コンデナストは「デジタル化の遅れ」をいかに挽回したか?

コンデナストのファッションカルチャー誌「ヴァニティ・フェア(Vanity Fair:VF.com)」は昨年6月、スター級のライター陣とソーシャル最優先の戦略を駆使して、同誌初の独立したバーティカル(特化型)メディア「ハイブ(The Hive)」を創刊した。だが、デジタルディレクターのマイク・ホーガン氏は、別の意味で「ハイブ」の重要性を語る。

「すべてのコンテンツを内製して、大きな問題もなく予定通りに掲載するのは、我々にとって新しい体験だ」と、ホーガン氏。

二流だったデジタル施策

コンデナストの高級誌が一流だとすれば、同社のデジタル事業は長年に渡って、紙に遠く及ばない二流だった。印刷媒体の広告が堅調な状況で、デジタルは優先事項ではなかったから、時代の先取りなど問題外だ。各誌の専用サイトを開設するだけで、何年もかかったのだから。

たとえば、「ヴォーグ・ドット・コム(Vogue.com)」が本格的にローンチしたのは2010年。これは主に、コンデナスト傘下の雑誌が紙版の定期購読を増やすための販促手段として、サイトを扱ったからだ。ハースト(Hearst)やタイム社(Time Inc.)のようなほかの雑誌社が、デジタル能力を強化し、BuzzFeedやVox Mediaのようなデジタルネイティブと肩を並べる野心的な構想を語っていたあいだも、このアプローチは続いた。

乏しい投資のせいで、コンデナストが抱えるデジタル人材をつなぎ止めたり、デジタル広告費を集めたりが困難になった。メディアエージェンシーPHDの出版メディア担当グループディレクター、ジョン・ワグナー氏によるとコンデナストは、ほかの老舗紙媒体パブリッシャーをライバルと見なし、広告主がデジタルを求めているときでさえ、紙媒体を優先したという。

連携不足という死活問題

だが、コンデナストはひそかに遅れを取り戻してきた。2014年には、同社初の最高デジタル責任者にフレッド・サンターピア氏を指名。その後の2年間に、同社のデジタルオーディエンスは76%増加し、サイトでの滞在時間も132%延びたという。「素晴らしいスタートだ」と、サンターピア氏は胸を張る。

ライフスタイルメディアのパブリッシャー上位10社

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部門間の連携は、現代のパブリッシャーにとって死活問題だ。デジタルは規模が重要な分野であり、紙媒体の雑誌で有効だったやり方にこだわっても、オンラインではうまくいかない。コンデナスト傘下のブランドは、BuzzFeedのように機敏で成長ペースが速いデジタル専業メディアに市場シェアを奪われていた。

ある時点では、同社内で15ものコンテンツ管理システム(CMS)が稼働。そのせいで、FacebookやYahooのようなパートナーに大量の記事コンテンツを配信したり、複数の傘下メディアにまたがって広告を販売したりするのが困難になっていた。ブランド間で移籍したスタッフは往々にして、新しいシステムで再研修を受けなければならなかったのだ。

時代に適応するために

「我々は部門間の連携でひどく苦労してきた」と、サンターピア氏は振り返る。同氏の前職は、傘下の動画部門コンデナスト・エンターテインメント(Conde Nast Entertainment)の最高デジタル責任者だった。「我々のサイトはどれも重いうえに、ポップアップ広告のうえにポップアップ広告が表示されるありさまだった」。デジタルのスタッフは自己満足していて、モバイルのスキルを身につけなかった。「経験豊富なデザイナーも、データサイエンティストもいなかった」。

ほかの老舗パブリッシャー、タイム社とハーストは、編集リソースを集約し傘下の複数サイトで記事の共有を推進することにより、時代に適応していた。だが、そうした連携を強行に進めるのは、コンデナストでは困難だ。

「ヴォーグ(Vogue)」「ザ・ニューヨーカー(The New Yorker)」「ワイアード(WIRED)」など、有名な紙媒体の雑誌が長年、明確に独立した事業として運営されてきたからだ。サンターピア氏の課題は、ブランドの個性を消さないよう調整しながら、必要なデジタルの効率化を進めることだった。

自社開発のCMSに光明

サンターピア氏は、傘下の各サイトが順守するべき一定の原則を定めるべきだと判断した。たとえば、迷惑なポップアップ広告を廃止する、サイトは短時間で読み込まれなければならない、といった具合だ。この要件を受けて、「新しいプロダクトがサイトの読込速度を満たさなかったので、編集者との争いが多発した」という。

サンターピア氏は、オーディエンス開拓、調査、ソーシャルメディアといった機能を集約したことに加え、各ブランドにそうした分野の専門家も配置した。21のブランドすべてが、自社開発のCMS「コパイロット(Copilot)」に移行し、サイトの記事発行やパフォーマンス改善を迅速化するのに役立つ見込みだ。同氏は全体で、65%以上のデジタルのスタッフを配置転換してきたという。

共通のプラットフォームがあるおかげで、コンデナストは社外に記事を配信しやすくなった。パブリッシャーのコンテンツを求めるプラットフォームは以前よりも増えている。各ブランドに独自の配信戦略を策定させる一方で、すべてのブランドが同じコパイロットインターフェースを利用して、Appleの「News」アプリやFacebookの「インスタント記事」、Googleの「AMP(アンプ:Accelerated Mobile Page)」に接続することになった。

ブランド価値こそ真の個性

複数のブランドメディアがツールや機能を共有するのも容易になった。「ヴァニティ・フェア」が開発した、A/Bテストによって推奨記事をパーソナライズするツールは、いまでは全社的に利用されている。

「各ブランドメディアに対し、注力する対象を選ぶ戦略を立てるよう求めた」と、サンターピア氏は説明する。「すべてをテンプレート化してしまえば、業務はごく簡単になる。だが、それは我々のあるべき姿ではない。ブランドが発する個性にこそ、真の価値を見出しているからだ」。そのうえで、同氏は「規模と質は相容れない目標ではない」と、付け加えた。

連携については、現在も各ブランドメディアの裁量に委ねられている部分が大きい。ブランドが姉妹ブランドの記事を発行するよう指示されることはないが、もしそう望むなら、コパイロットによって一層容易になるはずだ。

編集者たちの意見

「ヴァニティ・フェア」のホーガン氏は、コパイロットへの移行の効果には懸念もあったと振り返る。それでも、いわばフットボールのコーチのような役割を果たしたサンターピア氏が、「各ブランドのコンテンツのビジョンを台無しにする気はないし、デジタルで成功するのに必要なサポートを提供するつもりだ」という趣旨の発言をしたと明かす。「あれこそが聞きたかった回答だった」。

コパイロットの導入は、読込時間の短縮とトラフィックの増加だけにとどまらず、サイトごとにさまざまな恩恵をもたらした。「GQ」の場合、コンテンツを再循環させるモジュールを複数テストするのがコパイロットにより容易になった、と同ブランドのエグゼクティブデジタルディレクターを務めるマイク・ホフマン氏は語る。そうした変化のおかげで、「GQ.com」における滞在時間は前年比で117%増加した。

「最良のCMSは、日常業務を容易にし、並外れた業務をも可能にする」と、ホフマン氏は語る。「いまオンラインで目にしているものは、多くのブランドメディアが実験し、それぞれが学んだことや実装した機能を共有した成果だ」。

広告バイヤーの見立て

ブランドのサイトが躍進する機は熟した。広告主は、規模拡大にとりつかれたデジタルメディアモデルがもたらす問題への認識を一層強め、サイトが単なるクリック数ではなくオーディエンスをどれだけエンゲージしているかに関心を強めているからだ。コンデナストによると、同社のデジタル売上は2016年に22%増加し、現在は売上全体の30%を占めるという。

広告バイヤーたちは、コンデナストが多大な労力を注ぎ、デジタル営業職のスキル向上や、営業ツールとサイトそのものの改善に取り組んできたと口をそろえる。メディアエージェンシーMECで投資部門を率いるグレッグ・スミス氏は、コンデナストが依然としてプリントメディア偏重であり、広告料は高く、アイデアも往々にしてお仕着せ感があると指摘。それでも、ブランドをうまく束ねてくれたおかげで、エージェンシーは複数ブランドの広告を一度に購入できる、と評価する。「彼らのプライドや権利意識が鼻につくこともあるが、少なくとも、自分たちを安売りしないという気概はあるのだろう」と、スミス氏は語る。

PHDのワグナー氏は、コンデナストが自社データを活用し、広告キャンペーンをターゲットオーディエンスに高精度でマッチさせていると指摘。おかげで、デジタル専業の競合メディアとは反対に、記事の質を犠牲にすることなくトラフィック増加に成功していると評価する。

「コンデナストは間違いなく、企業としての矜持を保っている。なりふり構わず『クリックを稼ごう』という状況までは、身を落としていないということだ」と、ワグナー氏は語る。

今後の課題

とはいえコンデナストは、若手のプランナーやバイヤーから、自社をデジタル専業パブリッシャーと同じように認識してもらえるよう、一層努力する必要があると、ワグナー氏は指摘する。「デジタル専業の競合相手が日々割り込もうと狙っている状況で、存在感を示すことは一層重要だ」。

過去2年間には大勢のオーディエンスを獲得したが、この先は次第に勢いが衰えると予想される。コンデナストにとって今後の課題は、パーソナライゼーションと「ハイブ」のような新プロダクトのローンチを通じて、成長を模索していくことだろう。2017年には、各国編集版をコパイロットに移行するという別の大仕事にも直面する。サンターピア氏は、この課題を軽視していない。

「各国に固有の市場があり、それぞれの国で各ブランドが独自に編集されているので、格段に難しくなる。各国版のコパイロット移行は2年遅れたが、良い面もある。それは、我々が得た教訓を生かせるということだ」と、サンターピア氏は語った。

LUCIA MOSES(原文 / 訳:ガリレオ)