「量から質へ」:規模の追求を見直すパブリッシャー

規模の追求を何年も続けたあとで、数多くのパブリッシャーが規模の争いから撤退している。

依然として、ほかで掲載された情報を再利用するアグリゲーションや、話題のコンテンツを取り上げることから得られるトラフィックに大きく依存しているパブリッシャーも多い。だがその一方で、「アウトライン(The Outline)」「リンガー(The Ringer)」「アクシオス(AXIOS)」のような比較的新しいパブリッシャーは、アクセスを手早く獲得するアグリゲーションなどの戦術を完全に無視するか、使用を大幅に減らしているのだ。また、レガシーパブリッシャーも、そうしたコンテンツの制作コストを最小限にして、そこから絞り出す売上を増やす方法を見つけようと試みている。

いくつかのパブリッシャーは、公開する記事の総数を減らすことさえ検討しているようだ。「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」は、最近公開した社内レポートで、毎日数百件という「あまりに多くの」記事を公開しているが、「大きなインパクトに欠け、オーディエンスに届かない」と指摘。自社のコンテンツが果たすべきもっとも基本的な役割である、「価値のある目的地」となることに失敗していると結論づけた。

「この業界は一部、撤退の状況にある」と、アウトラインを創設したジョシュ・トポルスキー氏は語る。「人々は現在、量に麻痺してしまっている」。

「私が思うに、デジタル分野に存在するビジネスの95%は相変わらず量のビジネスだろうが、一方でそれとは違うビジネスが台頭しているのではないか」。

果てしないスクロール

デジタルパブリッシングの黎明期には、規模の追求にマイナス面はなかった。雑誌や新聞のようなページ数の制限がないため、パブリッシャーは記事を際限なく制作し、それに広告を挿入し、オーディエンスが日々拡大していると思われる環境のなか、低コストで配信できていた。

しかし現在は、無報酬の寄稿者の投稿、瞬発力の「トレンディング」チーム、複雑怪奇なコンテンツシンジケーションの提携などがある。これにより、ほぼ誰でも早くて安価なコンテンツを簡単に入手でき、その結果、コンテンツの件数は目が飛び出るような数になった。

「デイリー・メール」(The Daily Mail)」は日々、1200本の記事(および600本超の動画)を量産している。「ワシントン・ポスト(The Washington Post)」は500本の記事を掲載し、通信社から配信されて公開する記事の数はそれより何百本も多い。「リファイナリー29(Refinery29)」は、コンテンツ戦略とイノベーションを担当するシニアバイスプレジデントのネハ・ガンディー氏によると、特集記事にほぼ全力を注いで以降、1日の公開記事の3分の1近くが話題の記事になっている(うち20%が特集)。

「このようなやり方で記事を公開するのは贅沢なことだ」と、ガンディー氏は語る。「我々は、話題のニュースに頼ってビジネスを構築することを目指しているのではない。それでも、大きく成長することで、さまざまな人材を雇う機会を得た」。

量よりも質

大半の大手パブリッシャーは現在、多少の違いはあるにせよ、こうした競争を続けている。だが、新しいプレミアムパブリッシャーの多くは、はじめから違う戦い方を選んだ。ビル・シモンズ氏率いるスポーツおよびポップカルチャーサイトの「リンガー」は、1日に30本足らずの記事しか公開していない。ジェシカ・レッシン氏が設立したペイウォール型のプレミアムビジネスサイト「インフォーメーション(The Information)」に至っては、1日わずか2本だ。「アクシオス」は大量のコンテンツを公開してはいるものの、ほかでは一般的なアグリゲーションやリブログ(ブログの投稿を引用すること)は、ほぼ避けている。

これらのパブリッシャーが量の戦略から距離を置くのは、安価な即席の記事の価値が下がっているからだ。ディスプレイ広告の価格は年々下がり続けてきた。広告主たちは、長年に渡って規模を求めたあとで、これまで重視していたオーディエンス数の重要度を大幅に下げ、代わりにサイトのログインユーザーや登録ユーザーに関する詳細な情報を選ぶようになった。

「コンテンツの多様さとページインプレッション数は、必ずしも重要ではない」と、電通イージス(Dentsu Aegis)のメディア投資部門アンプリファイ(Amplifi)で最高デジタル責任者を務めるルイーザ・ワン氏は語る。同氏によると、広告主にとってより魅力的なのは、登録ユーザーやログインユーザーから引き出される大量のオーディエンスデータだ。何年も前に広告主が欲しがっていた生の数字を提供するようなパブリッシャーが多数存在する一方で、いまワン氏が切望するオーディエンスの詳細を提供できるパブリッシャーは少なく、せいぜい20社程度だという。

とはいえ、どんなパブリッシャーであれ、収入源と縁を切りたいわけではない。そんなわけで、パブリッシャーはこれまでずっと、早くて安いコンテンツから絞り出す売上を増やしつつ、コストを管理する方法を考え出そうと努めてきた。その方法にはいくつか形がある。

「タイムズ(The Times)」は2016年12月、自社の各サイトのあいだで記事を調整し配信する10のトピック別ニュースデスクをローンチした。一方、「スリリスト(Thrillist)」からニューヨーク・タイムズまでさまざまなパブリッシャーは、自前のサイトやさまざまなプラットフォームで古いコンテンツの再公開に着手している。

「あるプラットフォームから次のプラットフォームに話題を移せるなら、話題になるうえで大きなチャンスだ」と、ガンディー氏は語る。

ゆっくりと着実に

こうした手法は、ディスプレイ広告市場の斜陽が続くなか、人気を失っていくだろう。しかし、バナー広告はあと8~9年は残ると予想されていて、減少はゆっくりと着実に進むことになるだろう。「市場はまだ追いついていない。したがって残念ながら、こうした企業は、正しいことだけをしているわけにはいかない」と、「USAトゥデイ(USA Today)」と「Boston.com」でシニア編集者を務めたダン・フォーガティ氏は指摘する。「四半期の数字はひどいものだろうから、よくないこともやるしかない」。

パブリッシャーは徐々に、オーディエンスを増やすためのコンテンツ競争から後退しつつある。その一方で、さまざまなオーディエンス規模をより正確に把握することが、次第に重要になってくるかもしれない。「自社のオーディエンスに(市場のほかとは)違う価値があることを認めるなら、貴重なオーディエンスほど限りがあることを認識する必要がある」と、トポルスキー氏は指摘する。

「つまり、受け入れがたいことを受け入れないといけない」と、トポルスキー氏は続ける。「それは、自社のオーディエンスは自分が考えているよりもずっと少ない、ということだ」。

Max Willens (原文 / 訳:ガリレオ)