「分散型」動画に賭けた、経済サイト「クォーツ」の挑戦:半年の成果は、なんと4500万ビュー!

自社サイトの優先順位を落とし、ソーシャルメディアを通じた拡散で、読者を確保するメディアが米国で勢力を拡大している。「分散型メディア」だ。

「BuzzFeed」「ビジネスインサイダー」のような新興パブリッシャーの成功や、それに続くCNNの動画メディア「グレートビッグストーリー」の開始などで、「分散型メディア」は実験段階を終え、新しいビジネス戦略として認識された。デスクトップサイトを廃止し、モバイルサイトと各ソーシャルアカウントの運用のみに注力したパブリッシャーもいるほどだ

2015年春、経済ニュースメディア「クォーツ(Quartz)」は、自社サイトではなくFacebookやYouTubeで、リアルタイム配信を担当する3人の動画チームを編成。「クォーツ」のパブリッシャーであるアトランティック・メディア(Atlantic Media)社は、「クォーツ」の創刊当初から動画コンテンツに関する実験を重ねていた。その結果、Facebookのニュースフィードでは動画が好まれると確信したという。

Facebookの方がYouTubeよりも親和性が高い

「『クォーツ』は、自社サイトを経由せず、直接各プラットフォームに動画を配信することを試行錯誤してきた」と、同社の編集主幹兼プレジデント、ケビン・ディラニー氏は話した。「(別途費用が必要な)プレロール広告(動画視聴前広告)の制限はなく、投稿のリーチを高める広告も打たず、トラフィック予測もなかった」とディラニー氏。「(制約を設けないことで)自由な創造性をチームに与えられると考えた」。

「クォーツ」は、半年間でFacebookやYouTubeに130本のビデオを配信。4500万もの視聴数を獲得した。その大多数はFacebookでの視聴だったという。一方、YouTubeの公式チャンネルでの視聴は、160万しかなかった。「たった3人で運営したのに、勇気づけられる結果を得られた」と、発行人のジェイ・ラーフ氏は語る。

いまや「クォーツ」は、Facebook内で影響力のあるビジネス媒体のひとつになっている。9月の集計では、2027本の記事にエンゲージメントが200万以上もあったと、ニュース記事リサーチ会社のニュースウィップ(Newswhip)は分析している。

さらにニュースウィップによると、同月のネイティブ動画(直接投稿された動画)1本当たりのエンゲージメントは1070。同月にFacebookに広告を利用せず投稿された28本の動画へのエンゲージメントの合計は、3万近かったという。ただし、動画配信にはさまざまな方法があり、他社との比較は難しい。

基本的にビデオの尺は短いほうがいい

「クォーツ」は、Facebookページで視聴数を計測している。数こそ増えていないが、広告主の興味を引くだけの数字にはなったと考えているという。

「分散型配信」は始めたばかりで、どうすれば視聴者受けするかは、学んでいる最中だ。ビデオは尺が短い方(1分もしくは1分未満)が好反応を望めるとしている。同じ傾向がテキスト記事にもみられるという。以下の中国経済に関する報道のように、3分40秒と長く説明するものも受けが良い。

「深刻な危機を迎える中国」なぜ世界は中国経済に胸をかき乱されるのか(2015年7月20日)

同誌は、科学とテクノロジー系トピックに強い。好例となるのは深海生物をとらえた1分半のビデオだろう。44万4000件のシェアをFacebookで獲得した。

プエルトリコの海岸の深海生物の魅力的な映像。科学者がプエルトリコ海岸の深海生物をとらえた。いずれも初めて目にするものばかり。名前すらない。(2015年5月7日)

プラットフォームへの直接配信は諸刃の剣だ。複数のプラットフォームへの配信は、新しいオーディエンスの獲得につながる。しかし、プラットフォーム上のコンテンツが自社サイトにアクセスをもたらすかは未知数だ。自社サイトからは収益の100%を得られるが、ソーシャル配信では広告収入をプラットフォームと分かち合わなければいけない。

プラットフォーム配信をどう収益化するか

分散型配信の最終目標は、新しいオーディエンスを得たことを広告主に提示し、どう役立つかを模索していくことにあるとラーフ氏は語る。これまでYouTube以外では、プラットフォームに直接配信して広告料を得る機会が限られてきた。

しかし、いまや動画視聴のボリュームが必要十分な量に達し、広告での収益化が現実的になってきた。「クォーツ」では、ビデオ内に広告を組み込み、売り込んでいく計画を立てている。同時に、ネイティブ動画を自社サイトでも表示していく。そうすることでビデオを直接収益化できるのだ。

「広告バイヤー(買い手)側は、ブランドに傷がつかないことが保証できるFacebookのような環境と、ターゲティングが可能なプレミアム動画を評価している」と、世界広告2位オムニコム傘下のオムニコム・メディア・グループ北米投資部門長のジョン・スイフト氏は話した。「Facebook上に配信するのはプラス。それが現実だ」と、メディア・エージェンシーのアッセンブリー社で最高デジタル責任者を務めるアラン・スミスも頷く。

「クォーツ」はプラットフォームに配信した動画を間接的に収益化する方法を検討している。「クォーツ」が、社内に編集コンテンツ制作者を抱えており、制作するネイティブ広告を、ソーシャル拡散で多くのオーディエンスにリーチさせられるかもしれない。

広告の観点でみれば、ソーシャルがパブリッシャーよりはるかに巨大なリーチをもたらすことは明らかだ。Facebook自身が動画に投資していることを考慮しても、「クォーツ」は配信先のプラットフォームを熟知すること、プラットフォームのユーザーに訴求することが重要だと気づいている(同時に、Facebookに「おんぶにだっこ」とならないのが望ましい)。

「Facebookが目指している先がある。それを我々は理解する必要がある」と、デラニー氏は語った。

Lucia Moses(原文 / 訳:南如水)
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