FTに学ぶ、データを活用したエンゲージメントの高め方

多くのパブリッシャーは、戸惑いつつも、ようやくデータ時代に対応しはじめた。

一方「フィナンシャル・タイムズ(FT)」では、2007年から「メーター購読」モデルを採用している。このように読者情報データの取得において、他媒体に抜きん出ているFTでは、データを活用し、読者との直接的な関係を構築していると、チーフデータオフィサーのトム・ベッツ氏は述べた。

ベッツ氏は、2009年にFTに入社。購読数とオーディエンスの増大を図るうえで、データの重要性を認識した同社は、2015年9月、初代のデータ長としてベッツ氏を役員会に加えた。現在、ベッツ氏は、顧客分析と調査に注力する30人のチームを率いている。以下、いかにデータ活用を成熟させ、オーディエンスエンゲージメントを高めるか、ベッツ氏に学ぶ。

全社的にエンゲージメントへ着目

FTによると、同紙のデジタル購読者数は、2015年から12%アップし、56万6000人に達した(印刷版を含めると、有償購読の合計は78万人)。

購読数は、非常に重要ではあるが、FTでは購読数をもっとも重要な成功指標とは見なしていないという(ちなみに、コンテンツとサービス、すなわち購読とイベントからの収益は、同紙全体収益の半分以上を占めている)。FTがもっとも重要な成功指標と見なしているのは、オンラインページの滞在時間、再訪問数、訪問頻度、ライク(いいね)数、ソーシャル共有、コメントなどで計測される「エンゲージメント」なのだ。

「エンゲージメント指標の重要性は、全社員に行き渡っている」と、ベッツ氏は語る。「これを実施することにより、全社員の方向性が一致する。エンゲージメント指標は、マーケティングチームによるニュース編集室サポートの原動力となり、同時に、マーケティングチームそのものの目標達成にもつながるのだ」。

デイリーのメルマガでエンゲージメントを換気

FTが既存読者とのエンゲージメントを確保する有効な手段のひとつとして、毎朝購読者に配信されるメール「FirstFT」がある。FTの編集部が独自にアグリゲーションする、このメールは2014年に配信開始され、毎回15から20の記事を配信。そのうち半数はFTによる記事だという。eメールプロバイダのメールチンプ(MailChimp)によると、「FirstFT」における政治トピックのニュースレターの開封率は、30%にのぼる。ちなみに、業界平均は23%だ。

同じくメールチンプによると、「FirstFT」のクリックスルー率(CTR)は2.5%で、一般的なメルマガの平均2.35%に比べ、高い結果となっている。「FirstFT」には訪問別ページビュー数を高める作用もあり、最初の訪問で平均2本以上の記事閲覧につながっているという。

この成功にもとづき、FTでは、9件の新規ニュースレターを追加。Weekend (週末特選トピック)、Energy Source (エネルギーセクター関連)、LatAm Viva (南米関連)、Free Lunch (グローバル経済、欧州のランチタイムに合わせ配信)、Opening Quote (早朝金融ニュース)、#TechFT(テクノロジー関連)、UK Politics(英国政治)、Brussels Briefing(欧州関連)、White House countdown (米国選挙関連)だ。各ニュースレターは、編集部がテーマに基づき監修し、毎日、または週一で配信される。このうち2件は、この1月末に配信が開始されたばかりのサービスだ。

「IT企業にはチーフデータオフィサーがいない」

ベッツ氏の役員就任は、アナリストの社内分散というFTの進化とも関連している。2015年まで、エンジニアとアナリストは、組織的に切り離された存在だった。現在、データアナリストは、マーケティング部門および編集部門に組み込まれている。

オーディエンスエンゲージメントチームは、ニュース編集室に常駐し、直接的に記者たちと関わりながら仕事をしている。FTのニュース編集室には、データアナリスト、SEOエキスパート、エンゲージメントストラテジスト、ソーシャルメディアマネージャ、そしてジャーナリストが同居しているのだ。チームの目標は、FTジャーナリズムをより多くの人々に届け、デジタル読者を念頭にニュース編集室を進化させていくことである。

「分析方面が成熟しているビジネスでは、アナリストの大多数が、各部門内に居場所を持っている」とベッツ氏。また、「テクノロジー企業では、チーフデータオフィサーを有していない」とも付け加えている。

原文 / 訳:片岡直子)
Image courtesy of the Financial Times