Facebookインスタント記事、日本上陸でアジア「制覇」:2G、アンドロイド対策で新興国照準

Facebookは2016年1月14日「インスタント記事(Instant Articles)」を発表した。インド、中国、オセアニア、東南アジア、東アジア……そして最後の1ピースとなった日本と、インスタント記事の提供がアジア太平洋地域を「完全制覇」したことになる(当局による報道の管理が厳しい中国に関しては未知数だが)。

2Gの通信環境、モバイル最適化、アンドロイド対応の動きは、Facebookがアジアを中心とした新興国での影響力を拡大しようとする世界戦略の一端とみられる(Facebookのメディアに対する影響力についてはこの記事)。

主要新聞と東洋経済が初期パートナー

インスタント記事はモバイル向けパブリッシャー(媒体社)プラットフォームで、「通常のモバイルWebの記事より10倍以上速く読み込む」というサービス。ユーザーのニュースフィードに現れ、展開すると、Facebook内で読み込みにいらいらせず、サクサク記事読めるが、パブリッシャー側は自社サイトへのトラフィックが稼げなくなる。スマホサイトの読み込み時間短縮に苦慮するパブリッシャーに対し、高速配信インフラを提供する代わりに、広告料を折半する仕組みになっている。

朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞、東洋経済オンラインの6社が最初のパートナーになった。Facebookは他国でも代表的な大手トラディッショナルメディアを初期パートナーに選んでいる。毎日新聞デジタルメディア局次長の高島信雄氏は「新聞社にとって、記者と読者の接点がソーシャル上で持たれる機会が増えつつあるなか、エンゲージメントの築き方が今後ますます重要になると考えている」と述べている。

 

Introducing Instant Articles, a new tool for publishers to create fast, interactive articles on Facebook.

Posted by Facebook Media on Tuesday, May 12, 2015

 

スマホの時代、アンドロイド、2G環境が鍵

Facebook最高製品責任者のクリス・コックス氏は14日、東京・六本木で開かれた記者会見で、Facebookの戦略について「スマートフォンが中心だ」と語った。世界的にネット利用の中心がスマホになりつつあるが、今後ネット人口が拡大する新興国ではその傾向がより濃い。

スマホがさまざまな社会的機会へのアクセス、ネットワークの構築を助けるため、新興国の人々は三種の神器(テレビ、洗濯機、冷蔵庫)のような耐久消費財よりもスマホを優先して買う傾向がある。100〜300ドルの低・中価格帯のアンドロイドのスマホがメインで、多くの富裕国とは異なり、デスクトップを経由せず、ネットと出会うのが特徴だ。

Screen Shot 2016-01-14 at 17.47.42

インド、中国のスマホ販売価格の推移。中国は300ドルに向かい多少持ち直したものの、インドでは低価格帯を好む層がスマホを買い始めたとみられ、100ドル前半台まで落ち込んだ。また、インドではコピー品を含む100ドル以下のスマホが売られている。(出典:Quartz)

コックス氏は、世界のモバイルシェアでは、フィーチャーフォン(従来型携帯電話)が落ち込む反面、アンドロイドが急伸するが、通信環境の2Gから3、4Gへの移行は鈍いと予測した。このため、2G環境で多数のデバイスを使い、Facebookアプリがなめらかに動作するかテストと改良を重ねていると明らかにした。

IDC: Smartphone OS Market Share 2015, 2014, 2013, and 2012 Chart

フィーチャーフォンを除いた、スマホのみのシェア(全世界)では、アンドロイドは8割超とすでに支配的だ(出荷ベース)。(出典:IDC)

新興国戦略の「実験場」、インド

コックス氏はインド、デリーから来日し記者会見に臨んだ。「インドの首都デリーにあるモバイルの市場(いちば)を訪問した。非公式のもの(コピー商品など)を含むスマホが取引されており、世界最多の取引が行われている場所かもしれない」。インドのスマホ市場は地場系の低価格帯アンドロイド中心で、2G契約が一般的だ。

IMAG2476

インド・ムンバイの路上モバイル店。2GのSimカード提供が主で、スマホの修理なども受け付けてくれる。近辺では100ドル以下の機種が売られていた=2015年4月、吉田拓史撮影

この2G環境で、Instant記事内で360度動画、動画とテキストが流れるように動作する没入型(Immersive)の体験が提供できるならば、Facebookにとって大きなアドバンテージになる。インスタント記事は2015年5月にiOS版Facebookアプリ専用に開発されたが、12月にはアンドロイド版にも門戸を開いている。

このため、インドは最高の実験場となり、バングラデシュ、パキスタンなど人口が多い南西アジアから、中東、アフリカ諸国でもFacebookが優位になるかもしれないのだ。

インターネットがFacebookになるか

FacebookのMAUは15億人超に達している(第3四半期決算)が、ネット人口は現在全世界で30億人おり、2020年に世界人口の80%(約50億人)がスマホをもつという予測に基づけば、Facebookは将来的に新興国、途上国に35億人の余地を抱えている。

「通常のモバイルWebの10倍の速さで読み込まれる」とうたう、インスタント記事は、既存のモバイルWebがかかえる文脈にも即している。多量のネット広告をのせることが主要因となり、読み込み時間が遅くなり、ユーザー体験がないがしろにされているからだ(ユーザー側は対抗策として広告ブロックを利用するようになった)。

Googleは独自HTMLでモバイルWebを高速化するAMPを近くリリースする。Appleの「News」は米英豪のみでの展開。パブリッシャープラットフォームについては、Facebookが大きく先行した形だ。ライバルのGoogleに先んじて、モバイル経由のインターネットを囲い込みたいが、ひとつのプラットフォームが強固な力をもつことを望まない引力が生まれる可能性もある。

2015年のメディアプラットフォームをめぐる動き
05月 Facebook、米国でiOS版アプリを対象に「Instant Articles(IA)」をリリース。9社の媒体社パートナーが参加
09月 Apple、米英豪で「News」をリリース
10月 Google「AMP」の2016年リリースを発表
12月 IA、インド、中韓台香、東南アジア、オセアニアにサービス拡大。アンドロイド版アプリにも提供。

VR、360度ビデオと「没入型」に向かう

コックス氏はFacebookのサービスの価値として「没入型(Immersive)」という観点も指摘した。展開すると、テキスト、画像、動画、360度動画などのリッチな体験が現れるインスタント記事。このような仕組みは、広告主には試験中のキャンバス広告として、ユーザーにも別の形として提供されることになりそうだ。

Google傘下のYouTubeと競い合うように導入した360度動画オキュラスによりGoogleに先んじるVRも没入型。ほかにもWhatsApp(ワッツアップ)、Facebookメッセンジャーのメッセンジャーアプリ、若年層に効いているインスタグラムなどを、「ネット内でFacebookの影響力を高めるために」今後どのように展開するか注目が集まる。

Facebookは同日、新機能リアクションの2016年1月14日の提供開始を発表。「いいね!」に「超いいね!/ うけるね / すごいね / 悲しいね / ひどいね」が加えられた。長押ししてこれらの感情を選ぶことができるようになった。日本は6カ国目。

 

 

Written by 吉田拓史