テック人材獲得に奔走する、パブリッシャーの献身:勤務形態、給与、やりがい創出

アメリカではテック人材が不足している。そんななか、GoogleやFacebookといった資金を豊富に有する巨大企業とパブリッシャーたちは、人材を巡って競争しなくてはいけない。

パブリッシャーたちはテック企業と給与で競争することはできない。そのため、彼らはフレキシブルな勤務スケジュールや、遠隔勤務といった条件を提供して人材を獲得しようとしている。たくさんの自由をエンジニアたちに約束する一方で、仕事内容もやり甲斐がある物にし続けないと、人材をキープすることは難しい。

勤務地・勤務形態で魅了

テック人材を引きつけるひとつの戦略としてよく使われているのが、人々が働きたいと思う場所に勤務地を作ることだ。コンデナスト(Conde Nast)やVox Media、BuzzFeedがテキサス州オースティンといったテックのホットスポットにオフィスをオープンしているのは、これが理由だ。パブリッシャーは規模の大小を問わず、この戦略をとっている。

ワシントン・ポストは200人のディベロッパーとエンジニアを抱えているが、そのうち10%はオレゴン州ポートランド、サンフランシスコ、サウスカロライナ州チャールストンといった都市から遠隔勤務をしている。ワシントンDCを本拠地とするアクシオス(Axios)のテック関連人材はそれほど多くは無いが、それでもシカゴやサンフランシスコといった本社以外の場所で働いている人が何人もいる。マッシャブル(Mashable)は、20人いるテックスタッフのうち少なくとも半分は、オレゴン州ポートランド、デンバー、フェニックスといった場所で遠隔勤務しているという。

需要の高いテック人材を満足させるため、パブリッシャーはエンジニアたちのスケジュールに合わせるという努力もしている。マッシャブルの主任データ科学者であるヘイリー・オワス氏によると、マッシャブルではプロダクトのデビューが近づくと、エンジニアたちは午前2時過ぎまで働き、次の日午後2時を過ぎてから出社するというスタイルが理解されているという。

給与および社風でも説得

一度獲得した人材に対しても、継続して勤務してもらうために、給与を他社と競合できる金額にしておかなければいけない。ワシントン・ポストのプロダクト責任者であるジョーイ・マーバーガー氏によると、大学を卒業したばかりのエンジニアで約8万5000ドル(約950万円)の年収を受け取っている者もおり、彼らが20代後半に差し掛かると10万ドル(約1100万円)を超えるという。

この金額はパブリッシャー業界においては競合できる金額かもしれない。だが、GoogleやFacebookといった巨大テック企業は簡単に、それよりもはるかに高い金額を提示してくると、マーバーガー氏は理解している。

テック企業が人材獲得に割く予算はパブリッシャーよりもはるかに大きいため、パブリッシャーたちは自分たちの場所で働くと、自立性の高いチームで働くことができ、新規採用の人材でも自分のプロジェクトを作る自由があると強調して、候補者たちを魅了しようとする。

「(巨大テック企業と比べて)きっちりとはしておらず、給与も少ないかもしれないが、エディトリアルや広告部門のスタッフに簡単に連絡をして質問ができるようなオープンな場所になっている。部門間の壁は可能な限り低くしようとしている」と、アクシオスの最高テクノロジー責任者であるマット・ボギー氏は言う。

やり甲斐創出という大問題

どこで、いつ、どんな風に勤務するかという点で、テック人材に大きな自由度を与えることは、テック人材獲得という面では効果的な戦略だ。しかし、非テック人材から「えこひいき」と見られた場合、思わぬ悪影響を与える可能性もある。それによって部門間の衝突を生み、会社のカルチャーを損ねてしまうかもしれない。

「私がこれまで働いてきた場所では、エディトリアルのスタッフが怒ったことはないように思う。けれど(もし怒ったとしても)、それは理に適っている。しかし、エディトリアルはニュースを取り扱うために、決まった時間にそこにいる必要がある。それに対して、テックの業務というのは、家を建てようとしてて、特に決まった時間がなく、いつでも好きな時間に建てられるのと似ている」と、匿名を希望するパブリッシャーのエンジニアは答えてくれた。

もうひとつの課題としてあるのが、パブリッシャーにおけるテック業務を常にやり甲斐のある面白いものにするのが難しい点だ。

知的な面でテック人材を刺激するために、パブリッシャーたちは自社のプロダクトを作ることに投資し続けないといけない。それがたとえ最初の開発段階では成果をほとんど生まないようなものであってもだ。そう回答してくれたのは匿名希望のパブリッシャー、エグゼクティブだ。この業界では、これは問題と成りうる。というのも、ベンダーをやめて自社でプロダクトを作ることを強調するワシントン・ポストのような会社がある一方で、第三者企業に依存しているパブリッシャーも同じくらい存在しているからだ。

「デベロッパーのチームは、第三者企業のサービスやソフトウェアを運営するよりも、実際に何かを作りたいと考えている。長年に渡って技術的にやり甲斐のある、意味のあるプロジェクトを提供し続けるのは本当に、とても難しい。しかし、いくつかの本当に素晴らしいプロジェクトを自社でやることにして、そこを中心にテック人材のプライドと目的意識を育てることが一番良い手法だろう」と、前述の匿名希望のエグゼクティブは言う。

Ross Benes(原文 / 訳:塚本 紺)
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