動画への転向、英国では「そんなに進んでいない」理由:「我々にとっては生き残りの方が重要だ」

アメリカではパブリッシャーたちはこぞって動画への転向をしている。しかし英国のパブリッシャーの動画への取り組みは同じレベルだとは言えないようだ。これはマーケットが小さいこと、ベンチャーキャピタルの投資を受けているパブリッシャーが少ないこと、そしてFacebookへの依存度が比較的に低いことが原因として挙げられる。

パブリッシャーのなかで頻繁に言われる「動画への転向」という言葉は、次第にジョークの対象となってきている。いまとなってはテキストベースのジャーナリストを動画のスペシャリストで置き換えることを意味するようになった。MTVニュースやFOXスポーツ、マイク(Mic)、ヴォーカティヴ(Vocativ)、マッシャブル(Mashable)はすべてライターを解雇して動画を増やすことにフォーカスしている。彼らの論理はオーディエンスは動画を見たがっている、そしてプログラマティックのディスプレイ広告が停滞しているいま、動画の高いCPMはより大きな収益を生む可能性がある、というものだ。

アメリカとの状況比較

一方の英国では状況は少し違っている。動画の重要性は高まっているものの、ほかのフォーマットの重要性を下げてはいない。これはベンチャー・キャピタルに支えられたメディア企業が英国では比較的少ないことが一因となっている。ベンチャーキャピタルの投資を受けたメディア会社は、大きな期待に応えるために必死にならざるを得ないが、その状況に陥っている会社が英国では比較的少ないのだ。ほかにもFacebookへの依存度が比較的小さいこと、そして動画広告のマーケットがアメリカと比べて活発ではないことも原因となっている。

アメリカのパブリッシング市場はVox Media、BuzzFeed、リファイナリー29(Refinery29)のようなデジタルファーストのパブリッシャーで溢れている。これらはベンチャーキャピタルやレガシーメディア企業からの投資を受けた企業だ。CBインサイト(CB Insights)の予測によるとレガシーメディアからデジタルファーストのパブリッシャーに対する投資は2016年に130件となり、合計で約45億ドル(約5000億円)に達したという。どこかのメディアのオーディエンスが急増した、という類のニュースはどのパブリッシャーたちも無視することはできず、ベンチャーキャピタルの投資を受けた会社は特に、その成長について行くプレッシャーを感じている。

「ベンチャーキャピタルの投資を受けた会社は構造も心理も異なっている。ベンチャーキャピタルは彼らの資金を分散し、次の大ヒットを狙って多くの会社に賭けることができる。彼らは投資のうちのごく一部だけが成功することを理解している。彼らは5年ほどの時間をかけて金を設けることがフォーカスとなる。しかし英国ではフォーカスは生き残ることだ。より少ない資本で、より多くの収益を得ることが必要となっている」と、ジャングル・クリエーションズ(Jungle Creations)のファウンダーであるジェイミー・ボールディング氏は言う。

Facebook依存度が低い

英国におけるパブリッシング業界は、ほとんどがレガシーパブリッシャーたちがデジタルへと移行したものだ。ニュースUKやトリニティ・ミラー(Trinity Mirror)がそれにあたる。もしくはFacebookを第一プラットフォームとした、ラッドバイブル(Ladbible)、ジャングルクリエーションズ(Jungle Creation)のVTやユニラッド(Unilad)といったいわゆる「バイラルパブリッシャー」たちだ。

Facebookが動画へと舵を切ったことで、Facebookにトラフィックを依存していたパブリッシャーたちもその方向へと進んだ。英国のパブリッシャーたちにとってFacebookはトラフィック源となってはいるものの、アメリカと同レベルのスケールや依存度に至ってはいない。

プラットフォームを活用して収益をあげるためにはスケールが必要となる。Facebookのミッドロール広告であれば、何百万ものビュー数が必要となる。たとえこの数字が達成されても収益をあげるのは厳しいのが現実だ。

ミッドロール広告への疑惑

Facebookのミッドロール広告は90秒以上の長さを持つ動画に導入された新しいフォーマットだが、こういった新しいフォーマットを最初に試せるのはカリフォルニア州メンロパークのFacebook本社に近い、大手パブリッシャーたちだ。英国のパブリッシャーたちはこういったプログラムへの参加が遅れることに不満を持っているかもしれないが、彼らは先例から学ぶこともできる。

「業界の予測やフィードバックをもとに、英国ではこれを収益源とすることの優先度を低く設定している」と語るのは、英国タイム社(Time Inc.)のビデオ部門責任者であるミック・グリーンウッド氏だ。タイム社はミッドロール広告参加に関してFacebookからの承認を待っているところだが、詳細はなかなか届いてこないという。

「(ミッドロール広告の)CPMはFacebookの20秒間視聴を基準にした場合はまだ問題がない額だ。しかし、実際に売買が行われたときにCPMがどうなるのか、我々には知る由もない。3秒間視聴ルールでeCPMが測られたら我々の料金は低くなると考えている」と、彼は言う。

Facebookが3秒間視聴ルールを普及させ、そして後にメトリックとして失敗させた例は、Facebookの測定がいかに不完全であるかを示している。さらにオーガニックリーチを拡大することがますます難しくなっている点を考慮すると、Facebookはオーディエンスの拡大を制限することでパブリッシャーたちをより厳しい状況下でコントロールしていると言える。

広告収入の有無がすべて

究極的には広告収入があるところにパブリッシャーたちは行かざるを得ない。英国ではプログラマティック、ブランデッド・コンテンツ、ビデオオンデマンドも含めた動画広告支出は2017年の合計デジタル広告支出の13%しか占めないだろうと、eマーケター(eMarketer)は予測している。eマーケターはアメリカではこの数字は16%だと予想している。eマーケターのシニアアナリストであるビル・フィッシャー氏によると、英国における動画広告の成長を邪魔しているのは、ソーシャルプラットフォーム外におけるプログラマティックに取引されるプレミアムパブリッシャー向けの動画在庫の不足だと言う。「プログラマティックにおいてアウトストリームのフォーマットの数が増えれば、英国でもよりバランスが取れるようになるだろう」と、彼は言う。

プラットフォームからの収益が少ないと、パブリッシャーたちはブランデッドコンテンツに頼るようになる。しかし、それによって制作、スタジオ、制作会計、クライアントサービス、配給に対する投資が必要になる。またクライアントたちに対して支出に見合った成果を証明しないといけない。パブリッシャーのなかは、これらがまったくの未知のビジネスであるところも少なくない。

Lucinda Southern(原文 / 訳:塚本 紺)