デジタルで収益の70%を賄う独アクセル・シュプリンガー:その成功の秘訣とは?

70年の歴史をもつドイツのメディアコングロマリット企業アクセル・シュプリンガー(Axel Springer)は2016年3月、収益の70%はデジタルから得ていると、ほかの企業がうらやましがるような財務報告書を公開した。2016年までに収益の半分をオンライン商品にするという、同社のマティアス・デップナーCEOが掲げた10年計画をあっさりと抜いてしまったのだ。

アクセル・シュプリンガーの成功の秘訣は多様化にある。同社は成長戦略として、ペイドコンテンツ、クラシファイド広告(三行広告:参考)事業とマーケティングを重視しているのだ。

「当初、私たちは株式公開が近づいている企業への投資などに注力していた。私たちの戦略と沿ったビジネスモデルを確立させ、複雑な工程を経て、合併や買収を行ってきた」と、アクセル・シュプリンガーのアメリカ代表取締役であるイェンス・ムッフェルマン氏は話す。2年前、アクセル・シュプリンガーは戦略の方向転換が必要となり、売り上げが立ち始めた企業へのアーリーステージ投資や、アメリカ市場を狙うことになったのだ。いかにアクセル・シュプリンガーがデジタル企業に投資をしてきたか見てみよう。

アーリーステージ投資

2013年以降、アクセル・シュプリンガーは90社以上の企業にアーリーステージ投資を行っていて、すでに1億ユーロ(約122億円)以上を費やしている。アクセル・シュプリンガーの本部がベルリンという、スタートアップ企業が豊富に存在する場所に位置しているのも助けとなっているのだろう。

「アーリーステージ投資は、ほかの投資とまったく異なる」と、ムッフェルマン氏は話す。「分野の幅が広く、成功するかどうかわからない企業に投資をしている。ほかにも、日和見投資もある」。他企業でも同じことが言えるが、アーリーステージ投資が魅力的なのは、起業家たちの初期段階のモチベーションをアクセル・シュプリンガー自らの成長の糧とできる点だ。

「アーリーステージ投資は、確立していない技術やビジネスモデルに賭けることだ」と、企業情報データベース企業CBインサイツ(CB Insights)のアナリストであるニヒル・クリシュナン氏は語る。「投資家の一部には、企業が成熟したり安定するまで投資を待つ人もいるが、ブランドや企業が成熟して、確立してしまった後に投資をしても、より高い金額を支払うことになる」と、彼は語る。しかし、アーリーステージ投資という賭けが成功すれば、投資家には多大な利益が入るのだ。

「ランタスティック」の成功事例

特に顕著な成功事例となったのが、オーストリアのフィットネスアプリである「ランタスティック(Runtastic)」だ。2013年に企業価値が2000万ユーロ(約24億円)とされ、アクセル・シュプリンガーが株式の過半数を購入している。2年後の2015年8月、このフィットネスアプリはアディダス(Adidas)に売却されたが、企業価値は2億2000万ユーロ(約270億円)に上がっていた。アクセル・シュプリンガーにとって、純譲渡所得が8000万ユーロ(約98億円)にもなったのだ。

しかし、この「ランタスティック」は稀なケースだ。アクセル・シュプリンガーは、収益よりも、これらのスタートアップ企業と共有する「知識」に興味があると話している。

「『ランタスティック』の場合、彼らの商品の知名度を上げるために、私たちはドイツやヨーロッパ全土に広がる既存のマーケティング力で支援した」と、ムッフェルマン氏は説明する。「私たちはパートナーとなり、設立者はマネージャーや株主という形で残ってもらっている。パッチワークで出来ている家族のようなものだ。私たちは起業精神を殺すのではなく、その想いが加速するような手助けをしたい」。

アメリカをターゲットにする

アメリカにはスタートアップ企業が多く集まる都市が6つもあるため、アクセル・シュプリンガーにとって、アメリカはとても魅力的な市場だ。ドイツとは比較にならないくらい、アメリカのスケールが大きい。そして、技術や広告においても、アメリカはずっと先進的だ。

アクセル・シュプリンガーのデップナーCEOも、民間宿泊サービスのマッチングサイト、Airbnb(エアビーアンドビー)の設立者であるブライアン・チェスキー氏と会い、シェアリングエコノミー(共有経済)という考え方に賛同し、Airbnbの株を少数ではあるが購入した。これを機に、アクセル・シュプリンガーはさまざまな企業を対象に少額投資を行っている。

現在、アメリカのアクセル・シュプリンガーのポートフォリオは、デジタルコンテンツ事業に重きを置いている。米経済メディア「ビジネスインサイダー(Business Insider)」を所有し、デジタルメディアの「NowThis(ナウディス)」「Mic(ミック)」「Ozy(オジー)」や、バーチャルリアリティ企業である「Jaunt(ジャウント)」の株も保有している。これらの多くで、コンテンツ共有を図る機会があるのだ。「NowThis」を例に見ると、アクセル・シュプリンガーと共同で制作した難民問題についてのブランデッドコンテンツを共有している。

2015年の1月から9月にかけて、アクセル・シュプリンガーは「ビジネスインサイダー」の株式保有を9%から97%にまで引き上げたため、同メディアはアクセル・シュプリンガーが唯一株式の過半数を保有する企業になった。こちらでもコンテンツ共有を行っていて、アクセル・シュプリンガーが所有する経済メディア「Finanzen.net」から経済に関する情報を得ている。「ビジネスインサイダー」はドイツにも展開していて、2016年度第二四半期にはポーランドにも進出する予定だ。

今後はクラシファイド広告に期待

アーリーステージ投資に関して、アクセル・シュプリンガーはクラシファイド広告の市場など、古い伝統を打ち壊す可能性をもった企業に注力していくと、ムッフェルマン氏は話している。アナリティクス企業エンダー(Ender)のメディアアナリストであるトーマス・カルデコット氏によると、クラシファイド広告市場は儲かるという。オンラインニュースと比べて競合企業も少なく、アクセル・シュプリンガーのようにクラシファイド広告市場に投資した企業は、早い成長、高いマージン率や参入障壁によって利益につながったからだ。しかし、いまからクラシファイド広告市場への投資を考えても、すでにときは遅い。

「アクセル・シュプリンガーがクラシファイド広告市場で成功を再現するには、市場が成熟しすぎている」と、彼は話す。「成長のきっかけとなった印字からのデジタルシフトは、多くの市場でかなり進んでしまった。クラシファイド広告市場ではリーダー企業がすでに決まって競争が激化しているため、アクセル・シュプリンガーの参入は遅すぎたのかもしれない」。

Lucinda Southern(原文 / 訳:BIG ROMAN)