接働きかけて、そうした1対1の関係を生み出すことが、ますます増えている」と話す。

これらすべては、このビジネスが消滅への道を歩んでいるわけではないことを示唆しているかもしれないが、だからといってスムーズに進んでいるわけでもない。

「MCNはレコードレーベルのようなものだ」とコックラン氏は話す。「新たに登場するタレントがますます大きくなるのを手伝い、大きくなったら彼らをレーベル内にとどめておくインセンティブ(誘因)を見つける必要がある。これまではうまくやっているが、これからは多様化していかなければいけない」。

Sahil Patel(原文 / 訳:ガリレオ)
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