パブリッシャーも愛しはじめたチャットアプリ「Slack」:その魅力と問題点は?

どのニュースルーム(新聞社の編集部)も、大量に押し寄せるメールに困り果てている。どのような手段を用いても、早く処理したいところだ。救世主となったのが、チャットアプリ「Slack(スラック)」である。

このアプリは3年前にデベロッパーのために開発されたものだが、現在パブリッシャーの間で大人気だ。Slackはシンプルなインターフェイスと、PC&モバイルを横断して利用できる点が評価され、大企業などビジネスシーンで利用が加速し、急速にユーザーを増やしている。

社内コラボの潤滑油に

毎日Slackに数千件ものコメントを残すユーザーが多く存在するニューヨーク・タイムズでは、各部署のものを合わせると約200本のSlackチャンネルを運用。それらの多くは商品開発チームのものだが、編集側でも特集記事や海外記事に特化されたチャンネルを運用している。

「私たちはコミュニケーションツールとしてずっとチャットを利用してきたので、チャット自体は目新しいものではない」と、ニューヨーク・タイムズのニュース編集室でストラテジーエディターを務めるタイソン・エヴァンズ氏はコメント。「メールやインスタントメッセージではどこで会話が始まるか分からなかったが、Slackでは特定のチャンネルがあるので分かりやすい。スタッフが何かをはじめる時に最初に使用するツールとなった」。

パブリッシャーがSlackを多用しはじめた背景には、商品部門と編集部門の垣根が低くなりはじめたという事実がある。以前はあまり協力体制はなかったが、デジタルシフトすることによってその機会が増えたのだ。

Slack
Slackのホームページ

社外勤務者との会話に

Slackを愛用するパブリッシャーはほかにも存在する。デジタルメディア「クオーツ(Quartz)」には126人の社員が勤めているが、その40%は社外勤務だ。このような場合でも、Slackはすべての会話を身近にし、チームをまとめ、多くのコラボレーションの機会をあたえてくれる。

「企業はある程度の大きさに成長すると、皆で座って話すことができなくなる。だからこそ、Slackのようなツールはとても重要で、欠かせない」と、「クオーツ」の商品部長であるザック・スワード氏は話す。「人々と直接コミュニケーションを図る方が良いけども」。

役員とのコミュニケーションに

また、別のパブリッシャーは、Slack利用でスタッフと管理職の溝が埋まってきたという。米新興デジタルメディア企業のVox Mediaでは「#vox-media-ceo-ama」というSlackチャンネルを作成。CEOのジム・バンコフ氏と一般社員がコミュニケーションを取れるようにした。

そのチャンネルにおいて社員は、直接CEOに企業の未来などについて聞くことができる。「戦略や討論会のテーマなどを話し合って、企業全体が健康的になった」と、Vox Mediaの編集部長であるロックハート・スティール氏は語った。

カスタマイズ利用も

Slackの変わった利用方法もある。「クオーツ」では、ニュース記事が発行されたり、読者がコメントを残したりすると、自動更新されるSlackチャンネルを運用している。

また、ニューヨーク・タイムズでは、SlackとCMS(コンテンツ管理システム)を統合しているのだそうだ。これにより、記事草稿の一覧表を出すことや、Webサイトページのスナップショットを投稿することが可能になった。タイム社(Time Inc.)では、チケット管理システムのトラブルシューティングとSlackチャンネルが接続されている。

口コミで広まったSlack

多くのパブリッシャーにおいて、Slackの利用は自然と開始された。当初、Slackはタイム社、「クオーツ」とVox Media、それぞれの商品開発部門のスタッフによって使用されていたが、彼らからそれぞれの編集部にSlackの利便性を伝えたところ、編集側でも使用されるようになったという。だが、販売部門のスタッフにはあまり受け入れられなかったようだ。

「魅力的なものを取り入れることが大好きだ」と、タイム社の最高技術責任者であるコリン・ボーデル氏は話す。タイム社はおよそ150本ものSlackチャンネルを運用し、1200人ほどのSlackユーザーを抱えている。「誰かにこのツールを勧めたとしても、価値を認めて使いはじめる人もいれば、価値がわからずに使わない人もいる。Slackにおいては、私たちは口コミで広めただけだ」と付け加えた。

各社のSlack運用戦略

しかし、Slackに関してはほとんどのパブリッシャーが似通った戦略をとっている。Vox Mediaには656人ものSlackユーザーと数百本ものSlackチャンネルが存在するが、これらはプロジェクトやイベント、オフトピックな話し合い(コーンフレークに特化したチャンネルも存在する)などを中心に、多くが専門チャンネルとなっている。「私たちは、チャンネル作成の工程まで管理するつもりはない。新しいチャンネルを作っては、古いチャンネルは閉鎖している」と、Vox Mediaのスティール氏はコメントした。

愛されているSlackだが、欠点がないわけではない。そのひとつにメールがある。場合によってはメールの代わりにもなるが、Slackだけだと心もとない。「クオーツ」のスワード氏は、日頃チェックするものが増えたと話す。

また、タイム社のボーデル氏はSlackの発展によってタイム社に何かしらの被害が出ないかと、常日頃から恐怖がつきまとっているという。そのもしもの時のために、タイム社は事業継続計画までをも準備していると話す。ほかにも、Slackを利用しすぎることでスタッフの生産性に悪影響を及ぼすのではないかという不安もある。

傾倒しすぎることへの懸念も

パブリッシャーにはSlackに対する多大なる愛情があると同時に、嫌悪感もあるようだ。

「Slackは怪物にもなる。大好きではあるが、『これを使うのは辞めたほうが良い』と思える時がときどきある」と、スティール氏は語った。「私たちに何かを与えてくれるものは、私たちから何かを奪っていく」。

Ricardo Bilton(原文 / 訳:BIG ROMAN)