「広告大連合」として、手を組みはじめた欧州メディアたち:その理想と現実とは?

欧州のあちこちで、パブリッシャーが「大連合」を組みはじめている。

そして、「プライベートマーケットプレイス(PMP)」による広告の売買を試しているという。デジタル広告業界を席巻するGoogle、Facebookに対抗し、オープンなオークションで起きがちな広告枠の値崩れを防ぐためだ。

PMPのような少数の参加者による閉鎖的な広告オークションは、広告の質と価格を高めることが期待されるが、もともと「競合同士」のパブリッシャーによる連合がリスクになるなど、「大連合」のコストも生じている。

1億1000万「連合」パンゲアの誕生

2015年4月、英国のデジタルメディア「ガーディアン」「フィナンシャル・タイムズ」「ロイター」「エコノミスト」「CNNインターナショナル」は、デジタル広告プラットフォーム「パンゲア・アライアンス(Pangaea alliance)」を立ち上げた。

フィナンシャル・タイムズ」の報道によると、プレミアム媒体5社のオーディエンス数は全世界で合計1億1000万に到達し、Google、Facebookなどの「巨大グローバル媒体」に匹敵する。プロジェクトはベータ版での運用が続いているが、デジタルシフトで大幅に広告収入を減らす媒体社にとっては、収入拡大の望みのひとつだ。

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「1億1000万のグローバルな影響力」。パンゲア・アライアンスのロゴ(同ホームページより)

「紙からデジタルに移行すればするほど損をする」構造に苦しむトラディッショナルメディアは、ペイウォールなどの有料購読、分析情報への課金、イベント、EC(電子商取引)など、さまざまな分野でマネタイズを試みているが、解答が見つからないのが現状だろう。

「パンゲア」はデジタル広告をより高品質化するためPMPを採用する模様だ。PMPは2014年頃からデジタル広告界で注目を集めている。

日本でも2014年10月に電通がGoogleと共同でPMPの開設を発表し、2015年2月からベータ版が稼働した。2015年に多くのアドテク企業がサービスを開始している。

オープン競売より安定した取引に

現在主流となっているオープンアドエクスチェンジには、いくつかの課題が指摘されていた。広告主サイドでは、広告掲載のすべてを把握することの難しさがある。媒体社にとっては、無数の枠と競うことによる売り値の不安定さなどだ。

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オープンなエクスチェンジ(取引所)は、広告の値崩れを生みやすいかもしれない。(Photo:Scott Beale

PMPは選ばれた媒体と広告主による閉鎖性を特徴としており、広告の質の向上とブランドセーフティ、取引価格の上昇が期待されている。一部のPMPでは、高質な媒体のみに参加を限定することから、低質な枠との混合を避けることもできるかもしれない。

広告主側にもメリットがある。「パンゲア」に技術提供する米アドテク大手ルビコンプロジェクトのブログ(2015年3月)によると、広告主は、高い価格を払うかわり、媒体が保有する顧客・閲覧者のデータを利用し、自身の目的にかなった高質な広告枠を購入できるようだ。媒体がデータを開示できるのも、PMPの閉鎖性による部分が大きい。

出稿時は「パンゲア」共通の広告フォーマットを使用するという。パブリッシャー連合型のPMPにはすでに前例がある。ルビコンプロジェクトはすでにフランス、チェコ、デンマークなどで同様の「連合」を支援してきた。

Google、Facebookに対抗する「超大陸」

「パンゲア」では、参加媒体は保有する在庫のうち10%を「パンゲア」に入れる。広告主はオーディエンス・セグメントを指定できるが、広告は5媒体のいずれにも掲出される可能性がある。参加媒体のうち「フィナンシャル・タイムズ」「エコノミスト」は有料購読部分があるため、掲出先は各媒体の無料記事面に限られるという。

「パンゲア」の設立を主導した、「ガーディアン」ニュース&メディアのグローバル・レベニュー・ディレクターのティム・ジェントリー氏は「参加媒体は英国だけでなくグローバルに展開しており、広告主はグローバルな顧客にアクセスできる」「Google、Facebookに対抗できる」と語っている。

「パンゲア」は2億5000年前から2億年前ごろまでに存在したと言われる、世界5大陸のもととなる超大陸の名前だ。

対抗馬「シンマキア」も現れる

これに対し、対抗陣営の「テレグラフ」「タイム」らが参加するオンラインパブリッシャー組合(AOP)は、2015年3月に発表していた同様のPMPを近くローンチすると明らかにした。「パンゲア」に対抗し、古代ギリシャ語で「連合」を意味する「シンマキア(Symmachia)」と名付けた。

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「シンマキア(Symmachia)」のロゴ(同ホームページより)

英マーケティングメディア「ザ・ドラム(The Drum)」の記事(2015年9月)によると、3月時点では「テレグラフ」「タイム」「デニスパブリッシング」「オートトレーダー(Autotrader)」などプレミアム媒体7社が参加するとしていた。米アドテク大手アップネクサス(AppNexus)からプラットフォームを提供される形の運営をとる。

ただし、「シンマキア」は媒体が参加を表明した段階にすぎないようだ。参加媒体が値崩れを防ごうとする動きが、「価格操作」として独占禁止法に抵触する懸念があり、足を引っ張っている。連合の形態に関しては調整が続けられているという。

フランスで「大連合」の先行事例

前出のルビコンプロジェクトとアップネクサスはともに「パブリッシャー協調モデル」が、広告予算獲得競争においてGoogle、Facebookに対抗する手段だと提唱してきた。

ルビコンプロジェクトとアップネクサスの前にも、この巨人2社は立ちはだかっている。パブリッシャー側は、デジタル広告運用についてGoogleが提供するアドサーバー「ダブルクリック(DoubleClick)」に依存し、コンテンツ拡散にはFacebookを頼っている。

「パンゲア」と「シンマキア」の誕生は大陸ヨーロッパで「媒体協調型モデル」が次々に誕生し、一定の成功を収めたことを反映したものだ。特にフランスの媒体連合「ラ・プラス・メディア(La Place Média)」が成功例と言われる。フランスなどの大陸ヨーロッパ諸国は、プレミアム媒体と言えども、1媒体のみではスケールが小さいため、先んじて協調モデルが形成された経緯がある。

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「ラ・プラス・メディア(La Place Média)」のホームページ

アドエクスチェンジャー」の記事(2015年3月)によると、マネージングダイレクター(当時)のファビアン・マガロン氏は、「ラ・プラス・メディア」は初年の2012年と2年目の間に、CPMが70%上昇、3年目までは上昇トレンドが持続したと語った。「2015年はベストの売上になるだろう。小規模からのスタートになったが、売上2000万ユーロ(約26億円)に達しそうだ」。

マガロン氏によると、参加媒体は当初の120から250にまで増えているが、媒体社はテクノロジー面に明るくないこともあり、サードパーティのアドテク企業から支援を受けるのが通常だ。「(メディアの)月間ユーザー数が1000万でも、CRM(顧客管理システム)には100万人しかいない」というように媒体はオーディエンスデータの蓄積などで遅れをとっており、デジタル広告のパフォーマンスは最大限活用されていない状況だ。

競合と相乗り、「透明性」が課題

しかし、協調型モデルに疑問符がついた。「ザ・ドラム」の記事(2015年11月)によると、マガロン氏は8月に「ラ・プラス・メディア」に見切りをつけ、競合のFacebookが運営するSSP(サプライサイドプラットフォーム)、LiveRailに「移籍」したからだ。マガロン氏の「移籍」は、連合モデルへの熱が覚めたことを意味する。

ルビコンプロジェクトやアップネクサスなどアドテク企業は、個々の媒体に対してもPMPを提供できるため、媒体の目はそちらに向いていることが原因だ。

さらに同記事は課題を指摘している。マガロン氏は多くのパブリッシャーがもともと競合していた他社と協力することが困難だと感じており、各媒体が特に独自のプログラマティック戦略をもち「自治権」を主張する場合は特にそうだと明らかにしていた。

エージェンシー「透明性低下」

出版大手コンデナストは伝統的な「手売り」を採用し、当初参加を検討した「シンマキア」から撤退した。「パンゲア」では「エコノミスト」がデータ流出を怖れ、広告在庫のみの提供になっている。

WPP系エージェンシー、エッセンス(Essence)のマネージングディレクター、マーク・ソヤル氏は広告会社の立場からこう批判する。「欧州の媒体連合と協働した経験では、媒体が個別のときよりも透明性をもたなくなることがわかった。参加媒体から直接、透明性が担保された状況で、枠を買えることができて初めて、『パンゲア』は成功したと言える」。

Written by 吉田拓史
Image from ThinkStock / Getty Images