Apple「News」に失望の色を隠せないパブリッシャーたち

雑誌『タイムマガジン』などを刊行する大手出版社タイムの代表取締役ジョー・リップ氏は2015年11月5日、米政治メディア「ポリティコ」による電話取材にて、Appleのニュースアプリ「News」に対する不満を漏らした。だが、それは氷山の一角でしかない。

2015年9月16日、iOS9と同時にリリースされてから2カ月強。Appleの「News」については、ほかのパブリッシャーたちの間でも、トラフィックからユーザーエクスペリエンス、そしてAppleから提供されるデータまで、さまざまな不満が広がっている。新たなプラットフォームで、どれくらいのトラフィックが集まるかを事前に判断することは難しい。

しかし、「News」がホーム画面に追加されたiOS9は、かつてないほどアップグレード率が高く、11月2日までにiPhoneユーザーの66%が入手している。また、2015年10月のAppleの発表によると、「News」のユーザーは、すでに約4000万人もいるという。

そのような状況からAppleの「News」に、広範囲に渡ってコンテンツを拡散できる能力が期待された。また、新たなオーディエンスの獲得につながると考えられたため、パブリッシャーたちはそれぞれのコンテンツの多くを「News」に提供している。

コストが見合わない

多くのパブリッシャーは、Appleとの関係を悪化させまいと、取材には答えてくれなかった。だが、とあるパブリッシャーによると「トラフィックは期待外れだ」という。

そのパブリッシャーにおいて、「News」から得られる流入は、1カ月あたり100万ビューに少し届かないほど。悪くはない数字だが、スタッフに対する「News」の運用プロセスのトレーニングや、「News」用のコンテンツを用意することなどを考えると、いくらAppleがパブリッシャーを魅了させる機能を用意したとしても、そこまでの価値はないのかもしれない。

「多くのPVやトラフィックを生み出さなければ、提供されるデータも基本的には意味がない」と、ほかのパブリッシャーも話す。「Appleは障害を解消すると説明するし、おそらくそうしてくれるだろうが、残念だと思う。でも、『News』への配信自体を諦めるわけではない」。

広告販売ができない

Appleが提供するデータも問題となっている。Appleはページビューやシェア数などを含むデータを毎週提供しているが、パブリッシャーはオンデマンドの解析環境や、ユーザーの年齢、性別、性質などに関するデータを欲しがっているのだ。

パブリッシャーたちを説得するため、Appleはそれぞれが自らのトラフィックを計測できるようにし、アプリ内でも広告枠の販売を可能にする予定であった。しかし、Appleはコンテンツに調査企業コムスコア(comScore)のタグを付け加えることを嫌がっているという。

いまのところ「News」からあまりトラフィックを獲得できていないパブリッシャーにとっては、問題ないかもしれない。だが、将来的にこのアプリがトラフィックの重要な源となったとき、コムスコア独自のトラッキングが無ければ、広告枠を販売することが難しくなる。

Appleの広報は、このアプリからどれくらいのトラフィックがパブリッシャーに送られているかは明言しなかった。しかし、コムスコアをアプリに統合し、データダッシュボードを「早急に」準備すると話している。

「コムスコアのタグはまだ準備されていない。アプリ使用に関する古いデータは提供されたが、いまだ限定的なもの。広告販売するのも難しい」と、あるパブリッシャーの役員は話す。

「『News』がニュースキュレーションアプリ『フリップボード(Flipboard)』と競えるとは思えない。また、来年の終わりまでにAppleが『News』のアップグレードやサポートを終了しても不思議ではないだろう。ニュースアグリゲーションアプリは難しい。彼らもこれで利益を必要としているわけではないので、良いビジネスではない」。

アプリ自体にも改善点

また、新しいアプリにとって、大きな難関となるのがユーザーの習慣づけだ。同様に「Instant Articles」をローンチしたFacebookには、すでに大量のオーディエンスが存在している。しかし、iPhoneユーザーには、まだ「News」を起動して利用する習慣が広まっていない。

さらに、運用に関する問題もある。このアプリには70以上のパブリッシャーが参加しているが、アプリのトップページで一度に紹介されるパブリッシャーは限られている。そのため、他社よりトラフィック面で優位なパブリッシャーが出てくるのだ。

ユーザーエクスペリエンスにおいても問題は発生している。Appleの「News」には、それぞれコンテンツをプロモーションする方法が用意されていない。いくつかのパブリッシャーたちに望まれていた、フィード形式の表示でもないのだ。

Appleの「News」には2つの特徴がある。パーソナライズコンテンツと、レコメンドコンテンツだ。しかし、それほどパーソナライズされた感覚もなく、またレコメンドも同じニュースの他社バージョンがしばしば含まれる。これらすべてのことを踏まえると、Appleはこのアプリのリリースに不用意であったと感じてしまう。

すり合わせはこれから

しかし、すべてのパブリッシャーが不満を抱えているわけではない。「ワシントン・ポスト」(初回起動時にお気に入りのメディアを選ぶ画面で「CNN」「ESPN」「ニューヨーク・タイムズ」に次いで、4番目に紹介されている)にてデジタル領域開発担当の執行役員を務めるコリー・ハイク氏は、「『News』で読む、自社のコンテンツには満足している。新たなオーディエンスの獲得にもつながっている」と話す。「我々の新たなユーザーにとっては、素晴らしい出会いのツールであり、彼らがこのアプリで我々を見つけてくれて満足だ」。

また、不満をもつパブリッシャーたちも諦めたわけではない。このアプリが成長段階であり、オーディエンスの習慣づけがされるまでに時間がかかることも理解している。トラフィックをマネタイズができない危険性も十分あるが、現在はまだ新たなオーディエンスの獲得や、新しいプラットフォーム、配信方法などの魅力の方が勝っている。

Appleはパブリッシャーたちのニーズを理解し、彼らと協働するとしている。また、これと同時に、パブリッシャーたちはFacebookの「Instant Articles」にも改善を要求している。同サービスもソーシャルネットワーク上で広告枠の販売が難しいのだ。

とある役員の話によると、このような成長に伴う痛みは、プラットフォームとパブリッシャーが独自に成長を遂げてしまったために引き起こされたという。「プラットフォームは、パブリッシャーにとっては何が重要かを必ずしも理解していない」。

Lucia Moses(原文 / 訳:BIG ROMAN)