広告主の不安に乗って、取引を拡大するパブリッシャーたち

プログラマティックによるメディアバイイングに対するマーケターの不安が広がっている。そして、それが結果的にパブリッシャーの得になっているという状況が発生している。

不安の原因はいくつかある。広告主はデジタルにおけるメディアバイイングで自社の広告が問題のある場所に表示されてしまったり、広告詐欺の被害にあったり、という体験をしてきた。またEUの「一般データ保護規則(GDPR)」の悪影響も懸念されている。そんななか、広告主たちはパブリッシャーたちと直接プログラマティックメディアについて話し合いをするようになってきているのだ。そのためパブリッシャーにとっては、彼らの自社データをクライアントとシェアし、より良い在庫アクセスを提供するインセンティブが発生している。その見返りとして、広告主たちはパブリッシャーと直接、セカンドパーティデータを扱った取引にも応じやすくなり、予算の無駄に関してよりコントロールを効かせることができる。

プログラマティック取引において、異なるデータ共有の形式を考慮するため広告主と直接詳細に立ち入った話し合いをしているメディアが増えてきているのだ。ビジネスインサイダー(Business Insider)とノーザン&シェル(Northern & Shell)はそんなメディアの例だ。

欧州のGDPRが後押しに

英ビジネスインサイダーのマネージングディレクターであるジュリアン・チャイルズ氏は、「我々のオーディエンスへ、いかに確実に、そして透明にアクセスできるかという点に関してクライアントサイドとの話し合いを増やしている。GDPRが施行されることで、ブランドのコンプライアンスという観点ではパブリッシャーとブランド間のこういったより深い透明な関係が、これまでよりもずっと重要になる」という。

GDPRが施行されたあと、データの受け渡しに関するリスクをなるべく下げたいと多くの関係者が考えていることが、この事態の根底にはある。デジタル広告サプライチェーンにおけるデータ利用のコントロールは非常に重要だ。求められているのは、より少ない信頼できるパートナー関係を築き、ほかの不明な会社やサービスとのデータの共有を避けることだ。パブリッシャーに勤務する関係者たちは口をそろえる。

とはいえ、パブリッシャーとクライアント間の直接の取引へのシフトはGDPRが最初のきっかけとなったわけではない。むしろデータ利用にまつわるGDPRの取り決めはトレンドを後押ししている形だという。

進歩的な広告主たち

進歩的な広告主たちは長年に渡ってプログラマティック戦略のコントロールを強めようと努力して、さまざまな手法を取り入れてきた。インハウスのデータ管理プラットフォーム(DMP)を使って、自社データのコントロールを強めようとするのは、そのひとつだ。テクノロジー関連のパートナー、アドサーバーを自分たちで選ぶ、という手法を選んだところもある。

アクセンチュアのようなマネージメントコンサル企業は、広告主のプログラマティックを自社でやってしまいたいという願望に取り入ってきた。メリアホテルグループ(Melia Hotel Group)といったクライアントを獲得したのは、そういった経緯となっている。プログラマティックなメディアバイイングを自社で行うことは、内部にメディアの専門知識と経験を抱えなくてはならない。これは、かつてのブランドには、存在していなかった人材だ。支出にも大きな影響を与える。すべてのブランドができることではない。メディアプランニングとバイイング、キャンペーンの運営はエージェンシーに頼る、というのがほとんどのブランドだ。

しかし、アクセンチュアのグローバルマーケティング責任者であるアミール・マリーク氏は、プログラマティック、ディスプレイ広告のうち少なくとも10%は、2019年までに広告主たちが直接取り引きをするようになるだろうと予測している。

「バリュー・チェーンにおいてパブリッシャーたちは損をしてきた。部門をインハウスにすることでクライアントは、メディア評価や効率化を行うようになる。それによってメディアのオーナーたちと直接コミュニケーションを取るようになる。これは非常に面白い副産物となるだろう」と、マリーク氏は語る。彼は元トリニティ・ミラー(Trinity Mirror)のプログラマティックディレクターだった。そうなると理論上は、パブリッシャーたちが受け取るCPMとマージンは、より高くなる。「パブリッシャーたちはクライアントと合意できる収益設定でも十分にメリットを受けることができるだろう」と、彼は付け加えた。

直接的な関係のメリット

これによって不明なエージェンシー手数料やテック手数料を減らせることが、もうひとつのメリットだ。特にパブリッシャーにとってはテック関連の手数料は、問題となっている。プログラマティック取引によって収益の中抜きと言えるような被害にあっているからだ。英ガーディアン(The Guardian)のようなパブリッシャーは厳しく対策を取りはじめている。

またエージェンシーのリベート文化に頭を悩ませているパブリッシャーにとっては、広告主と直接コミュニケーションを取れることは大きなメリットがある。不透明なリベート文化は多くのパブリッシャーにとってディスアドバンテージとなっている。「広告エージェンシーとリベート契約をしていないパブリッシャーは、そのエージェンシー経由では、あまり収益を見込めない。広告主にとっては魅力的なオファーをしていても、リベート取引がないパブリッシャーとの契約をエージェンシーは全力で阻止しようとする。そのため、リベートに関して広告主のコントロールが効いていれば効いているほど、パブリッシャーにとっても良いのだ」と、コンサル企業イビキティ(Ebiquity)のデジタル責任者でありティム・フセイン氏は言う。

ジャガー・ランドローバー(Jaguar Land Rover)のようなブランドはパブリッシャーとの直接的な関係を歓迎している。バイイングの透明性を高めるためび、パブリッシャーと直接取引をする機会を増やしているのだ。先月行われたフェスティバル・オブ・マーケティングにおいて、JLRのデジタルマーケティング部門グローバルヘッドであるドミニク・チェンバーズ氏は、プログラマティック取引のサプライチェーンには中間業者が多すぎると批判した。アドテクの構造においてどこに価値が存在しているのか広告主は、あらためて疑問の目を向けている。そして、パブリッシャーたちとの直のやり取りを増やしているのだ。「コントロールとクオリティをしっかりと確保する必要がある。それから良いコンテンツに注力するんだ」と、彼は言った。

まだまだ新しい分野

データパートナーシップは、まだまだ新しい分野だ。参考となる例はまだ少ない。トリニティ・ミラーは、ほかのパブリッシャーサイトでもオーディエンスをターゲットするために、広告主であるネスレ(Nestle)に自らのオーディエンスデータを使うことを許可した。クライアントのアトリビューションモデルをパブリッシャーが理解し、キャンペーン単位ではなくユーザーターゲットという観点で、クライアントはどんなデータを買おうとしているのかパブリッシャーが理解することで、話し合いはより深いレベルまで到達する、とチャイルズ氏は言う。

パブリッシャーのなかには、彼らが保有するDMPデータをクライアントのデータと組み合わせる方法を探っている。たとえば、あるユーザーがどのフットボールチームのファンかというデータを使ってカスタマイズされたメッセージを送るとして、それをクライアントが保有するデータに基づいて送信のタイミングを決定する、といった具合だ。パブリッシャーは自社データとクライアントのCRMデータを組み合わせることで潜在顧客のプロフィールを作り上げることができる。

「ブランドが何らかの形でオンラインに存在を作り上げたとき、彼らはメディアオーナーとなる。パブリッシャーと同様にオーディエンスを集めるのだ。これはセカンドパーティデータを得る大きなチャンスを生み出す」と、マリーク氏と言う。

求められるハードルは高い

しかし、こういった取引が求めるハードルは高い。「データは金だ。一カ月ちょっとのキャンペーンやそこらで誰にでも提供してしまうわけではない」と語るのは、ショートリストメディア(Shortlist Media)のプログラマティック責任者であるデービッド・ヘイター氏だ。彼の会社は自社のデータをクライアントに応じてどう活用できるか、社内で議論しはじめている。

また、ショートリストメディアが所有するサイトの外で、クライアントがデータを活用したいと思うか、その範囲を探っているという。彼によると、このレベルのパートナーシップは最低でも6カ月、数千万ポンド(数十億円)単位の予算があるキャンペーンの必要があるという。

Jessica Davies(原文 / 訳:塚本 紺)