「いま、すべての所有権は我々の手のなかにある」:スプリントのプログラマティック担当デジタルチーフ

すべてのブランドが、プログラマティックバイイングの技術やメディア専門知識を十分に持っているわけではない。だが、アドテクを自社運用する方法を学ぶブランドも少しずつ増えている。アメリカの大手携帯電話会社であるスプリント(Sprint)もそのひとつだ。同社は先ごろ、プログラマティックの社内運用を開始した。

スプリントはコスト削減対策の一環として、ディスプレイから有料検索、データ分析まですべてを網羅する社内デジタルエージェンシーを構築中だ。また、スプリントのチーフデジタルオフィサーであるロブ・ロイ氏によると、この電話会社はプログラマティックバイイングのプロセスからメディアエージェンシーを排除し、消費者データの管理や不正広告の抑制、そしてメディアの透明性強化を進めていくという。

「いま、すべての所有権は我々の手のなかにある」とロイ氏は述べた。「以前プログラマティックを外部委託していた際、我々は(データや広告キャンペーンの)所有権をしっかりと握っていたとはいえず、同じインベントリに対して二重に入札を行っていた。透明性が欠けていてはならない。我々は、自らが費やす1ドル1ドル、すべてを把握していたいと考えている」。

スプリントの内製化方針

スプリントがプログラマティックを社内へと移行したからといって、同社がメディア購入のためのまったく新しいデマンドサイドプラットフォーム(DSP)を構築しているわけではない。むしろ同ブランドは、膨大で多様なデータをネイティブフォーマットに貯蔵する「社内データレイク」を構築しており、データマネジメントプラットフォーム(DMP)としてアドビ(Adobe)、またGoogleダブルクリックビッドマネジャーなど4つのDSPと提携していると、ロイ氏は話す。彼は、スプリントがまもなく4つのDSPを統合すると話した。もちろん、子会社のピンサイトメディア(Pinsight Media)がモバイル分析とモバイルコマースの面でサポートしていく。

「いまは社内のプログラマティック運用に向けて、トレーダーやキャンペーンマネジャーの採用活動中だ」と、ロイ氏は話す。また、いまもホライゾン(Horizon)がスプリントの指定メディアエージェンシーではあるものの、社内チームと合同でオフラインメディアやブランドキャンペーンを扱ってもらうことが多く、プログラマティックバイイングはその範囲にないと加えた。「我々は今後さらに、メディアバイイングやメディア分析を自分たちで行っていく」と、同氏は述べた。

スプリントはカンザスシティ、バージニア州レストン、そしてワシントンDC.でのデジタルマーケティング業務約30件の人材募集記事を掲載している。

他ブランドの内製化事例

Netflix(ネットフリックス)やオールステート保険(Allstate)、チケットマスター(Ticketmaster)などのブランドもスプリントと同様、プログラマティックを社内マーケティング機能として運用している。データ所有の観点から見れば、広告主が社内アプローチを取るのも納得できるが、そこには欠点もあると、ピボタル(Pivotal)のシニアリサーチアナリストのブライアン・ウィーザー氏はいう。ひとつには、エージェンシーなしではブランドが最新のアドテク動向を追いにくくなり、キャンペーン展開がブランドの予想よりはるかに難しくなるかもしれないと、彼は語った。

たとえば、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、アドテク老舗のオーディエンスサイエンス(AudienceScience)とともに同ブランドの社内プログラマティックバイイング機能であるホークアイ(Hawkeye)を運営してきた。しかし、今年に入ってP&Gはオーディエンスサイエンスと袂を分かち、DMPにニュースター(Neustar)を、DSPにザ・トレード・デスク(The Trade desk)を選んだ。その一方でP&Gはメディアコム(MedeiaCom)およびハートアンドサイエンス(Hearts &Science)と管理サービスの提携をした。

「すべてのブランドにとって社内化が最適なアプローチ、というわけではない。Netflixでは順調に進むが、ほかのブランドはそうではなく、ハイブリッド型の方が良いだろう。いずれにせよ、マーケターが積極的に関与する必要がある」と、ウィーザー氏は述べている。「スプリントがメディアエージェンシーに回帰したところで、私は驚かないだろう」。

また、ウィーザー氏は、人材確保の観点から見ても、ベイエリアに位置するNetflixの方がかなり有利だと考えている。カンザスシティに勤務してくれるアドテクに強い優秀な人材を確保するのは簡単ではない。これに対し、スプリントは優秀な人材を呼び込むための対策として、他社以上の賃金や無料WiFiサービスや家族および友人対象割引など充実した福利プログラムなどの「いままでにない最先端の環境」を構築していると、ロイ氏は語った。

データの正しい活用が急務

スプリントは、オープンなアドテクプラットフォームを開発し、それをホワイトラベル化するか、もしくは他業界が将来活用できるデータを集めていくのか、まだ判断しかねているという。「収益化についても考えているが、まずは我々自身がこれを正しく活用しなければいけない」と、同氏は話す。「いまは、我々のデータすべてが集まる基盤となる技術スタックを構築している。データは複数のチャネルで使用でき、事実に命を吹き込んでくれる。そして、それを我々が実行していく」。

イギリスのリサーチ会社、カンターメディア(Kantar Media)によれば、スプリントが昨年、主要メディアに支払った経費は約6億9600万ドル(約786億円)であったのに対し、今年は前半の数カ月で1億6400万ドル(約185億円)をやや上回る程度だという。

Yuyu Chen(原文 / 訳:Conyac