「フラウドという『不良品』は、陳列棚に並べない」:The Trade Desk 新谷氏に聞く、WhiteOps 提携の背景

新谷哲也氏

新谷哲也氏

DSP企業のThe Trade Desk(ザ・トレード・デスク:TTD)は10月17日、アドフラウド対策を手がけるWhiteOps(ホワイトオプス)と提携し、入札前に不正インプレッションを除外する初の広告配信プラットフォームを提供開始すると発表した。

この内容について、TTD日本カントリーマネージャーの新谷哲也氏は、「DSPが自社のコストで、不正インプレッションを除去する点に意義がある」と述べる。本記事では、日本におけるアドフラウドの現状と今回の取り組みの狙いについて、新谷氏に聞いた。インタビューのハイライトを若干の編集を加えてご紹介する。

不正トラフィックの責任

「誰も見ていない広告を配信させるなど、不正な手段で広告収益をあげるアドフラウド。日本でも、アドフラウドの除去コストを広告主が負担するのはおかしいとの認識が広がりつつある。メディアのトラフィックを不正に操作されている点で、メディアも被害者だと思うが、この認識はもっともだ。我々としては、デマンドサイドが責任を受け止めるべきだと考え、DSP事業者の責任で、自社のコストで不正インプレッションを除去することに決めた。広告の不正トラフィックは長年にわたり業界を悩ませてきた問題だ。ぜひ、ほかのDSP事業者もこの流れに追随して欲しいと考えている」。

提携の本当の意味

「インテグラル・アド・サイエンス(IAS)の『メディアクオリティレポート』(2017年上半期)の調査結果によれば、ディスプレイ広告に占める不正インプレッションの割合は8.4%で、日本は11カ国中6番目に多い結果だった。この数字が高いか、低いかということより、不正インプレッションを除去することを明言し、アドフラウドにきちんと対抗するのだという立場を明らかにすることに意味がある。Googleもこの9月に不正トラフィックの払い戻しなどアドフラウド対策方針を発表し、10月にはSupership(スーパーシップ)がMomentum(モメンタム)と連携してアドフラウド対策を行うことを発表した。こうした流れが業界全体に広がり、ムーブメントを作っていきたい」。

WhiteOpsとの関係

「WhiteOpsとは、2016年にメスボット(Methbot)事件が明らかになったときから協力関係にあった。動画広告の視聴を偽装し、広告代理店や広告主から1日に300万〜500万ドル(約3.5〜5.9億円)をだまし取ったメスボットを発見したWhiteOpsとは協力関係を強化しており、それを進めたのが今回のアドフラウド対策ということになる。我々もメスボット事件以降、社内にマーケットクオリティチームが立ち上がり、疑わしいトラフィックを除外する取り組みを続けている」。

ヒューマン・ベリフィケーション・テクノロジー

「ヒューマン・インプレッション以外の、悪意あるソフトウェアによるインプレッションをWhiteOpsが検知すると、TTDはこのインプレッションを提供対象から除外する。これがヒューマン・ベリフィケーション・テクノロジー(Human Verification Technology)の仕組みだが、これはたとえるなら、『不良品を陳列棚に並べないための検品技術をよくしましょう』という話。そのためにまず、検品をきちんと行う立場を明らかにした。こうした認識はサプライサイド(媒体側)にも広がって欲しい」。

量に対するニーズ

「とはいえ、『安かろう、悪かろう』に対するニーズが完全になくなることはない。インプレッションの質は大事だが、単価を安く、CPAを安く仕入れたいニーズはある程度、残っていくからだ。ただし、安いプラットフォームを使えば、不良品を掴まされる可能性もあるということ。これまでのCPA至上主義では、メディアの質は問われなかったが、いまは『枠(メディア)と人(ターゲット)』が重要だとの認識が広がりつつある。これからは、メディアの質という点で、さらにすみ分けが進んでいくだろう」。

インプレッションの価値

「今回は、アドフラウドに関しての話だが、残る課題としてブランドセーフティとビューアビリティがある。我々は、ブランドセーフティについては、IASをはじめとするパートナーと協業して取り組んでいく。そして、ビューアビリティについても、広告代理店やメディアとともに取り組んでいる。特に、ビューアビリティは広告主のニーズが高まっており、CPA至上主義からインプレッションの価値が問われてきている。これは、インプレッションの価値を指標として認めてもらえるチャンスかもしれない」。

リーチ獲得はさらに難しい課題に

「最近、広告代理店が『どうやってネット広告で認知をとるか』について悩んでいる声を聞く。我々のプラットフォームをご利用いただいている広告主のなかにも、もはや指標としてのクリックは見ておらず、求めたターゲットに広告が当たっているかを重要視している広告主もいる。そのうえでビューアブルも求められるので、リーチ獲得はさらに難しい課題となっている」。

デジタル広告への期待

「厳しい課題だが、ターゲット・ブランドセーフティ・ビューアブルの両立を実現するところに、我々の成長があると考えている。また、上述したようなインプレッションの価値が指標として浸透することにも必要なことだ。ネット広告はリーチが弱いのは事実。オンターゲットを含め、メディアクオリティを高めていくことで、その弱点をカバーしていくことに期待している。P&G(プロクター&ギャンブル)は、今年、メディアへの広告予算を1000億円下げたという記事が出た。これは結果としての話であり、デジタル広告への期待の現れだ。我々は、ある広告主からは100%ビューアブル、100%ブランドセーフティ、100%ターゲットの実現を求められている。途方もない高い目標だが、我々も広告主に声を大にして訴えて欲しいと思っている。なぜなら、メディアの認識が変わり、メディアの協力なしではこの目標は達成できないからだ」。

デジタル広告の「あるべき姿」

「上述の通り、今回の提携は『不良品の検品をきちんとします』という話なので、提携そのものに具体的な目標はない。あえていうなら、広告枠の質を気にする広告主にとって、安心して手にとっていただけるようになったということ。もちろん、検品の正確率の課題はあるかもしれない。しかし、今回の提携が業界全体で刺激となり、一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会(JIAA)のステートメントに基づく、不正インプレッション排除という『あるべき姿』に向かって進んで行けば、これほど嬉しいことはない」。

Written by 阿部欽一
Photo by Shutterstock