ゲーム風コンテンツ、5年ぶりにブーム再燃か?:米国大統選挙の余波

パブリッシャーたちは数年前、ゲームと恋に落ち、敗れた。そして、いま再び、ゲームに手を出している。

この2カ月の動きを振り返ってみよう。ハースト・デジタル(Hearst Digital)は、MSN向けにブランドのパズルゲームとクイズの制作を開始。ワシントン・ポスト(The Washington Post)とミレニアル世代向けニュースサイトのマイク(Mic)は、それぞれKik(キック)やFacebookのMessenger(メッセンジャー)などのプラットフォーム上で、ゲームボットの実験をはじめた。

テクノロジージャーナリストのジョシュア・トポルスキー氏がベンチャーの支援を受けてはじめた、通称ミレニアル世代向けニューヨーカーとされるザ・アウトライン(The Outline)は、開設から1週間足らずで「ムスクランダー(Musk Lander)」というゲームをリリース。紙媒体でも『ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)』が、12月18日の紙面にパズルの特別枠を掲載した。

パブリッシャーたちは、こうしたゲームの取り組みにおいて、まだヒットを生み出せていないのか、あるいはヒットしたとしても秘密にしている。米DIGIDAYは、ハーストに同社のゲームについてコメントを求めたが回答を得られず、ワシントン・ポストとマイクからは数字の公表を拒否された。

しかし、読者のロイヤルティを高め、彼らを自社サイトや運営サイトへ定期的に呼び込む方法を模索するパブリッシャーが増えるなか、再びゲームを試すところが出てきている。

新聞や雑誌には欠かせない

「我々のこれまでの仮説では、インタラクティブな要素があると、人々は定期的にサイトに訪れる」と、ワシントン・ポストのデジタルニュースプロダクト責任者を務めるグレッグ・バーバー氏は語る。「まだ、この仮説の証明にはほど遠いが、それこそが我々のめざす方向だ」。

 

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「ハースト・デジタル」が雑誌ブランドを冠して作ったMSN向けゲーム3種のスクリーンショット。左から女性誌のグッド・ハウスキーピング(Good Housekeeping)、女性向けファッション誌のコスモポリタン(Cosmopolitan)、男性誌のエスクァイア(Esquire)

 

クロスワード、ジャンブル(ワードパズルの一種)、数独のようなゲームは、何十年も前から新聞や雑誌には欠かせない存在だ。また新聞社をはじめとする多数のパブリッシャーは、デジタル収益の一部(とはいえ相当の額)をゲームから得ている。

たとえばニューヨーク・タイムズは2016年第3四半期、クロスワードアプリの売上から240万ドル(約2億8000万円)を稼いだ。また、USAトゥデイ(USA Today)やロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)などのパブリッシャーも、クロスワードからマッチングゲーム(同じ絵や画像を合わせるゲーム)まで、さまざまなゲームをプレイするために定期的に訪れる読者から得られる確実で安定した広告売上を頼りにしている。

広告売上への貢献度は高い

ゲーム開発企業のアーカディウム(Arkadium)は、これまでに挙げたパブリッシャーすべてにゲームを提供。同社の説明によると、ある提携サイトの場合、ゲームの平均セッション時間は15分を超えるという。そのあいだに、訪問者が観る広告の件数も、サイトの平均的な訪問者に比べて3件以上増えるのだそうだ。

「大半の提携サイトで、我々のゲームの利用者は(総読者数の)5%未満だ」と、アーカディウムの共同創業者のジェシカ・ロベロ氏は語る。「しかし、広告売上への貢献度はこの数字をはるかに上回る」。

ただし、約5年前にも、パブリッシャーたちがニュースや解説を伝えるツールとして、ゲームを活用するアイデアに手を出した時期があった。ワイアード(Wired)は、パンデミック(感染症の世界的流行)からソマリア海賊の経済まで、さまざまなテーマについて理解に役立つよう設計されたゲームをローンチ。「ハフィントン・ポスト(Huffington Post)」 も、2012年の大統領選の議論を中心に据えた、対戦型格闘ゲーム「モータルコンバット(Mortal Kombat)」風のゲームを公開した。

米大統領選で再び追い風

実のところ、11月に結果が出たばかりの米国大統選挙の余波で、パブリッシャーたちがゲームを利用する意欲を取り戻したようだ。ニューヨークタイムズは、エブリディ・アーケード(Everyday Arcade)が開発した「投票者を阻む行列(The Voter Suppression Trail)」というゲームを公開。ワシントン・ポストは「弱い候補者(Floppy Candidate)」というモバイルゲームを公開した。

時事サイトのウォンケット(Wonkette)は、英国拠点のゲーム開発会社オーロック・デジタル(Auroch Digital)と共同で「アメリカ合衆国選挙の戦い:ザ・ゲーム(Game Of U.S. America Elections: The Game)」というターン制カードゲームに取り組み、購入型クラウドファンディングサイトのキックスターター(Kickstarter)で資金を調達した。

 

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ワシントン・ポストのモバイルゲーム「Floppy Candidate」のスタート画面

 

こうした米国大統領選のゲームはみな、大きく報じられた。しかし、パブリッシャーがゲームへの投資を大きく増やすキッカケにはなっていない。「これらはジャーナリズムのためというより、奇抜さを求めて作られたものだ」と語るのは、ジョージア工科大学でメディア研究を専門とするイアン・ボゴスト特別教授。同教授には『ニュースゲーム:遊ばれるジャーナリズム(Newsgames: Journalism at Play)』という著書がある。「(こうしたゲームが)言論のレベルまで高まることはなかった」。

収益をあげる手段としても、大きな成果はなかった。数少ない例外のBuzzFeedは、どうにかクイズをドル箱にしている。BuzzFeedのエグゼクティブクリエイティブディレクターであるサマー・アン・バートン氏によると、いまやBuzzFeedのブランデッドポストの15%がクイズであり、この数字は増え続けている。しかし、多くのパブリッシャーは、お金になっていないものに、それなりのリソースを投入することを躊躇している。

片手間ではどうにもならない

「私は、『人はリスクを取りたがらないものだ』などとまとめたくない」と、オーロック・デジタルのプロデューサー、ピーター・ウィリントン氏は語る。「しかし思うに、メディアブランドは総じて、古いものが結果を出すとわかっているとき、新しいものを試みることに躊躇する傾向はあるだろう」。

FacebookやSnapchat(スナップチャット)のようなプラットフォームからオーディエンスを奪うことに注力するパブリッシャーが増え続けている状況で、ゲームには手をつける価値があるのかもしれない。ただし、それを確かめるには、ゲームに深くコミットするしかない。

「新聞を出すにしても、1回だけであれば、好奇心でなんとかなる。しかし、毎日出すとなると、組織が必要になる」とボゴスト教授は語った。

Max Willens (原文 / 訳:ガリレオ)