なぜプラットフォームは「ニュース」を欲しがるのか?:Apple、Facebookたちの思惑 まとめ

この記事は、メディア業界に一目置かれる、海外メディア情報専門ブログ「メディアの輪郭」の著者で、講談社「現代ビジネス」の編集者でもある佐藤慶一さんによる寄稿です。

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いま、プラットフォーム同士による「ニュース」の奪い合いが激化しています。

Apple、Facebook、Snapchat、Twitter……。これらのプラットフォームが特に2015年に入り、ニュースを扱うようになったのはなぜでしょうか。

本当に多くの人にニュースを読んでほしいから? それともプラットフォーム内にできるだけ長く滞在してほしいから? その判断はまだできませんが、それぞれのプラットフォームにとって、ニュースがどういう位置付けにあるのかを探ってみたいと思います。

Apple:人力編集でニュースキュレーション

2015年6月、AppleがiOS9を発表しました。そのなかの大きなトピックのひとつが無料ニュースアプリ「News」の提供です。「ニューヨーク・タイムズ」や「エコノミスト」など伝統的なパブリッシャーに加え、「BuzzFeed」や「Quartz」など新興パブリッシャーの参加も表明されました(ブロガーを含め、あらゆるパブリッシャーに開かれています)。

「フォーチュン」がAppleの「News」と提携。
そのほかAppleの「News」の提携先パブリッシャーはこんなにもいるそうだ。

新OSのアップデートがはじまった9月から、米国ではこの「News」アプリが利用できるようになりました。「Flipboard」を彷彿とさせるビジュアルを前面に出したデザインと、パーソナライゼーションが特徴でしょう。パブリッシャーは広告掲載料を100%受け取れることも魅力的です(App Storeにおけるサブスクリプション課金のパブリッシャー側の取り分は、変わらず30%のままです)。

また、実際に編集者がニュースの選定をおこなうことも特徴です。ローカルからグローバルまで多様なニュースに目を通し、ユーザーに届ける仕事をアルゴリズムに任せすぎないのは個人的に好感をもちます。

Appleは今年に入り、「TechCrunch」や「The Verge」、「Macworld」などテック系パブリッシャーからライターやエディターを何人も採用していたのは、ニュースアプリを見据えた動きだったのかもしれません。競合のひとつである「Flipboard」でも、タイム社に長く在籍したジャーナリスト、ジョシュ・キットナー氏をエディトリアルディレクターに迎えていますから、プラットフォーム側の人材獲得競争が激しくなっています。

Appleのニュースアプリ参入は、後述する有力なソーシャルプラットフォームにとって競合が生まれたことを意味します。Appleはこれまで提供していたニュースアプリ「Newsstand」を閉鎖し、新ニュースアプリに一本化しました。

「Newsstand」は静的で、新聞や雑誌のアプリをインストールし、定期購読することができましたが、新アプリのほうはフィードもありデザインも洗練され、現代的なものとなっています。Appleというハードウェア企業の代表格が本気でソフトウェアで勝負してくるのはますます脅威となっていくでしょう。

Facebook:新サービス連投でトータル勝負へ

Appleがニュースアプリを発表する1カ月前、2015年5月にFacebookは新サービス「Instant Articles」を発表しました。FacebookのiOSアプリ内でリンク先に飛ばずとも記事を読むことができるホスティングサービスです。

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Facebook上で記事全文を読むことが出来る。

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実際に体験するとわかりますが、まさにインスタントに記事が閲覧できるサービスとなっています。これまでは記事の読み込みに「平均8秒」かかるとされていますから、革新的なサービスのはじまりを予感させます。

ローンチ時のパートナーは「ニューヨーク・タイムズ」や「BuzzFeed」、「ナショナル・ジオグラフィック」など9社。媒体側でFacebookのサーバーに記事をアップする仕組みで、パブリッシャーは各種データにアクセスできます。Appleの「News」ではデータが還元されませんから、この点は差別化要因のひとつです。

収益面では記事内の広告収入100%がパブリッシャーに入ります。このような特徴を踏まえると、サービス名に「記事」という言葉が入っているのは、ニュースとまっとうに向き合う姿勢を表しているような気がします。

「Instant Articles」によって、Facebookはモバイル経由の滞在時間を増加でき、ニュースに集まるトラフィックデータを蓄積することも可能です。2015年9月には、「ワシントン・ポスト」がすべての記事を「Instant Articles」で配信するという方針を発表しました。プラットフォームとメディアでは前者の滞在時間が長いですから、パブリッシャーとしてどれだけ意味のある接点を作れるのかに注目したいです。

Facebookのニュースに関する取り組みは、「Instant Articles」だけにとどまりません。

著名人のみが使えたライブ配信アプリ「Facebook Mentions」を2015年に入ってからはジャーナリストが利用できるようになったり、Trendingセクションを設けたり、ジャーナリストがコンテンツ(トレンドや写真、動画)の発見・記事投稿などするための「Signal」という機能やニュース通知アプリ「Notify」をリリースしたり、ジャーナリストやニュースメディアに向けた取り組みがいくつも垣間見えた年でした。

15億5000万人以上が利用する巨大なプラットフォームならではの課題もあります。ひとつはアルゴリズムに起因するフィルターバブル。自分が好む情報やニュースばかりを摂取してしまうことです。

もうひとつは検閲などプラットフォームの責任。「Instant Articles」で媒体社がFacebookのサーバーにアップしたものが、削除されるようなことが今後起こるとすれば、新しい論点となっていくでしょう。

Snapchat:若者とニュースの新しい接点を創出

デイリーアクティブユーザーが1億人以上、月間の動画再生数が60億回を超えるSnapchat(スナップチャット)。2015年1月にはパブリッシャーがコンテンツ配信を行う「Discover」という動画コンテンツキュレーションをはじめました。

当初の12媒体には「CNN」や「Vice」などが名を連ね、いまでは「BuzzFeed」も参加しています。コンテンツは24時間で消滅し、縦型ならではのコンテンツが毎日並びます。レベニューシェアモデルを採用し、パブリッシャーは広告掲載料の7割を手にすることができます。


Snapchatの「Discover」プロモーションビデオ

実際に見てもらうと分かりますが、「Instant Articles」以上の体験です。たとえば「BuzzFeed」の自由なコンテンツを体験すると、「Discover」以前にはこのようなコンテンツはなかったのではないかと思います。

Snapchatで24時間データを閲覧できる「Story」をユーザーが投稿可能になったのは2013年。ライブ配信される「Live」は毎日1500万人が閲覧するまでになりました。もちろんオリジナルコンテンツも少し制作するようになり、分散型メディアの代表格「NowThis」の社長だったシーン・ミルズ氏をオリジナルコンテンツ部門のトップに採用。2015年に「Snap Channel」というオリジナルコーナーを設けたものの、閉鎖することを同年10月に発表しています。

また、2016年の米大統領選に向けて、ニュース部門のトップに元「CNN」のピーター・ハンブリー氏を据え、Googleで政治関連広告を担当していたロブ・サリターマン氏を迎えて準備を進めています。すでに政治家がキャンペーンを企画し、広告を打つような事例もあるので、選挙制度においてSnapchatがどのような役割を担っていくのか来年が楽しみです。

ニュースの話に戻ると、Snapchatの利用者の7割が18~34歳ですから、「Discover」は若者とニュースの接点を築けなかったトラディッショナルメディアにとってはまたとない機能です。参画したいメディアはいくらでもいると予測されます。ただ、動画コンテンツのため、「Discover」の影響力が高まれば高まるだけ、人材獲得がトラディッショナルメディアの課題として上乗せされていきます。

コンテンツはある程度メディアのかたちに規定されるところがあると考えれば、Snapchatが多大な影響力をもつようになれば多くの動画が縦型への転換を求められるタイミングがいつか来るのかもしれません。

Twitter:速報ニュースに強み。模索するコンテンツ獲得

たびたび「Flipboard」や「Nuzzle」などのニュース・マガジンアプリを買収するのではないかと報道されているTwitter。「Flipboard」のCEOのマイク・マッキュー氏は2010~2012年にかけてTwitterの取締役も務めていたことがあります。競合関係が強まり、メンバーからはずれたものの、Twitter前CEO ディック・コストロ氏が退任した際には、次のTwitter CEO候補として名が挙がるほどでした。Twitterが外部のニュース系アプリを獲得していくのかはひとつ注目のポイントです。

次に、Twitterのニュースに関する動向といえば、日本でニュース機能がはじまったことが記憶に新しいです。海外では編集スタッフやツイートや画像などをまとめる「Moments」というサービスをはじめたのも2015年のことでした。

また、2015年10月にグーグルが発表した、モバイルアプリのロード時間を短縮するプロジェクト 「Accelerated Mobile Pages(AMP)」がカギになるでしょう。ロード時間を極力減らし一 瞬で記事が表示できる仕組みで、これが今後TwitterやLinkedIn(リンクトイン)などのプラットフォームにも応用されていくようです。

マーケット調査機関、ピュー研究所が実施した、アメリカのTwitterユーザーへの調査によれば、半数がニュースに関してツイートをし、4割が意見も合わせてツイートしているとのこと。また、ニュース取得のためにTwitterを利用するユーザーは6割を超えます。

最後に、新聞や雑誌での時間消費が減少するなか、スマホ時代における時間の取り合いはプラットフォームにとって重要な勝負どころです。ただ、本質的にニュースを提供したいのか、滞在時間を延ばしたいからニュースを提供しているのかについて、後者の色が強く感じることもあり、これからの動向も見逃せません。

ニュースが単なるプロダクトのひとつとして成り下がってしまう危険性もあるものの、メディアとプラットフォームの新しい力関係を築く機会と捉えることもできそうです。

written by 佐藤慶一
Image from Thinkstock / Getty Images