世界中のパブリッシャーを敵に回す男、ロイ・カーシー氏:アドブロック企業シャインCMOが戦う理由

イスラエルに拠点を置くアドブロック企業、シャイン・テクノロジーズ(Shine Technologies)のCMO、ロイ・カーシー氏は、成長期のほとんどをイスラエルの外で過ごしたため、典型的なイスラエル人とはいろいろな点が違うという。たとえば、彼は行列の前に割り込んだ経験が一度もない。また、銃を構えることを拒んだため、イスラエルの兵役義務を免除された。華奢な身体で穏やかに微笑むカーシー氏は、親しみやすく温和な印象の人物だ。

ところが、話題がアドブロックの件に及ぶと、40歳のカーシー氏は一変する。アドテクから消費者を保護するという自身の取り組みを、まさしく全面戦争だと考えているのだ。

広告業界をイラ立たせる男

論争の最中にあるパブリッシャーたちはこの1年間、自分たちが新しい敵と対峙していることに気づいている。その敵とはアドブロック企業だ。なかでも、彼らにとって何よりも苦痛の種となっているのはシャインだろう。同社と、同社の顔として活動する闘志旺盛な人物が、モバイル広告業界を脅かしている。

業界のイベントにしょっちゅう顔を出しているカーシー氏。ただし、壇上に呼ばれるのではなく、聴衆のなかに紛れ込んで、しつこく攻撃を繰り返す。また、Twitterでいつも敵を挑発している。ほかのアドブロック企業がパブリッシャーに対して融和的な姿勢を見せているのに対し、カーシー氏は好戦的な言葉を多用しているのだ。

アドブロックに関する議論は続いているが、否定できないことがひとつある。すべてのアドテク企業集団は、自らを守るために這い回っているということだ。

カーシー氏は自社の技術について、モバイルキャリアがすべての広告をブロックできる「核兵器」と呼び、「アドテクに対してミリタリーグレードの保護を提供」するはじめての製品だと述べている。広告は「消費者を虐待している」というのが、同氏の好む表現だ。

業界でヒーローになりたいのか?

シャインは2015年、「フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)」に、とあるチラシ広告を掲載して業界を混乱させる。それには、ダウンしているリストン選手の側で、誇らしげに仁王立ちしている、モハメド・アリ選手の写真が掲載されていたのだ。そしてその下には、「@IAB(インタラクティブ広告協議会)は我々がブロック(防御)できることは知っていた。しかしいま、我々はパンチ(攻撃)もできることに気づいたはずだ」と書かれていた。

さまざまなイベントの場で、カーシー氏の乱暴な物言いをパブリッシャーや広告企業の幹部が受け入れたことはない。2016年2月に開催された「モバイルワールド会議(Mobile World Congress)」のある討論会で、パネリストとして参加した米ヤフー(Yahoo!)のEMEA(欧州/中東/アフリカ)地域担当バイスプレジデント、ニック・ヒュー氏は、次のようにやり返した。「カーシー氏が消費者にとって何が善なのかをまるで裁判する者のように振る舞っていることは知っている。しかし申し訳ないが、そのような行いが消費者にとって果たして善であるのか、私には到底わからない」。

また、Googleでメディアおよびプラットフォーム担当マネージングディレクターを務めるベンジャミン・ファエス氏は、こう述べた。「こんなふうに物事を単純化してしまうこと(アドブロックすること)を大変懸念している。私は自分のスマートフォンに『虐待された』などと感じたことはない」。

しかし、イベント以外の場でも、カーシー氏に悪びれた様子はない。「イスラエル人に対して頑固かどうか尋ねているが、そのとおり。文化的に我々は意固地だし、私も意固地だ。意固地だといわれるのなら、仰るとおりだというしかないね」。

1. フォーブス(Forbes)が努力しているのはよいことだ。2. だが、彼らは自分たちがマルウェアを提供していることを知らなかったらしい。で、今度は個人情報が欲しいって?

通信業者が導入しだした!

これが単なる議論なら、パブリッシャーはシャインを単なる厄介な存在として無視することもできただろう。しかし、パブリッシャーの目には、シャインのアプローチ自体が、モバイル広告ビジネスを危険に晒すものとして映っている。アドブロック・プラス(Adblock Plus)など、ほかのアドブロッカー製品は、ユーザーが自分のデスクトップブラウザにあらかじめインストールすることが必要だ。それに対し、シャインはネットワークレベルで広告をブロックし、すべての広告を最初から消し去ってしまうことができる。

2015年には、ジャマイカのモバイル通信業者、ディジセル(Digicel)が、シャインの技術を使って自社のモバイルネットワークで広告をブロックする取り組みをはじめると発表した。2016年には、スリー(Three)がヨーロッパではじめてこの技術を採用するモバイル通信業者となっている。さらにカーシー氏は、米国のある通信業者のネットワークでシャインの技術のテストが行われていると述べた(ただし、通信業者の名前は明らかにしていない)。

いまのところ、アドブロックは主にデスクトップで問題となっている。そのため、シャインはデスクトップと比べて小規模ながら、これまで比較的安全であったモバイル広告分野に狙いを定めているという。

パブリッシャーの業界団体は、米国でシャインのやり方が合法であるとは到底思ってはいないが、いまも戦い続けている。

「嫌がらせのためではない」

IAB(インタラクティブ広告協議会)の公共政策担当バイスプレジデントのデーブ・グリマルディ氏は2016年4月、シャインのようなネットワークレベルのアドブロックについて、「陰湿な」傾向を示すものだとレポートしている。「こうした悪者は、パブリッシャーから盗みを働き、報道の自由を傷つけ、記事の内容を検閲するようなビジネスモデルを運営している。これは結局のところ、情報の多様性をますます失いながら、その情報に対してより多くのお金を消費者に支払わせる行為だ」とグリマルディ氏は記した。

また、IABの会長兼CEO、ランドール・ローゼンバーグ氏は「ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)」とのインタビューで、シャインのようなアドブロック企業を、「見当違いで馬鹿げたことをいって妙に絡んでくる」ような「取るに足らない者」だと語った。

だがカーシー氏は、現在のIABの政策こそ「見当違い」と称し、この業界団体もアドテクから利益を得ていることを指摘した。事実、アドテク企業はIABの構成メンバーのなかで一定の割合を占めているのだ。

「我々は悪人になっていることを楽しんでなどいない」と、カーシー氏はいう。「気晴らしや嫌がらせのためにやっているのではない。我々の一部の言葉使いが、あちら側にとっては非常に不愉快なのだろう」。

@IABと@ローゼンバーグのいうとおり、アドブロックを支えているのは「おかしな名前」をもった「ろくでなし」だ。@サティア・ナデラ(マイクロソフトのCEO)が取引したのだからな!

異色の経歴をもったCMO

こうした表現をする背景には、シャインが確かな支援者や技術専門家に支えられているという事実がある。同社は2011年にモバイルマルウェア対策企業としてスタートし、香港実業界の大物である李嘉誠氏が設立したホライゾン・ベンチャーズ(Horizons Ventures)から330万ドル(約3億4000万円)の資金を調達。また、カーシー氏がマネージングパートナーを務めるイニシャル・キャピタル(Initial Capital)からも資金援助を受けている。イスラエルが本拠地で、従業員は40名だ。

当初はウイルス対策ソフトウェアの販売をしていたが、シャインは自社の技術がターゲット広告への対応に再利用できることに気づき、アドブロックに重点を置くようになった。

カーシー氏はすぐに、投資家から、同社のスポークスパーソンへと転身した。イスラエルにいた子供時代に父親からはじめてテクノロジーを学ぶ。父親は大手コンピュータ企業のデジタル・イクイップメント・コーポレーション(Digital Equipment Corporation:DEC)で働き、1970年代後半には電子メールを使用していたという。その後、カーシー氏はさまざまなテクノロジー企業でマーケティング職を務めた。そのあいだ、シリコンバレーの情報を伝えるブログサイト「テッククランチ(TechCrunch)」の創設者マイケル・アーリントン氏を説得し、同サイトにイスラエルの新興企業に関する記事を書いてもらったことがある。このときの経験は、彼のコミュニケーションスキルを高めるのに役立ったようだ。

アドブロックの分野は、のるかそるかの勝負だ。米国で2015年にアドブロックを利用していた人の割合は、前年比で48%増加。月間アクティブユーザー数が4500万人となり、パブリッシャーに220億ドル(2兆3000億円)の損害をもたらしたと、アドビシステムズ(Adobe Systems)とページフェア(PageFair)の共同レポートは報告している。パブリッシャーはさまざまな戦略を用いて反撃を実施。広告を整理したり、パブリッシャーに対してのアドブロックを無効にすること(コンテンツ閉鎖やアドブロック解除を促すこと)で、パブリッシャーを支えるよう求めたりしている。

「微妙な表現をする時間はない」

米ヤフーのヒュー氏は、シャインが本当にパブリッシャーを支援したいと考えているなら、そもそもユーザーが広告をブロックしている理由を説明できるようにすべきだと主張する。そうした情報は、業界が状況を改善させるために役立つ可能性があるからだ。「インターネットが広告で成り立っていることには、正当な理由があると、我々は確信している」と、ヒュー氏はいう。「このことがイノベーションを生み出すのだ。広告を取り除けば、イノベーションに資金を提供する力も取り除かれることになる」。

一方のカーシー氏は、業界の利害関係者に対して「アドブロックの次に来るもの」について話すことに、より多くの時間を割いている(ただし、この話は極秘事項だとして、話し相手の名前を挙げようとはしない)。「我々の目的について、誤った理解や描写がなされてきた。これは広告を終わらせるという話では決してない。我々が大胆不敵に振る舞っているように見えるのであれば、それはそのとおり。なぜなら、メッセージを伝えなければいけなかったからだ。だがいまは、消費者のためにこの問題を解決しなければならないだけでなく、広告主やパブリッシャーとともに問題を解決しなければならないようだ」と、同氏は話す。

だが、同氏が挑戦的な物言いをしなくなったのは束の間だった。2週間後、カーシー氏は自身が態度を和らげたと見られないようにするため、米DIGIDAYに対して1通のメールを放ってきた。「Powerful quotes(強力な主張)」という件名のメールで、彼は次のような文章を送ってきた。「Googleはシャインを、遠慮のないやつらだと批判している。だが彼らは間違っている。我々は『遠慮がない』のではなく、容赦がないのだ。この問題と同じくらいに。だから、微妙な表現をしている時間はない」。

カーシー氏がIABからイベントの招待状を送られることはないのは、まず間違いない。

Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)
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