米メディアが「第2のCMS」と見はじめたチャットアプリ:Slackとは何か?

「Eメールを殺している」と言われる、チャットアプリ「Slack」。シンプルなインターフェイスと、PC&モバイルを横断して利用できる点が評価され、急速にユーザーを増やしている。その人気ぶりはイーベイ、ソニーなどの大手企業も採用しているほどだ。

2013年8月に創業したのは、Flickr(フリッカー)の共同創業者でもある、スチュアート・バターフィールドCEO。わずか2年間で「スタッフも理解できないほどの速さで成長」したという(ザ・バージワイアード参考)。

同社は2015年末まで3億3000万ドル(約400億円)の投資を集め、評価額は28億ドル(約3400億円)。出資者にはGoogleベンチャーズ、クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ (KPCB)、アンドリーセン・ホロウィッツ、アクセルパートナーズなど、シリコンバレーの有名ベンチャーキャピタルの名前が並んでいる。

米DIGIDAYの記事(2015年5月)によると、米メディアのニュースルーム(編集局)で、Slackは必須のアプリになりつつあるという。ニューヨーク・タイムズには200のSlackのチャットグループがあり、TIME Inc.(タイム・インク)にも150ある。



創業6カ月でのDAU(デイリーアクティブユーザー)の推移

しかし、最近配信フォームとしての利用価値もあると認識されはじめた。Slackを使えば、リアルタイムで速報を追いかけ続け、状況に進展があれば逐次配信していくことが可能だ。

ニューヨーク・タイムズのインタラクティブニュース開発担当者のマイケル・ストリックランド氏はこう説明する。「対外的なコミュニケーション手段としてではなく、プラットフォームとして役立たせようとしたのだ。読者が信頼し、生活の一部として深く浸透しようとしている。現状では効果を生んでいる」。

速報:報道機関がSlackでニュース配信

2015年10月時点で、SlackにはDAUが170万人がいる。その多くは、1日当たり最低8時間はSlackに釘付けにされている。ユーザー数増加に伴い、パブリッシャーは即座に対応した。

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トルコ領空を侵犯したロシア機の撃墜の速報、カルフォルニア州の福祉施設での銃乱射事件、英議会がイスラム国空爆を承認する見通し、を伝えるSlackのアプリBreaking News(各メディアの配信、Twitterなどが時間系列で並ぶ)

2015年8月、Slackの速報ニュース専用アプリ「Breaking News」は、メディアに速報の提供を勧誘しはじめた。同社ゼネラルマネジャーのコリー・バーグマン氏は、RSSフィードの代替手段として複数の報道機関からの引き合いがあったからだとしており、8月以降は「数百」の報道機関が参加に踏み切ったと話している。

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Slackの運営するBreaking Newsと提携する数百のパブリッシャーの一部。主要報道機関のほとんどが含まれている。出典:Breaking News

「多くの人がSlackを使うようになったので、我々も対応するのが自然な流れに思えた。何かを試して反応を見るのが簡単な手段だった」(バーグマン氏)。Breaking Newsは今後さらに速報の統合を深めていく計画だ。

NYタイムズ:Slackでブログ実況

ニューヨーク・タイムズはSlackを自在に活用している。特定の編集・開発プロジェクト用にたくさんのチャンネルを活用する一方、編集のワークフローに導入もしている。8月に行われた共和党の大統領候補のディベートでは、Slackでライブブログ(ブログによる実況)を実施した。10月に開催されたアップルのイベントにも活用している。

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同性結婚、人種問題、カルフォルニア州での銃乱射事件などをトピックに、共和党の大統領候補のディベートを、Slackを通じてブログ実況するNYタイムズ記者のニック・コンフェソーレ氏、マギー・ハベルマン氏。

SlackはブログソフトウェアのWordPressに取って代わりはしない。しかし、軽快かつ対話重視型の取材をした方が良いイベントでは、有望な代替手段である。「Slackには大いなる可能性がある。複数の記者の間で、互いが簡単に協議できるようにと、短文にして投稿し、より対話的なトーンで利用している」(ストリックランド氏)。

アルジャジーラ「第二のCMS」

アルジャジーラが運営するデジタルメディア「AJ+」は、配信のフローにさまざまな形でSlackを組み込むことが可能だと気づいた。

「AJ+」では2015年のミズーリ州ファーガソンで、黒人少年射殺に絡んで発生した暴動の取材でSlackを活用。現地で収録したビデオ映像をサンフランシスコの編集者に送信するのにSlackを利用した。また、最近では局内の技術班がbotを開発し、Slackを通じて「AJ+」内のコンテンツ配信ネットワークに動画がアップロードされたことの通知を送るようにした。また「Upworthy」と共同制作した記事をSlackのチャンネルでシェアできるようにしている。

「Slackは多くの意味で第2のCMSとなっている」と「AJ+」でエンゲージメントを主導したジガー・メータ氏は語る。「Slackで日常的に時間を費やす人が増えつつあり、他のサービスに誘導させる場としても意味のあるサービスだ」。

Ricardo Bilton(原文 / 訳:南如水)※[日本版]編集部で加筆・編集した