UX改善に注力しつつも、売上減に怯えるパブリッシャーたち

突然現れて本来のコンテンツを見づらくする広告を長年にわたりサイトに詰め込んできたデジタルパブリッシャーたちが、ユーザー体験の改善ということに気付き、関心を寄せるようになった邪魔になる広告に読者が反発しているうえ、ページのスピードを遅くする広告に対して、GoogleやAppleのようなテクノロジー大手が弾圧を強めており、否が応でも関心を持たざるをえないのだ。

しかし、ユーザー最優先にはトレードオフがある。パブリッシャーたちがこうした広告フォーマットに長きにわたり依存してきたのはなぜかと言うと、ごくわずかな例外を除けば、ほとんどのパブリッシャーが読者から直接的な売上を得るのに苦労してきたなか、そうした広告が売上をもたらしているからだ。

売上が減少する不安

ドットダッシュ(Dotdash:旧アバウトドットコム)の最高経営責任者(CEO)ニール・ボーゲル氏は、「稼ぎが減る不安はとても大きい」と語った。

ドットダッシュは、ボーゲル氏の指揮の下、ザ・バランス(The Balance)やベリーウェル(Verywell)などのサービス指向サイトを再スタートさせた際に、コンテンツレコメンドユニット、ポップアップ広告、音声付きで自動再生する動画広告といった迷惑な広告フォーマットを打ち切った。サイトがよくなればそれだけサイトの訪問者も滞在時間も増え、広告ユニットが減っても売上を増やせるだろうと踏んだのだ。営業担当者たちは売り物のサイトを新たに魅力的なものするというアイデアに賛成したし、広告主たちはテストの結果を気に入ったとボーゲル氏は言う。ただ、ボーゲル氏自身は「不安」を感じていた。

「読者と広告主には気に入られるが、儲けにならないものができていた可能性もあった」と、ボーゲル氏は述べている。

各社におけるUX改善

ユーザー体験の名において同じような難しい選択をしたパブリッシャーはほかにもいる。ギズモード・メディア・グループ(Gizmodo Media Group:旧ゴーカー・メディア)は、同グループのコンテンツ管理システム(CMS)である「Kinja」に一部サイトを移す際、短期的にはページビューが減ることを知りながら、サイトからスライドショーフォーマットを削除した。スレート(Slate)は、アウトブレイン(Outbrain)のコンテンツレコメンドユニットをサイトから削除したところ、広告料が激減した。コンデナスト(Condé Nast)傘下のGQは、横方向のフォトギャラリーフォーマットを、見栄えをよくするために縦方向のものに変えたところ、ページビューが犠牲になった。

「どんな広告製品もユーザー体験に影響する」と、スレートの製品開発ディレクターのデイビッド・スターン氏は言う。「人々は広告を求めてやってきているわけではないのだから、どんな広告体験も邪魔にはなる」。

ユーザー体験の改善によって失った売上を、パブリッシャーがいずれ埋め合わせることは可能だし、増やすこともあり得る。ドットダッシュは、失った売上を、すべてとは言わないまでもかなり取り戻した。GQの場合は、コンデナストの最高デジタル責任者(CDO)を務めるフレッド・サンターピア氏によると、読者数が増加し、得られる売上が少なくとも以前と同じくらいになっているという。「中核だったページビューを失った一方で、縦方向のユニットは巡回率が急激に増えていった。人々はギャラリーからギャラリーへと見て回っている」と、サンターピア氏は語った。

分が悪い制作サイド

しかし、ユーザーに関する懸念と広告売上に対する懸念とは、自ずと対立することが多い。そして、広告ユニットを失うことによる売上への影響が見えやすいのに対し、ユーザー体験を改善した恩恵を測定するのは(あるいは待つのは)、楽ではないと言えるだろう。

「売上側は影響を語れる」と語ったのは、ギズモード・メディア・グループのCEOであるラジュ・ナリセッティ氏だ。「一方、ニュース編集側が主張できるのは、ユーザー体験はよくなっているから、次第に人を引きつけるようになりエンゲージメントも高まるだろうということ。必ず分の悪い主張になる」。

売上を犠牲にするリスクを冒す変化に賭けるのが容易な会社もある。ドットダッシュは幸いなことに、取ろうとしているリスクを理解してくれる株主が親会社のIACにいた。そこで、一部の広告フォーマットの廃止を進めるのと同時に、ユーザーの滞在時間が伸びて失われた広告売上を埋め合わせられるとの確信を得るために、サイトの大幅な整備を行った。ボーゲル氏によると、「非常にうまく行き、あと心配なのは欲を出して台無しにすること」というところに、いまでは来ているという。

NYTが評価を得る理由

ギズモード・メディア・グループの場合、自社のサイトがKinja上に構築されていて、広告フォーマットについてはユーザーのことを考えた一定の規則があった。ユニビジョン(Univision)の傘下に入り、ユニビジョンのほかのサイトをKinjaに移行させた際には、移行したサイトもそうした規則を受け継いだ。ギズモード・メディア・グループは、トラフィックの少なくとも40%が所有サイトからのものだ。そのことが、人々はなぜ同グループのサイトに滞在するのかに注目する動機となっている。消費者から多くの売上を得ているパブリッシャーは、邪魔な広告の抑制をそれだけ主張しやすくなる。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)がユーザー体験で高い評価を得ているのもこのためだ。

「カスタマイズされたプラットフォーム上にサイトを構築するメリットは、非常に明確なガードレールがあるという点だ」と、ナリセッティ氏。「しかるべきところ、つまりうちの書き手たちが、オーディエンスを引きつける責任を負う。そのため、その障害となるあらゆるものについては、かなり念入りに話がされる」。

コンテンツレコメンドウィジェットと自動再生広告は、まだサイトでよく見かける。これは、読者を怒らせるとしても、お金になる広告と手を切るのが難しいパブリッシャーが多いことを示している。しかし、ページフェア(PageFair)によると、2016年はインターネットユーザーの11%が広告をブロックしているという。前年から30%の増加で、業界がアドブロックに動揺するなか、状況は変わりはじめている。

市場が求めるもの

CNNはこの1年半で、自サイトの広告の基準を上げ、動画広告の長さを15秒に制限したり、掲載するプログラマティック広告の数を抑制したりしたが、これは消費者ばかりでなく、広告主からもかかるプレッシャーに対処したものだと語ったのは、CNNの最高プロダクト責任者でシニアバイスプレジデントを務めるアレックス・ウェレン氏だ。

「市場がよりよいクリエイティブを求めたのだ。バナーブラインドネスというものがある。消費者は、悪い体験を締め出すためにできることは何でもしていた」と、同氏は語った。

またスレートについて、スターン氏は次のように語った。「営業担当者たちは常に、悪くなる一方であるユニットの増加を求めていた。いまは、誰もが同じ考えに立っている感じがする。広告主たちは、かつてのような押しの強さがなくなったのではないだろうか。広告ブロックと邪魔な体験に関する議論は、実に大きな影響があった」。

Lucia Moses (原文 / 訳:ガリレオ)