なぜワシントン・ポストは億単位の広告を受注できたのか?:ベゾス氏が生んだ「WPブランドスタジオ」

米老舗日刊紙「ワシントン・ポスト(The Washington Post)」のプランデッドコンテンツ担当チームは、この1年間に同紙がデジタル分野で目立つ存在になったと感じはじめている。

広告主と同紙のオーディエンスを結びつけるプラットフォームである「WPブランドスタジオ(WP BrandStudio)」によると、この1年間にスポンサードコンテンツキャンペーンを展開する広告主の数が倍増した。PCメーカーのデル(Dell)、コングロマリット企業ゼネラル・エレクトリック(GE)、グローバル総合金融サービス会社JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(JP Morgan Chase)、独大手メーカーのシーメンス(Siemens)、物流大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)、航空大手ロッキード・マーティン(Lockheed Martin)、独自動車メーカーのアウディ(Audi)、ケーブル局FXのテレビドラマ「ザ・アメリカン(The Americans)」など、全国的なクライアントが増えているという。

信頼で勝ち得た巨額案件

アニー・グラナスティン氏とポール・チグライクス氏が運営するWPブランドスタジオは2016年4月、米ケーブル局サイファイ(Syfy)のテレビ番組「ハンターズ(Hunters)」向けに、これまででもっとも野心的なブランドマーケティングを開始した。これは、「6桁の上のほう(おそらく1億円前後)」に達する費用をかけて、すべてのコンテンツを制作し、メディアプランを網羅するというものだった。

キャンペーンには、スポンサー記事や動画が含まれる。それらは、米国における国家安全保障関連のニュースソースというワシントン・ポストの評判を拠り所にしていた。また、ワシントン・ポストのソーシャルメディアに関する専門知識とターゲティング技術を駆使して、潜在的なオーディエンスを広告に誘導した。

「こういったコンテンツは、深い調査が必要だが、編集サイドのワシントン・ポストは、深く掘り下げた記事も扱っている。したがって、我々がワシントン・ポストの成果を、ある程度資金があって、新しいことを試したいマーケター向けのプログラムに利用するのは、自然な流れだ」(チグライクス氏)

WPブランドスタジオによるFacebook投稿

全国規模となったWP

ワシントン・ポストは、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)のようなパブリッシャーと張り合おうとしている。NYTは、2年前に米テレビドラマ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック(Orange Is the New Black)」で使った女性囚人に関するネイティブ広告で視聴回数を稼いでおり、こうしたジャーナリスト流広告の先駆者だ。

何年にもわたって、ワシントンDC地区限定の広告チャネルともっぱら見られてきたが、WPブランドスタジオは、編集サイドが成し遂げたのと同じように、全米を対象とする野望を実現しつつある。なお、ワシントン・ポストのWebサイトへのトラフィックは、この1年間に急増し、月間ビジター数は5200万人から7300万人になった。

3年前に結成されたWPブランドスタジオ担当チームは、アカウント管理者、クリエイティブストラテジスト、製品開発者、動画スペシャリスト、編集者、ライターなど、約50人のメンバーがいる。ただし、開発者が編集と広告を掛け持ちしているので、チームの規模は変動する。それでも、ニューヨーク・タイムズにはまだ後れをとっている。ニューヨーク・タイムズの広告制作部門「Tブランドスタジオ(T Brand Studio)」は、90人以上のスタッフを抱え、2013年12月に設置されて以来、広告主とともに151を超えるキャンペーンを展開してきた。

ベゾス氏の改革の賜物

「このサイファイのキャンペーンは、Amazonの創設者で最高経営責任者(CEO)を務めるジェフ・ベゾス氏による買収から生まれた、我がチームのお披露目パーティーのようなものだ」と、WPブランドスタジオの責任者であるグラナスティン氏は言う。ニュースサイト「スレート(Slate)」のカスタムコンテンツ担当チームに属していた同氏は、昨年、WPブランドスタジオに加わった。ちなみに、チグライクス氏の古巣はウォールストリート・ジャーナルだ。

Amazonのベゾス氏は、約3年前にワシントン・ポストを買収し、多くの変革を監督してきた。また、編集と広告の分野を掛け持ちできるエンジニアリングチームを育て、それがWPブランドスタジオへプラスに働いてきた。

WPブランドスタジオは、編集部門とパブリッシングプラットフォームも共有しており、同じ技術ツールを利用できる。コンテンツプラットフォームの共有により、記事のデザインが容易になっただけでなく、WPブランドスタジオは、共通のターゲティング技術を利用できるので、もっとも関心を持ってくれそうな読者にネイティブ広告が提供される。

ちなみに、ウォールストリート・ジャーナルでは、編集と広告でコンテンツ管理システムを個別に採用している。

チグライクス氏は、WPブランドスタジオが2016年、どれだけの顧客を獲得する見通しか、どれほどの売上を達成しそうか、明らかにしていない。今年と来年で売上が3倍になる見込みで、過去1年間の広告主の数が前年と比べて2倍だったと述べるにとどまった。

プレミアムパブリッシャー

業界団体「デジタル・コンテンツ・ネクスト(Digital Content Next:DCN)」のCEOであるジェイソン・キント氏によると、コンテンツに関する専門知識をブランドに伝えてくれるプレミアムパブリッシャーは、きわめて貴重な存在だという。「さまざまなプラットフォームすべてに、質の高いコンテンツとストーリーテリングを提供できる企業が何社あるだろうか?」とキント氏は指摘する。

米ケーブル局サイファイの「ハンターズ」用キャンペーンは、約10人が3カ月かけて準備し、2016年4月にスタートした。サイファイがワシントン・ポストを選んだのは、規模が十分大きく、「異星から来たテロリスト」という番組のテーマを示せるからだ、とサイファイのブランドおよび戦略的マーケティング担当シニアバイスプレジデントであるサラ・モスコウィッツ氏は語る。

ワシントン・ポストは、FacebookとTwitterへの投稿も作成し、この番組をテーマとするコンテンツハブに人々を誘導した。

「規模とふさわしいオーディエンスをもたらしてくれるパートナーを探していた。消費者は、あからさまなマーケティング以上のものを求めているので、消費者のために価値あるコンテンツを制作できる方法がもっと必要だ」(モスコウィッツ氏)

Garett Sloane(原文 / 訳:ガリレオ)