「カリスマ記者」にご用心、効果はあるが扱いづらい !?:人材発掘に注力するニューヨーク・タイムズ

2020年に向けたニューヨーク・タイムズ(The New York Times:NYT)のグループ内報告書で着目すべきは、有料購読者を勧誘するために努力を惜しまない同紙の姿勢だった。そのなかで、外部の一流ジャーナリストを取り込むことが、ライバル紙よりも優れた報道を行うためのひとつの提案として推奨されていた。

NYTは「有名記者」の雇用については明言しなかったが、その方向に向かっている理由は誰が見ても明らかだ。フュージョン(Fusion)の フェリックス・サーモン氏がツイートしたように、「報告書には書かれていないが、おそらく有名なジャーナリストが一手に購読者数を伸ばしていることが関係しているのだろう」。

雇用におけるスター性の重視は、ジャーナリズムが生まれた頃から存在していた。コンデナスト(Condé Nast)のような高尚な雑誌でも長年続いている伝統だ。しかし、認知度と信頼性を急速に高めるために、大御所ジャーナリストを引き抜いたマッシャブル(Mashable)やBuzzFeedといったベンチャーキャピタル資本のデジタルメディアが台頭するにつれ、昨今は新たな重要性に注目が集まっている。ソーシャルウェブによってジャーナリストが読者との直接的な関係を築けるようになったおかげで、ジャーナリストの地位が高まっているのだ。

広告費をかけられないパブリッシャーは、読者からより多くの収益を得ようと策を練るにあたり、人々は何に対して進んで金銭を支払うのか、ということを常に考えている。人々は優れた報道に対しては進んで金銭を支払う。これはザ・インフォメーション(The Information)によるモデルだ。また、人々は力強い意見に対しても金銭を惜しまない。NYTは伝統的に編集者ありきの社風だったが、ディールブック(DealBook)の創設者アンドリュー・ロス・ソーキン氏と彼の小さなメディア帝国、そしてテック系で非常に有名な記者であるジェナ・ウォーサム氏など、多くのコラムニストや記者を開拓してきた。

カリスマ記者を雇う意味

NYTが、ほかには絶対に真似できないような記事を生み出す手段を模索しているのを見て、サーモン氏は次のようなことが起こると予想している。「気に入っている人が多ければ多いほど、人々は購読したくなるものだ」「ページビューの数にとらわれず、これまでの世界観を変えることで、誰を雇い、どのような仕事を依頼するか、また彼らをどれぐらい自由にやらせるか、といった考え方も変わってくる。いかに保守的で型にはまったやり方を止められるかだ」と、彼は語った。

パワーバランスが広告主から読者に移っていくにつれて、コアな読者との絆をもち、個性的な活動をしている個人ジャーナリストが地位を築くようになったのは頷けると、ニューヨーク大学のジャーナリズム学教授ジェイ・ローゼン氏は語った。また、ポリティコ(Politico)のメディアライターであるジャック・シェイファー氏は、有名人を引き抜くことはスタッフを増員し、使命の重大性を示し、ほかの人々の関心を惹きつける優れた方法となる、と指摘した。

「この戦略を試すことは極めて容易であり、それだけの価値が見出せるだろう」「有名人を雇い、彼らのファンとその傾向に合わせて方向転換することで、すぐにその効果を感じることができる」と、チャートビート(Chartbeat)の前CEOで現在はサブスクリプション・サービスのスタートアップ、スクロール(Scroll)のCEOを務めるトニー・ヘイル氏は語った。

価格と提供物のバランス

こうした有名人をうまく利用したのが、新興政治メディアのポリティコだ。同サイトの共同創設者であるジム・ヴァンデヘイ氏も、自身の新しいスタートアップ、アキシオス[Axios]でそのモデルを模倣している。

しかし、この戦略には欠点がある。NYTのような有名どころは、すでに有名人がもつ力を有している。ジャーナリストは報道を通じて名を世に知らしめることが可能だが、NYTのような世界的に有名な報道機関との仕事では、その名声がどこから来たものなのか、つまりそのジャーナリストによるものか、それともプラットフォームによるものなのかが判断しにくい、とシェイファー氏は語った。

ジャーナリストへの直接アクセスに課金していた以前のNYTの試みが示すように、価格と提供物のバランスを保つことは難しい。2005年、NYTは年間50ドル(約5700円)で会員だけがアーカイブやコラムニストにアクセスすることができる「タイムズセレクト(TimesSelect)」を立ち上げたが、2年後にはそのサービスを終了している。その後、「タイムズ・プレミア(Times Premier)」という編集室の舞台裏を見ることができる年間585ドル(約6万7000円)の会員向けサービスも立ち上げたが、期待外れのつまらないものだった。サービスに対して金銭を支払うペイウォール戦略は成功したというにはほど遠く、デジタルのみの購読者数は130万人に過ぎなかった

さらに考えられる懸念

また、有名ジャーナリストが必ずしも素晴らしい仕事をするわけではないと主張する者もいる。ワシントン・ポストのデビッド・ファーレンソード氏は、ドナルド・トランプ財団の一連のスクープ以前もメディア業界では名の知れた存在で、現在彼はCNNの寄稿者だ。しかし、平均的な読者に一度でも彼の名前を聞いたことがあるかを聞いてみてはどうだろうか。

「多くの場合、有名人気取りのライターには幅広い支持者はいない」、とゴーカー(Gawker)の共同創設者ニック・デントン氏。「ファーレンソード氏は本当に購読者たちを感動させられるだろうか? 多くの読者は寄稿者の署名を見てフォローなどしていない。一握りの論説記者を除いてはね」。

ネイト・シルバー氏のように、発言力がありフォロワーも多い個人ジャーナリストはどこへ行ってもやっていける、とローゼン氏は語った。「このようなジャーナリストの場合、自主性を尊重しなければならない。彼らをコントロールするのは難しい。大失敗して、自社の評判に傷がつくこともあるだろう」。

さらに、このシステムは管理が大変だと、ヘイル氏は語った。「要するに、将来的に自分のライバルとなるような、ブランド力のある個人ジャーナリストを生み出そうとしているのではないだろうか? このシステムのルートをたどって進むなら、新しい有名人を次々に生み出していかなければならないのだ」。

Lucia Moses(原文 / 訳:Conyac
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