ニュースレター再考:古くて新しいメディアが盛り上がることの意味

この記事は、メディア業界に一目置かれる、海外メディア情報専門ブログ「メディアの輪郭」の著者で、講談社「現代ビジネス」の編集者でもある佐藤慶一さんによる寄稿です。

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普段、情報収集のために海外メディアをみていると、日本のメディアと違うことがいくつもあることに気づきます。コンテンツの制作・流通やWebサイトの構造など挙げればきりがないのですが、今回はそのなかでも「ニュースレター」に着目したいと思います。

なお、デジタルのニュースレターは、日本でいう「メルマガ」で、正確にはほぼ同じものを指すと思われるのですが、「メルマガ」がテキストベースのものが大半であるのに対し、ニュースレターはHTMLで組んでいるものが多いのではないかと認識しています。

SNSの利用者が増えるにしたがい、フロー情報が爆発している一方、メールボックスに届くニュースレターを提供するメディアにはどんな目的があるのでしょうか。HTMLなどを利用してリッチに表現することはもちろん、媒体の魅力や信頼を増幅させる工夫もありそうです。

自社以外の記事も配信:「Vox Sentences」

今回取り扱う海外のニュースレターは日本のメルマガとは違い、記事やその要約だけでなく、グラフィックや動画などが盛り込まれていることも珍しくありません。伝統的なメディアに限らず、新興メディアもニュースレターの配信に乗り出していることも興味深いです。

まず紹介するのは、「Vox Sentences」です。Vox Mediaはテックや住まい、スポーツなど8つの分野でメディアを展開しています。「Vox Sentences」はそのなかのニュース解説メディア「Vox.com」のニュースレターです。

筆者のもとには毎日10時に届きます(ほかのメディアは朝6時や7時が多いので競争を避けているのかもしれません)。写真付きのトップニュースからはじまり、種々のニュース、さまざまな引用、動画ピックアップ、さらに記事URLといった構成です。

特徴的なのは、ニュースソースが「Vox.com」だけではなく、「ワシントン・ポスト」や「ニューヨーク・タイムズ」、ツイートなど、さまざまなメディアやSNSからの情報を選んでおり、ニュースレター全体で30記事ほど紹介されています。無理やりすべてのURLを自社サイトに誘導するのではなく、編集者が幅広く世界中のサイトに目を通し、より有意義なリンクを紹介しているのはメディアの信頼にもつながりそうです。

18万人が購読:「Quartz Daily Brief」

伝統的なアトランティックメディアが打ち出したビジネスメディア「Quartz(クオーツ)」は、2012年9月から「Quartz Daily Brief」を配信しています。アメリカからヨーロッパ、アフリカ、アジアなど世界のビジネスニュースをカバーしたり、オブセッションと呼ばれるそのときどきのテーマを追うことも特徴ですが、世界中の読者に向けてニュースレターを届けています。

こちらもニュースレターの代表例として押さえておきたいです。筆者のもとには毎日7時ごろ、「Quartz Daily Brief」のアジア版が届きます。上からロゴ、あいさつ、今日の注目ニュース、寝ている間に起きたニュース、オブセッション、名言、議論トピック、驚くべき発見という盛りだくさんの構成です。当初はコムキャスト(Comcast)がこのニュースレターのスポンサーとなっていて、こういう組み方があるのか、と驚いたことを覚えています。

2015年のはじめに10万人だった「Quartz Daily Brief」の購読者数は、2015年11月には18万人を超えるなど順調に伸びています。読者数も月間1500万UUという悪くない数字を記録しており、うち4割の読者が米国外となっています。

「Quartz」は報道に加えて解説記事やデータを用いた記事も多いため、SNS上でのフローで見るよりメールでじっくり目を通すほうが向いているのかもしれません。また、ニュースレターはSNS経由での流動的な訪問ではなく、コアな読者を可視化するという意味でも重要です。まだまだビジネスシーンではメールが使われていますから、記事を届ける場としてなにかできないか検討する必要性は高まっています。

ニュースレターのみで勝負する「theSkimm」

ニュースレターは特定の属性に向けて配信することでその効果が発揮されます。たとえば、放送ネットワーク「NBC」出身の女性2人の共同創業者が立ち上げたニュースレター「theSkimm(スキム)」は、リリースから3年で、いまや150万人が購読する必読メディアのひとつとなっています。

ニュースレターでありながら、Facebookページで約50万いいね!、インスタグラムでも22万フォロワー、Twitterで12万フォロワーと、ブランドが確立されていることがわかります。

ニュースレターというとオンラインで完結するイメージをもつかもしれませんが、「theSkimm」の場合は「SKIMM’BASSADORS(スキムバサダーズ)」というアンバサダープログラムを用意しているのが特徴です。口コミやコミュニティなど草の根で地道に広げていく(テスト)マーケティングに熱心な読者を動員しています。

購読者の8割は女性で、大統領夫人のミシェル・オバマや女優のサラ・ジェシカ・パーカーなども読者です。平均開封率は45%となっています。ニュースレターという事業でも6億円以上の資金調達をおこない、いまではニュースレター内でのスポンサーとの組み方を試行錯誤しています。有料だけでない、ニュースレターの収益化が確立されれば、また新しいメディアの未来が拓かれることになりそうです。

若者読者獲得に向けて:「The Edit」(NYT)

ニュースレターは新興メディアだけでなく、「ニューヨーク・タイムズ」のような老舗も展開中です。最近では2月に学生向けのニュースレター「The Edit」を開始。かつてニュースアプリ「NYT Now」で若い(有料)読者の獲得に失敗した同メディアが、まさかのニュースレターに希望を見出そうとしているのです。

アカデミックな記事から、ソーシャルメディアで話題のニュース、専門家からのアドバイスまで、幅広いコンテンツが毎週月曜日の届けられます。「ニューヨーク・タイムズ」は有料購読者110万人を抱え、2020年までに年間8億ドルの売り上げを目標に掲げています。長期的に見て、若者読者の獲得が急務のひとつなのでしょう。

「ニューヨーク・タイムズ」は現在、40以上のニュースレターを配信。米DIGIDAYによれば、それらの平均開封率は50%とのこと。海外ではメールチンプ(MailChimp)などが企業のマーケティングツールとしてのニュースレターに関するデータを公開していますが、開封率は20~30%です。メディアのニュースレターは比較的開封されやすいのかもしれません。

若者向けの「The Edit」においては、その数字がどの程度になるのかがひとつ注目のポイントとなるでしょう。「ニューヨーク・タイムズ」がメールを主なコミュニケーションツールとして利用する層ではなく、SNS利用がメインの層に対してニュースレターでアプローチする……このことは伝統メディアの課題を先取りする意味でも目が離せない挑戦です。

Written by 佐藤慶一
Image via Thinkstock / Getty Images