「現実」を突きつけられた、デジタルメディアたちの2017年

「動画への転向」はもう忘れよう。デジタルメディア業界ではいま、まざまざと「現実」が突きつけられている。

その原因を作ったのは、いわずと知れたGoogleとFacebookだ。この2社がデジタル広告売上の大部分を握っている。パブリッシャーらは、卸売型のビジネスモデルに移行することで生き残りを図っているが、十分な速度で変化できていない。最近の報道でその結果が次々に明らかとなった。BuzzFeedとViceは2017年の売上目標を達成できない見通しとなり、マッシャブル(Mashable)はかつての企業価値の5分の1の金額で買収され、米ヤフーとAOLを合わせた新ブランドのオース(Oath)とハフポスト(HuffPost)は500人を超えるレイオフを実施した。こうした例を挙げればきりがない。

さまざまな事象が進行しているが、俯瞰してみると、デジタルパブリッシングが多角化に失敗し、すべてを広告に依存していることがわかる。その後、プラットフォーム企業が広告に乗り出した。いまではデジタル広告支出の大半がごく少数のテクノロジー企業の手に渡り、パブリッシャーはわずかな残り物を争っているにすぎない。Facebookは別のやり方でもパブリッシャーを苦しめている。パブリッシャーへの参照トラフィックを減らし、マネタイズの支援をパブリッシャーがFacebookに投稿した動画に限定しているのだ。収益はあとからついてくると考えて分散型戦略を採用したパブリッシャーは、そうではなかったことに気づいた。

変動というより正常化

だが、すべてを大きくてあくどいプラットフォームのせいにするのは、話を単純化しすぎだろう。いま起きていることは、変動というより正常化なのだ。わずか1年前には、マッシャブルがベンチャーキャピタルから資金を調達し、企業価値を2億5000万ドル(約270億ドル)にまで高めた。しかし、それからたった1年後にその5分の1の価格で買収されてしまった事実は、資本が安価で潤沢だったときに、ベンチャーキャピタルから資金を調達したデジタルメディアが買いかぶられていた以上のことを示している。

「コンテンツ系新興企業が過大に評価されていたということだ」と、アドテク企業ゼマンタ(Zemanta)のCEO、トッド・サウィッキ氏は指摘する。「新興企業の価値が従来の方法や数値で評価されていれば、多くの企業が過大評価される事態は決して起こらなかっただろう」。

楽観的な成長シナリオを語ることに長けていたパブリッシャーの多くは、いざ持続可能なビジネスを構築する段階になると、口でいうほどのことはできなかった。いまや激しく非難されている動画への転向は、その最たる例だ。オーディエンスのモバイルへの移行や、「気軽に楽しめる」コンテンツや、ミレニアル世代を狙った分散型メディア戦略について語るのは簡単だが、そうした戦略を実行して利益を出せるかどうかは、まったく別の話なのだ。

細かい仕事こそが重要

動画を例にとってみよう。動画を作っているパブリッシャーが、サイトの設計にあたって動画を考慮せず、ほかの広告でページを埋め尽くして動画への注目やトラフィックを損なっている例があまりにも多いと、デジタルビデオ技術を手がけるJWプレイヤー(JW Player)の共同創設者、ブライアン・リフキン氏は指摘する。それから、広告の販売や運用をただちにはじめることが重要だ。たとえば、デバイスに合った適切な動画フォーマットを見つけ、広告主の広告が正しく表示されるようにする必要がある。デジタルメディアで成功するために必要なことは、細かい仕事をきちんとこなすことであり、ニュースの見出しを飾ることではない。

「そのような仕事の多くは、とても時間と手間がかかる」と、リフキン氏は語る。「我々は広告の仕事を数多くこなしてきたが、これはもっとも難しい仕事だ。ユーザーがWebサイトに行って『再生』をクリックし、そのまま離れてしまったことが何度あるだろうか。だが、ビジネスの要所はそこにある。パブリッシャーは優れたコンテンツを作り、コンテンツの目的を明確にし、ユーザー体験にフォーカスする必要があるのだ」。

誤った評価のおかげで評価額があまりに高くなってしまったデジタルメディア企業の多くは、現金をもたらしてくれるはずだと見込んで、テレビ局との契約にも熱いまなざしを向けた。まるで「一発逆転」を狙っているかのようにだ。しかし大抵の場合、テレビ番組の製作コストはライセンス料と同じで、コンテンツ配信契約を結ばないかぎり、利益はきわめて少ないと、出版コンサルティング企業ガーションメディア(GershonMedia)のプレジデント、バーナード・ガーション氏は指摘する。また、テレビ番組の製作を得意とする会社はすでにたくさんある。デジタルメディア企業が独自性を発揮できるのは、強力なブランド名だけだ。にもかかわらず、彼らの多くはオーディエンスとのつながりをプラットフォームに依存している。

広告だけでは生き残れない

コンプレックス・メディア(Complex Media)の創設者でCEOのリッチ・アントニエッロ氏は、現在起きている動画への転向を、性急で反動的な戦略だと考えている。男性向けライフスタイルメディアを手がける同社は、動画の導入に時間をかけた。2012年に動画に取り組みはじめた同社は、コンテンツの65%を動画にするまでに5年の歳月を費やした。そのあいだに、ニュースフィードに埋もれてしまいがちなショートフォーム動画より、ロングフォーム動画のほうがブランドの構築に役立つことを明らかにしていったのだ。「オーディエンスと広告業界の人たちに少しずつ慣れてもらう必要がある」と、アントニエッロ氏は語る。「いきなり『我々も動画に参入したので、よろしく』ではうまくいくはずがない」。

汗をかきながら苦労しているのは新興企業だけではない。強力なブランドを抱え、多様な収入源をもっているパブリッシャーでさえ、厳しい市場で悪戦苦闘している。そして、彼らは好景気のときでさえ苦労しているのだ。そうしたパブリッシャーのある関係者は、「今年は私にとって良い年ではない」とこぼした。

重要な自明の理がひとつあるとすれば、それは、パブリッシャーを取り巻くほぼすべての変化は少しずつしか起こらない、ということかもしれない。パブリッシャーが動画をやめてしまうことはないだろうが、2018年は動画へのアプローチが少しずつ見直され、広告だけでは生きていけないことが認識される1年になるだろう。

「これはマラソンだ」

「モバイル動画はいつか素晴らしいビジネスチャンスをもたらすだろう。だが、その日がまだ完全にやって来たわけではない」と、女性がターゲットのパブリッシャー、バッスル(Bustle)のブライアン・ゴールドバーグ氏は語る。「これはマラソンだ。デジタルメディア企業はペースをうまく調整する必要がある」。

ゴールドバーグ氏によると、バッスルでは動画を担当する従業員の割合を全体の約10%に制限しているという。この割合は2016年の約5%よりは増えているが、モバイル動画のマネタイズが簡単ではないことを認識した結果だ(ただし、ミレニアム世代向けのニュースメディアを手がけるMicのように、ほぼ全員が何らかの形で動画にかかわっている例もある)。バッスルはまた、インスタグラムなど、もっと短期間でマネタイズできる可能性のあるフォーマットに重点を置き、従来の雑誌出版社から広告費を奪い取っている。「デジタルメディアの新興企業にとって、2017年はテレビに挑戦するには早すぎる。これは2020年以降を見据えた戦いだ。いまは雑誌が格好のターゲットになっている」と、ゴールドバーグ氏は語る。

ビジネスモデルの見直しはすでにはじまっている。BuzzFeedはコマースコンテンツに積極的に取り組んでおり、19名のスタッフが、読者に購買を促すことを目的とした記事を量産。Vox Mediaは、広告をプログラマティックに販売するようになった。アトランティック(The Atlantic)ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)など、すでにサブスクリプションビジネスを確立しているパブリッシャーも、そうした取り組みを一層強化している。

真のビジネスモデルの転向

「我々は、来年も広告収入を拡大できると楽観しているが、最近行った有料コンテンツの実験でもいくつか成功を収めている。その例が、アトランティックのメンバー制プログラム『マストヘッド(Masthead)』や、クオーツ(Quartz)の書籍『ザ・オブジェクト・ザット・パワー・ザ・グローバル・エコノミー(The Objects that Power the Global Economy)』だ」と、アトランティックメディア(Atlantic Media)のプレジデント、マイケル・フィネガン氏は説明する。「私が思うにこの状況は、コンテンツにお金を払ってもよいと考える消費者が増えていることを示しているのだろう」。

「広告だけに依存したビジネスから、サブスクリプションなど複数の収入源をもつビジネスへの転向がすでに起きている」と、ガーション氏は語る。「彼らは、本当に質の高い動画への投資を2倍、3倍と増やすことが必要になる。テーブルを囲んでニュースについて話しながら見るような動画に人々がお金を払うことはない。真のビジネスモデルの転向が必要になるのだ」。

Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)