あえて「中規模」を狙う、メディアビジネス戦略のあり方:BtoBに特化したブレイキング・メディア

デジタルパブリッシング業界は、最大手のみが生き残れるエコシステムのように見えるかもしれない。だが、誰もがひたすら規模を追い求めているわけではないのだ。実際、一部のパブリッシャーは、中規模のままでいることを望んでさえいる。

2016年8月1日、「ザ・バージ(The Verge)」の共同創設者ジョシュア・トポルスキー氏が、ニュースサイト「アウトライン(The Outline)」を立ち上げることを明らかにした。「ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)」によると、この新しいサイトは1000万人から1500万人のオーディエンスにリーチすることを目指すという。

この話を念頭に置きながら、あえて中規模を維持することで生き残りを図るデジタルパブリッシャーに注目してみよう。

ブレイキング・メディアという企業

紹介するのは、7つのメディアを運営するメディアネットワーク企業、ブレイキング・メディア(Breaking Media)だ。通常、一般消費者向けのWebサイトであればユーザー1億人を視野に入れることも可能だが、BtoBサイトとなると、その10分の1を狙うことさえ厳しい。

そうしたなかブレイキング・メディアは、中規模のコミュニティをターゲットにして、利益を上げ続けている。現在ブルームバーグ・メディア(Bloomberg Media)でCEOを務めるジャスティン・スミス氏と、カーター・バーデン(3世)氏が約10年前に共同で創業した同社。法律、ファッション、金融、医療、防衛、エネルギー、行政部門で働く人々を、それぞれ対象にした7つのサイトを運営しており、利益を上げながら着実に成長している。

同社は、ほぼ自前で資金を調達しているにもかかわらず、多様なセールス方法を構築した。そのおかげで、過去5年間に毎年25%から30%の売上増を達成していると、CEOのジョン・ラーナー氏は話す。

エンゲージメントの高さが魅力

「F+Wメディア(F+W Media)」や「ニールセン・ビジネス・メディア(Nielsen Business Media)」などのニッチなパブリッシャーで経験を積んだラーナー氏は、ブレイキング・メディアでCEOを務めて6年になる。同氏はまた、スミス氏やバーデン氏と同じく、ブレイキング・メディアの最初の出資者だ。ラーナー氏にCEOを引き受けた理由を問うと、自分の出資金を守るためと冗談めかしつつ、その熱心な読者層に惹かれたと答えた。

「私は過去、BtoBの世界でこれほど熱心なエンゲージメントを見たことはなかった。収益化は十分ではなかったが、その読者層は揺るぎない規模を獲得できると思った」。

現在、約40名の従業員を抱え、1日に70~80本の記事を公開しているブレイキング・メディア。ネット調査企業、コムスコア(comScore)によると、もっとも人気があるサイトは「ファッショニスタ(Fashionista)」で、2016年6月にはユニークビジター数が100万人弱だったという。

ただしブレイキング・メディアは、多くのメディア企業同様に、コムスコアのデータに異を唱えている。たとえば、グーグルアナリティクス(Google Analytics)のデータでは、法律家向けのサイト「アボブ・ザ・ロー(Above the Law)」の方が先に、100万ビジターを記録(6月)したのだそうだ。

それ以外のサイトは明らかに規模が小さく、ごく限られた想定読者層を対象としている。たとえば、「アボブ・ザ・ロー」の潜在的なターゲットオーディエンスは、米国にいる130万人の公認弁護士だ。コムスコアによると、同サイトの6月のビジター数は約27万人だったという。

小規模な職能集団が対象

このような小規模な職能集団を対象にサービスを提供することには、いくつかのメリットがある。彼らは比較的年齢が高く、裕福で、サイトにアクセスするのは往々にして業務中のデスクトップからだ。デスクトップはモバイルより広告料が高い。また、彼らが属する特定の職能集団は、パブリッシャーがハイレベルのサービスを提供しても割に合う対象でもある。

「ある特定のコミュニティに向けたサービスを提供すること、または、そのコミュニティーに十分すぎるくらいのサービス(情報)を提供して利益幅を生むことが、メディアにおいて成功を持続させる方法のひとつだ」とは、パブリッシングコンサルタント企業、ティーミング・メディア(Teeming Media)の創業者、ドリアン・ベンコイル氏の持論だ。

これはまさに、ブレイキング・メディアが懸命に取り組んできたことである。売り上げの大半はダイレクト広告からもたらされるが、カスタム広告とネイティブアドが追いつきつつあり、売り上げの35%を占めてきた。さらに、イベント事業が15%を売り上げ、eコマース(同社によれば「ファッショニスタ」からのアフィリエイトの販売)とコンテンツライセンスなど、ほかの売り上げが最大10%を占める。

オーディエンス調査を重視

同メディアは大規模な消費者向けサイトのように、プログラマティック広告の売り上げを追求しようとはしない。オーディエンスの規模がそれほど大きいわけでなく、CPM(インプレッション単価)もさほど高くないからだ。

このようにオーディエンスの数が限られていることが、ブレイキング・メディアのようなパブリッシャーにとっては、課題でありチャンスでもある。同社は、各専門分野のトピックに関するアンケート調査を定期的に実施。そして、そのオーディエンス調査をトムソン・ロイター(Thomson Reuters)や法律家向けの求人サイト「キニー・リクルーティング(Kinney Recruiting)」など、クライアント向けのネイティブアド制作に活用している。

ラーナー氏は、「アボブ・ザ・ロー」におけるアンケート調査について、「1万人の法律家たちにアンケートを回答してもらえるのは凄いことだ」と、自信をもっている。

2年ごとに新メディアを追加

限られたオーディエンスに、ハイレベルのサービスを提供するのは素晴らしいアイデアだが、さらに多くのオーディエンス獲得を目指さない手はない。ラーナー氏が同社に加わってからブレイキング・メディアは、医療関係者向けサイト「メッドシティー・ニュース(MedCity News)」など、複数のサイトを新しく立ち上げている。

計画では、2年ごとに新しい分野に参入するという。ブレイキング・メディアは2015年春、そうした拡大の費用に当てるために150万ドル(約1億5000万円)の資金を調達した。

ラーナー氏は、今後もこのペースを維持することを目指すと語る。新規立ち上げであろうと買収であろうと、新しいサイトができてから、完全に稼働するようになるまでには時間がかかるからだ。だが同氏は、「我々はこの道を進むのみだ」と語るように、地道なペースで進めていることを気にはしていない。

Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)
Image courtesy of Fashionista