老舗誌のベテラン編集者、デジタル動画で人気者になる:用字用語ルール解説が評判に

メアリー・ノリス氏は、30年間にわたって、有名な「ザ・ニューヨーカー(The New Yorker)」誌のコピーエディター(原稿整理編集者)を務めてきた。そんな彼女にとっても、文法に焦点を当てるWebシリーズを制作するというのは退屈そうなアイデアに思えた。

英語の複雑さと同誌の用字用語ルールを取り上げる動画シリーズ「カンマ・クイーン(Comma Queen)」のパイロット版を2015年に撮影したあと、ノリス氏は「これはかつてないほど退屈だけど、ちょっとでも将来性があるかどうかを調べるテストになる」と笑った。

その後、本格的に編集したところ、この動画シリーズに人気があることが明らかになった。

最初のパイロット版は5~6分間の長さで、公開されることはなかった。その後、尺を2~3分以内に短縮した「インスタント」バージョンで、ノリス氏は、「that」と「which」の違いや、前置詞の複雑な問題について解説した。もちろん、連続カンマの説明もある。

「ポイントは、パイロット版を短縮したこと。それが良かった」と、ノリス氏は米DIGIDAYに語った。「台本は書いていない。撮影が中止になることを願っていたから。撮影が中止になるなら、ムダに準備して時間を浪費したくない」と、ノリス氏は笑う。「それに、台本がない方が、動画が自然な感じになっていいと思うの」。

フォロワーが増える理由

ザ・ニューヨーカーは、自社サイトで動画を視聴した人数の内訳を明らかにしていない。だが、同誌のFacebookページでの再生回数は5万~25万回で、ノリス氏の温かい人柄に引きつけられたらしい忠実なフォロワーを増やしている。

「カンマ・クイーン」のエピソード数は現在25本で、さらに追加する計画だ。ノリス氏は、ザ・ニューヨーカーの記事原稿を整理編集する際に見つけた例を取り上げる。一方で、政治やセックスといった物議を醸す内容は避けている。

「間違いと、それを正す方法の違いを示す必要があるので、それに適した例を見つけようと常に奮闘している。例をでっち上げるようなことはしたくない。実例がこんなにもたくさんあるのだから」。ノリス氏は、ミスを指摘する際に執筆者の名前を出すことはないが、彼らから「警戒」されるようになったことを認めた。

キャラを見出したのは編集長

動画シリーズのアイデアは、ザ・ニューヨーカーのWebサイト向けにノリス氏が以前執筆した同趣向のコラムから生まれた。ノリス氏は出版社から原稿を保管しておくようよう求められたため、そのコラムをスクラップしていたという。そうして、著書『Between You & Me: Confessions of a Comma Queen(あなたと私のあいだ:カンマ・クイーンの告白)』が出版された。

ノリス氏はこの本を2015年に書き上げたあと、「ニューヨーカー・フェスティバル(New Yorker Festival)」で自著のプレゼンテーションを行った。ザ・ニューヨーカーのデビッド・レムニック編集長は、会場でノリス氏のパーソナリティーを見て、彼女がホスト役を務めるWebシリーズを思いついたという。

「彼女は超一流のコピーエディターで、とても愉快だし、言語に関して極めて優秀だ」。同編集長は、ノリス氏を評するのに「heimish」というイディッシュ語(東ヨーロッパのユダヤ人によって話されたドイツ語の変種)を使った。heimishとは、温かくて居心地がよく、親しみやすいという意味だ。

レムニック編集長は、ノリス氏の伝達手段である言語を「人類最大の発明」と表現した。

「言語は、誰もが使う技術だ」と、レムニック編集長。「言語という体系のなかで、暮らしたり、夢を見たり、読み書きをしたり、意思を伝えたりしている。我々が皆、当たり前のように持っているものだ」。

コピーエディターを目指す人も

ノリス氏は同編集長の発言に呼応しつつ、スタイルガイド(表記統一表)を守るというザ・ニューヨーカーの評判のおかげで、人々に耳を傾けてもらえると説明した。「スタイルガイドは語句のリストにすぎない。しかし、たぶんザ・ニューヨーカーから広まった流行が若干あることから、当誌のスタイル(表記)は強い関心を持たれている」。

それでもやはり、ノリス氏にとって、自分の動画を大勢の人が視聴している事実は衝撃的だ。「これらの動画が人気を集めていることに本当に驚かされる」とノリス氏は語る。「カンマやピリオドの使い方を学びたいという人たちがいることは、私にはとてもうれしい。私に刺激されてコピーエディターになる人さえいる。そんなことはまったく想定していなかった」。

Jordan Valinsky(原文 / 訳:ガリレオ)