静かに巨大さを増す、Amazonの動画プラットフォーム戦略:YouTubeとはすでに臨戦態勢?

ひとつのサブスクリプション(有料会員契約)で、すべてを支配する。それが、Amazonの「ビデオダイレクト(Video Direct)」プログラムの背後にある考え方だ。

このプログラムにより、あらゆる種類のパブリッシャーまたはクリエイターが、Amazonの動画プラットフォームを通じてコンテンツを配信できる。しかし、現在集まってきているのは、差し当たって、その大半が比較的小規模なニッチの動画パブリッシャーだ。とはいえ、彼らはビデオダイレクトが収益に実際に貢献していると主張している。YouTubeや動画分野のライバルは警戒を続けるべきだろう。

2016年5月にはじまったビデオダイレクトは、パブリッシャーがコンテンツを配信して収益化するための複数の選択肢を用意している。具体的には、「追加会員制サービス」の課金からもたらされる利益、タイトルコンテンツごとの販売またはレンタル、Amazonの会員制ストリーミングサービス「プライムビデオ(Prime Video)」での視聴時間、広告つき動画の無料公開などの手段だ。

Amazonは、ビデオダイレクトを開始する数カ月前に、Amazon のチャンネルを立ち上げていた。このプログラムにより、ショータイム(ShowTime)スターズ(Starz)ライフタイム(Lifetime)といったパブリッシャーが、それぞれのストリーミングサービスをAmazonを通じて提供することが可能になった。

視聴契約者が20%増加

このAmazon プライムビデオによる追加会員制サービスを通じた収益とは、プライムビデオの月額8.99ドル(約900円)に課金するかたちで、月額のストリーミングサービスを収益化する方法だ。この方法を選んだ複数のパブリッシャーは、視聴契約者全体のかなりの割合を、Amazonプライム会員が占めていると述べた。あるパブリッシャーは、自社ストリーミングサービスの全契約者(人数は「6桁の下のほう」だという)のうち、30%近くがAmazonプライム会員だと明かした。別のニッチな分野のストリーミングサービスでは、全加入者の40%以上をAmazonのプライム会員が占めている。

モーターショーとモータースポーツに特化した動画パブリッシャー、モータートレンド(Motor Trend)のケースを見ると、同社は7月28日、プライムビデオを利用したモータートレンド・オンデマンド(Motor Trend OnDemand)を月額5.99ドル(約600円)で開始。それ以来、ストリーミング動画の視聴契約者は20%増加したと、親会社であるエンスジアストネットワーク(The Enthusiast Network:TEN)のCMO、ジョナサン・アナスタス氏は説明する。

Amazonのプライム会員制サービスに参加しているパートナー企業のある人物は、「事前に予測できていなかったが、これまで嬉しい驚きとなっている」と評価しつつ、今後の懸念も示す。「長期的な問題は、『潜在的な契約者がここに何百万人もいるのか、それともニッチな規模にとどまるのか?』ということだ。これはまだ、見極めがついていないように思う」。

ニッチでも勝負できる場所

Amazonの追加会員制サービスのページでは、多数のパブリッシャーによるコンテンツが紹介されている。ショータイム(ShowTime)やスターズ(Starz)といった質の高いケーブルネットワークも並ぶが、これらは実質的に、テレビ用チャンネルで視聴できる番組をそのまま配信している。しかし、リストの大半は、ニッチなストリーミングサービスが占めている。具体的には、A&EAMCといったテレビネットワークのほか、チェダー(Cheddar)テイストメイド(Tastemade)のようなデジタルパブリッシャーが配信するコンテンツだ。

「HBOやショータイム(ShowTime)でない限り、ここで契約者を何百万人も獲得するチャンスがあるとは思えない」と、先述のパートナー企業の人物は語る。「それでも、ニッチなサービスなら、かなりの契約増が見込める」。

大手のテレビネットワークなら、Amazonのビデオダイレクトは不要かもしれない。だが、こうしたニッチなパブリッシャーにとって、Amazonの規模が魅力的なのは明らかだ。Amazonの公称では、プライム・ビデオの会員数は「数千万人」。さらに、多くのコンテンツパートナーは、追加会員制サービスのほうがユーザーに視聴契約を結んでもらいやすいと考えている。新たなログインアカウントを作成したり、決済情報を改めて入力する必要がないからだ。

「Amazonのプライムビデオは巨大な存在だ」と、TENのCMO、アナスタス氏は認める。「あまりに重要なエコシステムだ。もはや避けては通れない」。

YouTubeクリエイターも勧誘

Amazonは明らかに、YouTubeコミュニティに関心をもっている。ビデオダイレクトを発表した際、ローンチパートナーとして、マシニマ(Machinima)スタイルホール(StyleHaul)キン・コミュニティ(Kin Community)ヤング・タークス(The Young Turks)といった、YouTubeにコミュニティーをもつネットワークやクリエイターの名前を挙げているからだ。

ヤング・タークス(The Young Turks)を除いて、追加会員制サービスでコンテンツを販売しているこれらデジタルパブリッシャーにとって、ビデオダイレクトは二重にありがたい存在かもしれない。YouTubeの広告だけだと、持続可能なメディア事業の構築は難しい。有料会員制は、新たな収入源を得る取り組みとして、大勢が模索している選択肢だ。Amazonのビデオダイレクトが継続的に売上をもたらすなら、YouTubeコミュニティがこれを無視するのはますます難しくなるだろう。

ヤング・タークス(The Young Turks)は、追加会員制サービスにはコンテンツを提供していない代わりに、Amazonのプライムビデオにコンテンツを配信して、その一部を購入やレンタルで視聴可能にしている。ヤング・タークス(The Young Turks)は、5月に同プラットフォームに進出して以降、膨大な視聴時間を稼いできた。これにより、Amazonがビデオダイレクトの成績上位パートナーへ毎月配布する100万ドル(約1億円)の分け前にありついている。

「我々のビジネス全体のなかでは、まだAmazonからの収益は小さい。ただし、Amazonの重要性は毎月ごとに増してきている」と、ヤング・タークス(The Young Turks)のCOO、スティーブ・オウ氏は語る(同氏によると、ヤング・タークス(The Young Turks)は、全プラットフォーム合計で1カ月あたり2億ビューを獲得しているという)。

ライバルが無視できない存在

とはいえ、Amazonはやはり、テレビネットワークや比較的大きなメディア企業との提携を増やすことを望んでいる。「Amazonはどんな相手であれ、提携先を求めている。それでも、相手がより大きいほど、より望ましい」と、ある情報筋は話す。「ニッチに走らざるをえなかったのは、多くの(ビデオ・オンデマンドの会員制)サービスがニッチだからだ。この大きなビジネスチャンスを妨げていたのは、(既存のテレビの)配給協定と、ビジネスの売上をAmazonに渡したくないという考え方だ」。

Amazonは、より好条件の売上配分を提供することで、大手メディア企業も自らになびくのではないかと期待している。複数の情報筋によると、Amazonは大手メディアに対し、プライムサービスによる売上の少なくとも70%を分配しているという。だが、小規模のメディア企業とデジタルパブリッシャーは、同様の恩恵を受けることはなく、Amazonは往々にして、売上の半分を確保している。ある小規模パブリッシャーは、交渉の末に60対40の配分で合意できた、と明かす。

「対等の交渉力を発揮できる超大物でもないかぎり、Amazonは50対50の分配から切り出す」と、このパブリッシャーは語る。「その割合だと、我々がこのプラットフォームに割り当てる予定のマーケティング支出は確実に制限される。マーケティング予算をどこに使うかを決めるとき、真っ先に向かうのは、売上配分がより良いところだ」。

Sahil Patel (原文 / 訳:ガリレオ)