「ユーザーは大量の広告にうんざりしている」:ベテランパブリッシャーの告白

パブリッシャーはユーザー体験よりも収益化を重視しがちだが、結果としてユーザーによる広告ブロックが増え、GoogleやAppleといった大手がページ速度を遅らせる広告に対する取り締まりを強化する、といった事態が起きている。

しかしながら、押しつけがましく邪魔な広告フォーマットも依然として大きな収益源ではあり、完全に排除するのはパブリッシャーにとって容易ではない。今回の告白シリーズでは、最近まで全国紙の経営幹部を務め、アドテクにも詳しいというデジタルメディアのベテランに、ユーザー体験の改善という課題について話を聞いた。

要点を編集したものを以下に紹介する。

――現在のデジタル広告のユーザー体験をどう思う?

ユーザーは依然として大量の広告にうんざりしている。いまや彼らのパソコンはタグやCookieだらけだ。動画広告は自動再生され、音が出ない初期設定ならマシなほう。おかげでページの読み込み速度は遅くなるばかり。実生活ならこうした行為は、店内を歩く買物客の足元に石けん水をぶちまけたり、バットで殴りつけたりするのと同じようなものだ。それだけでは終わらず、消費者はバス停や車のなかまで追いかけられ、店で買ったばかりの品を押し売りされる。プレミアムパブリッシャーはパラレルリアリティ、つまり本来ならあり得ないもうひとつの現実を生み出している。社会のため、民主主義のため、そして次世代のために、信頼できる質の高いパブリッシャーが求められているいま、こうした状況は残念だ。

――広告ブロックが普及してから、状況は改善されたのでは?

確かに改善はされた。だがパブリッシャーは長いあいだ、ユーザーの広告ブロックに対して「よくもそんなマネを」的な態度を取ってきた。もちろん、質の良いコンテンツを制作するためには広告がもたらす収益が不可欠だ。だからといって、どんなフォーマットやサイズ、重さの広告でも配信してよいわけではない。しかし実際にはパブリッシャーはそれをやり、ユーザーが応戦する形となっている。こうした悪習をパブリッシャーはこれまで自社で管理してこなかったわけだが、これからはきちんと管理し、ページに表示される前に精査するべきだろう。

――改善の妨げとなっているものは何か?

普通は、革新的なアプローチに前向きなパブリッシャーによって良い変化が現れ、それに他社が追従する。パブリッシャーの典型的な姿勢だ。彼らは先頭に立つべきなのに、フォロワーでいようとする。社会や政治の状況を踏まえると、パブリッシャーはいま、歴史的な機会を手にしている。にもかかわらず多くのパブリッシャーは、依然として質の悪いコンテンツで利益を競い合い、エージェンシーによって苦境に立たされている。

――苦境とは、具体的に言うと?

エージェンシーにはふたつの課題があるが、クオリティよりもリーチを優先する。過去にプレミアムパブリッシャーと仕事をしたことがあるが、当社のほうが競合よりもクオリティの高いデータを持っていたのに、リーチ力に優れたエージェンシーに負ける結果になった。広告主にとって、これはデメリットをもたらす。パブリッシャーにしても、大きなプレッシャーにさらされることになる。個人的には、広告主とパブリッシャーがもっと直接話し合えばいいと思う。実際、そうした例は増えつつあり、今後はそうなっていくべきだろう。

――いまのような広告アプローチは誰に責任がある?

社内のコミュニケーション不足、部門間の課題の違いが原因だろう。たとえば、テクノロジーにも精通した誠実な人間がある広告戦略を決定する。ところがセールスチームには別のゴールと課題があり、戦略に関する議論に参加していないこともあって、フリークエンシーキャップが設定されない、悪質な広告がスルーされるといった事態が起こる。若手の活用や経験不足が要因になることもある。パブリッシャーやエージェンシーは若い人材を採用しているが、22歳の若手に研修もメンタリングも実施しないまま、オープンなリアルタイムビディングを任せればどうなるか。若手は結果を出さねばと焦り、広告は精査されずに配信される。

――欧州のパブリッシャーのなかには、動画広告の自動再生をやめる必要はない、音を消すだけで十分だ、という意見もあるようだが?

まさにパラレルリアリティだ。レストランが、より多くの利益を上げるために客にデザートを無理やり食べさせるようなもの。パブリッシャーは現実をねじ曲げようとしている。彼らは目の前の収益目標を達成するために、じっくりと検証することもせずに新しいことに飛びつく。そうしておいて、広告市場はデュオポリー(複占)だと文句を言う。これに対して、GoogleやFacebook、Apple、Amazonといった企業は長期的な戦略を常に見据えている。既存のパブリッシャーが彼らに太刀打ちできないのは、短期的な収益の改善ばかりを考えているからだ。

――現実をねじ曲げるとは具体的に言うと?

トラフィックには限りがあること、リーチが無限ではないことをパブリッシャーは受け入れる必要がある。限界や制約があることを認めなければならない。この現実をねじ曲げて、何が何でもリーチを上げようとしたり、動画広告の自動再生を許したりしてはいけない。ユーザー数には限りがあるからだ。現実を受け入れることができたら、誠実なパブリッシャーは発展を続け、そうではないパブリッシャーは消えていくだろう。大切なのは、現実を直視することだ。

JESSICA DAVIES(原文 / 訳:SI Japan)