時系列まとめ:テック企業に転職したジャーナリストの履歴書

ニュース報道に消耗し、疲れ果てたジャーナリストたちは、ここ数年がテクノロジー企業へ転身する、またとないチャンスだと気づいている。

FacebookやTwitterから、LinkedIn(リンクトイン)、Snapchat(スナップチャット)まで。最先端のテック企業は、メディア業界に別れを告げた人材に声をかけては、報道機関との関係構築や、記事の執筆を任せたがっている。

ジャーナリストは、特に人気だ。2015年の4月後半に、SnapchatがCNNの政治担当記者だったピーター・ハンビー氏をニュース担当責任者として招き入れたのは、こうした流れのなかで1番大きなものと言えるだろう。Snapchatは、2016年の大統領選に備え、記者の採用を増やしていく方針だ。

一方で、このような採用活動には複雑な側面がある。テクノロジー企業でのライティングの多くが、マーケティングの仕事を美しく飾り立てるためであり、ジャーナリストが期待する純然たるレポートの仕事ではないからだ。あるいは、方向を定めておらず、活躍できる場がないと気づく前に記者を入社させている。

以下に記すのは、ここ数年間でのメディア業界で名を知られた人たちがテクノロジー系企業に招き入れられた事例の要約である(退社例も含む)。

2010年7月 / Tumblr

「ニューズウィーク」のマーク・コートニー氏を採用

「ニューズウィーク」の退社理由はTumblr(タンブラー)を手伝うというもの。転籍先では「メディア・エバンジェリスト(伝道師)」の業務を担い、他の報道機関を魅了させていた。コートニー氏はTumblrのようなブログ形式のプラットフォームを「未来型の配信」だとし、「ニューズウィーク」在籍当時に推奨していた。だが、2013年にTumblrを退社し、アルジャジーラ・アメリカ(カタールの衛星放送局、アルジャジーラの北米法人)のシニア・バイス・プレジデントに転身。現在はデジタル・メディア・コンサルタントである。

2011年6月 / LinkedIn

「フォーチュン」のダン・ロス氏を採用

ビジネスパーソンが履歴書を更新する場から脱皮したかったLinkedInは、米経済誌「フォーチュン」の編集者だったダン・ロス氏をコンテンツ展開のために招き入れた。この起用は、LinkedInを配信プラットフォームから数百万ものコンテンツを製作する場に進める道筋を開いた。4年後のいまも、ロス氏はLinkedInで辣腕をふるっている。

2011年8月 / Facebook

「Mashable」のバディム・ラブルシク氏を採用

「Mashable」のコミュニティ・マネジャーだったバディム・ラブルシク氏は、もともとは同社のFacebook担当だったが、Facebookそのものに転籍した。幸福な結婚と言えるだろう。ラブルシク氏は現在、セレブや著名人情報アプリ「Facebook Mentions」のチームを率いている。

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Facebook Mentionsの画面

2012年1月 / Facebook

「ブルームバーグ」のダン・フレッチャー氏を採用

ダン・フレッチャー氏は「ブルームバーグ」のソーシャル・メディア・ディレクターを務めた後、Facebookの編集主幹に就任した。「Facebook Stories」プロジェクトを担っていたが、1年後に退社した。Facebookは実質的に記者を必要としておらず、騙されたと感じていると話した。

2012年2月 / Tumblr

「ブラックブックメディア」VPのクリス・モーニー氏と「ニューズウィーク」編集者のジェシカ・ベネット氏を起用

2012年、Tumblrは自社での記事配信を決断し、そのためにライフスタイル関連のキュレーションメディア「ブラックブックメディア」のバイスプレジデント、クリス・モーニー氏と、週刊誌「ニューズウィーク」編集者のジェシカ・ベネット氏を起用した。当時は「軽々しいPRではなく、真のジャーナリズムや分析の実践」が理由だとしていたが、1年後に2人とも解雇され、プロジェクトも終了した。

2012年6月 / Twitter

「ワシントンポスト」ソーシャル担当のマーク・S・ラッキー氏を採用

Twitterは、「ワシントンポスト」のソーシャルメディア担当編集者だったマーク・S・ラッキー氏を起用した。さまざまなジャーナリストに、Twitterをもっと上手に使ってもらおうという同社の方針によるもの。同氏は、3年間の在籍後、2015年5月に退社している。

2013年3月 / ハブスポット(HubSpot)

元「フォーブス」編集者のダン・ライオンズ氏を採用

元「フォーブス」編集者で、「偽ジョブズ」のペンネームでパロディ小説などを書いていたダン・ライオンズ氏は、セールス支援のハブ・スポットで「マーケティング・フェロー」に就任した。ブランデッドコンテンツの執筆向けに採用したと言われている。だが、「本来のジャーナリズムから逸れてしまった」と話したライオンズ氏は2年後に退社。新興メディア「Gawker」が運営するサイト「ヴァレーワッグ」のリードライターに転身した。

2013年4月 / Twitter

英紙「ガーディアン」のサイモン・ロジャース氏を採用

Twitterは、英国の「ガーディアン」紙のサイモン・ロジャース氏を初代データ編集者に起用した。数十億本に上る毎日の投稿から生まれる膨大なデータに潜むストーリーを発見するのが、同社での役割だ。ロジャース氏は、2年近く務めた後、現在はGoogleのデータ編集者に就任している。

2013年10月 / Twitter

「NBC」のヴィヴィアン・シャイラー氏を採用

Twitterの初代ニュース・パートナーシップ責任者に就任したのがビビアン・シャイラー氏。ナショナルパブリックラジオ(NPR)CEO、米大手テレビ局NBCの最高デジタル責任者などを経ての転籍。ジャーナリストにTwitter活用法を伝授したり、利用するパブリッシャーを増やしたりと、ニュース部門を10カ月間率いた。

2014年1月 / ウィスパー(Whisper)

「Gawker」のニーツァン・ジンマーマン氏を採用

「トラフィックの王様」の異名をとったニーツェン・ジンマーマン氏は「Gawker」を退社し、匿名ソーシャルメディアのウィスパーの編集者に転身した。ウィスパーはユーザーが投稿するコンテンツの閲覧を増やすために起用したと説明したが、1年後に退社。ウィスパーが匿名主義でプライバシーに配慮していると対外的に説明しながら、密かにユーザーを追跡していたことが、ガーディアン紙にスクープされた後だった。

2014年1月 / テスラ

「Pando」からハミッシュ・マッケンジー氏を採用

いまでこそクールな電気自動車テスラ。以前は、自社のことをメディアにうまく伝えられないでいた。2014年初頭、同社では実話系ニュースサイト「パンドゥ」のライター、ハミッシュ・マッケンジー氏を起用した。同社CEOのイーロン・マスク氏をメディアの酷評から守るためだった。当時、テスラの電気自動車から出火事故が相次いだので、対策PRを担った。同社には1年強在籍後、カナダのメッセンジャー・アプリ「Kik」のコミュニケーションズ・チームに転身した。

2014年3月 / Facebook

「ウォールストリート・ジャーナル」のリッツ・ヘロン氏を採用

ウォールストリート・ジャーナルの新興メディア担当編集者だったリッツ・ヘロン氏の起用。報道機関の提携先を増やしたり、管理したりするのが職務。同社のニュース配信プラットフォーム「Instant Article」を推進する同社にとって、パブリッシャーに参加するよう説得する役割が求められた。ヘロン氏は今なお同社に在籍している。

2014年8月 / Apple

「AnandTech」のアナンド・ライ・シムピ氏を採用

ベテラン・テックジャーナリスト、シムピ氏は、1997年から運営してきた「AnandTech」というガジェットサイトを閉鎖し、2014年夏にAppleに参加した。シムピ氏は同社での役割については語ろうとしていない。LinkedInのアカウントでは「ちょっと面白いことをしている」となっている。

2014年11月 / Snapchat

「The Verge」のエリス・ハンバーガー氏を採用

オリジナル・コンテンツづくりを目論むメッセージアプリSnapchat(スナップチャット)では、過去1年間にさまざまな編集者を採用していた。エリス・ハンバーガー氏は、Vox Media傘下テックニュースサイト「The Verge」のモバイル・アプリやソーシャルメディア編集者として有名だった。Snapchatでのハンバーガー氏は「リアル・トーク:Snapchatの新しくて輝かしきビデオとテキストのミックス」という報道などを行っており、今なお在籍している。

2015年2月 / Apple

BBCラジオ1(Radio 1)のDJゼーン・ロウ氏を採用

Appleは2015年5月に米音楽企業Beats Electronicsとその音楽ストリーミングサービスであるBeats Musicを30億ドル(3600億円)で買収した。2015年初めに、AppleはBBCラジオ1(Radio 1)のDJだったゼーン・ロウ氏を招き入れ、名称がつけられていないひとつのプロジェクトを主導させているそうだ。ロウ氏がプレイリストのキュレーションや、Appleの音楽サービス向けにミュージシャンにインタビューする仕事を担うという観測がある。

日本でも似た事例はある

近年、日本でも、同様の事例が相次いでいる。目立ったところをピックアップすると、以下のとおりだ。

2014年7月、「東洋経済オンライン」編集長だった佐々木紀彦氏は、東洋経済新報社から「NewsPicks」に移籍。『5年後、メディアは稼げるか?』(東洋経済新報社)の著者は、ベンチャー企業を選んだ。

2014年9月、「ハフィントンポスト日本版」編集長だった松浦茂樹氏は、「スマートニュース」に移籍。それ以前にも、ライブドアのポータル部門統括、コンデナスト・デジタル、グリーニュースとWebメディアを渡り歩いてきた同氏は、現在メディアコミュニケーションディレクターを担当している。

2015年4月、「暮しの手帖」編集長だった松浦弥太郎氏は、レシピサイト「クックパッド」に移籍。2006年から約9年間、長期に渡り『暮らしの手帳』の顔となっていた同氏の移籍は、大きな話題を呼んだ。

Ricardo Bilton(原文 / 訳:南如水)
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