パブリッシャーのスナチャ離れ、インスタへの移行が加速

ハースト(Hearst)のデジタルメディア担当シニアバイスプレジデント兼編集長であるケイト・ルイス氏は、インスタグラムにおける同社のデータをスラスラとそらんじることができる。同社のブランドのうち、フォロワーが100万を超えるのは半数。女性ファッション誌ハーパーズバザー(Harper’s Bazaar)は300万フォロワーだ。だが、Snapchatのディスカバー(Discover)以外のアカウントの話になると、ルイス氏の歯切れは悪い。「ディスカバーのフォロワー数は膨大だが、Snapchatの個別アカウントのフォロワー数はインスタグラムには及ばない。具体的なフォロワー数は知らない」。

プラットフォームの世界の栄枯盛衰は激しい。2年前、Snapshotで競争率の高いディスカバー枠を獲得できなかったパブリッシャー各社は、先を争うように個別アカウントを取得し、ミレニアル世代とのリアルで個人的なつながりの構築に励んだ。当時は、1日に複数回の投稿も珍しくなかった。

だがいまや、Snapchatの親会社はユーザー数の維持・増加の雲行きが怪しくなり、それが株価下落にも表れている。一方、Facebookを親会社にもつインスタグラムは、Snapchatをマネた機能を次々に実装している。パブリッシャーはこうした取り組みを評価し、すでに多くがインスタグラムに軸足を移した。

静観するパブリッシャー

ハーストなど、ディスカバーにチャンネルを持っているパブリッシャーは依然としてSnapchatを重視している。厳選されたコンテンツが揃った環境で若いオーディエンスに発信し、ジャーナリズムを収益化する方法と考えているのだ。ディスカバーは現在、米国版では40チャンネルあり、ハースト傘下のブランドは複数の枠を有している。

「パブリッシャーにとって重要なのは、両方のプラットフォームでオーディエンスリーチを最大化し、単一プラットフォームへの依存リスクを軽減することだ」と語るのは、コンデナスト(Condé Nast)デジタルGM、マット・スターカー氏。コンデナスト傘下のブランドでは、ヴォーグ(Vogue)、GQ、ワイアード(Wired)、セルフ(Self)がディスカバーで配信を行っている。「Snapchatとインスタグラムは、いずれも購読者・フォロワーの母数が大きく、増加傾向にある」。

だが、ディスカバー以外の個別アカウントは、個人ユーザーが友人とメッセージのやりとりをすることを想定しており、パブリッシャーが多数のユーザーに向けて配信するためのものではない。アプリの核心であるメッセージ機能と、パブリッシャーのコンテンツをきっちり分けるというSnapchatの戦略は、ユーザー体験の質を保つのには有効だ。しかし、限られたリソースを数多くのプラットフォームに振り分けなくてはならないパブリッシャーからすると、Snapchatの費用対効果はいまひとつとなる。そのうえ、インスタグラムの米国以外での成長率はSnapchatを上回っており、一部のパブリッシャーは海外オーディエンスの知名度アップに、この勢いを利用することを検討しているという。

ターニングポイント

ターニングポイントになったのは、2016年8月にインスタグラムがスタートした「ストーリー」だった。Snapchatの「ストーリー」の丸パクリだが、ユーザーは気にしていないようだ。インスタグラム「ストーリー」のデイリーユーザーは、わずか2カ月で1億人に到達。同時期にSnapchatは四半期成長率が過去最低を記録した。その後インスタグラムは、ステッカーやカット&ペーストツールなど、Snapchatのほかの機能もマネて実装した。

さらにインスタグラムは2016年11月、パブリッシャー念願の外部サイトへのリンク設置を許可。先を越されたSnapchatも、2017年7月5日に同様の機能を追加した。また、以前は15秒だった動画の尺の制限が1分に伸び、パブリッシャーはインスタグラムを動画プラットフォームとしても評価するようになった。

ハーストは2017年5月、エル(Elle)で外部リンク機能のテストを行い、エルの公式サイトは数万アクセスを獲得した。ファッションという非バイラルのカテゴリーでは大きな数字だと、ルイス氏は言う。同氏によれば、現在エルのデザイナーは勤務時間の5分の1をインスタグラムに充てているが、半年前は5%ほどにすぎなかった。ほかのハーストブランドがインスタグラムで使えるストーリーのテンプレートも作成したという。「数万のユニークアクセスを得られるのだから、やる価値はある」と、ルイス氏は言う。

インスタグラムの利点

インスタグラムは、パブリッシャーがブランデッドコンテンツやeコマースを通じて売上を得ることも認めている。

女性ライフスタイルサイト「バッスル(Bustle)」設立者、ブライアン・ゴールドバーグ氏は、「ディスカバーにはぜひとも入りたかった」としつつも、それが実現しなかったことを受け、インスタグラムへの投資を増やした。バッスルでは現在、3人の社員が作業時間の少なくとも5分の1をインスタグラムに充てており、さらに1人のインスタグラム専任編集者がいる。「かなりの売上を得ている。広告契約の10%に、なんらかの形でインスタグラムが絡んでいる」と、ゴールドバーグ氏は言う。

視覚的プラットフォームとして知られるインスタグラムだが、重視しているのはライフスタイル誌だけではない。テックビジネスサイト「テッククランチ(TechCrunch)」のオーディエンス開発責任者、トラビス・バーナード氏は、インスタグラムはFacebookとTwitterに次いで重要なソーシャルチャンネルであり、ストーリー1投稿あたりの閲覧数は1万5000回を超えると語る。「我々は1日に何度もインスタグラムにコンテンツを投稿する。Snapchatは事実上、イベント専用だ」。BBCニュースやMicも、最近はインスタグラムにフォーカスしている。

パブリッシャーの本音

アウトリーチに関していえば、インスタグラムは2016年4月、元CNNのライラ・キング氏をメディアパートナーシップ責任者という新たな役職で迎え入れた。また、パブリッシャーに対してプラットフォームの活用法を解説するワークショップを開催しており、広報担当者によれば、今後数カ月のあいだに新たなパブリッシャーの参加が決まっているという。一方のSnapchatは、パブリッシャーにとってのディスカバーの利点を褒めそやす発言や記事を提供しただけだった。

ディスカバー不参加でありながら、Snapchatを見限るつもりはないパブリッシャーもいる。女性ファッション・ライフスタイルメディアのポップシュガー(PopSugar)はインスタグラムに高い関心をもっており、現在複数のアカウントを運営している。ポップシュガー・スタジオのプレジデント、デビッド・グラント氏は、インスタグラムがFacebook傘下である強みを生かしてパブリッシャーへの提供データの質を改善してくれることを期待している。しかし、いまのところ、Snapchatというチャンネルを閉じる気はなく、新しいリンク機能も試すつもりだという。

「行き先がひとつしかない世界はつまらない」と、グラント氏は語る。「2つの巨大配信プラットフォームがあることで、プラットフォームの質が高まる。両者にはずっと互いを憎みあい、殺し合いを続けてほしい」。

Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)