独パブリッシャー、自家製「インスタント記事」でFBに対抗:サムソンとの協業で堅実な船出

ドイツのメディア企業であるアクセル・シュプリンガー(Axel Springer)は、トラフィックを呼び込むためにサードパーティーのプラットフォームへ過度に依存することに慎重な姿勢を示している。そこで、サムスンと手を組んで生み出したのが、自社製ニュースアグリゲーター・プラットフォーム「アップディ(Upday)」だ。

ベータ版がリリースされたのは、2015年9月。テストアップ期間中、ユーザーは月に平均2時間以上を「アップディ」上で過ごしたと、同社は主張している。

現在では、アクセル・シュプリンガー社をはじめとする、1200ものパブリッシャーが利用。そのなかには、Facebookの「インスタント記事」やAppleの「News」のようなプラットフォームへのコンテンツ配信に懐疑的な立場を取る、「エコノミスト(The Economist)」「デイリー・テレグラフ(The Daily Telegraph)」「フィガロ(Le Figaro)」「デア・シュピーゲル(Der Spiegel)」などが含まれている。

「アップディ」はいくつかのサプライズをもたらした。英国、ドイツ、フランス、ポーランドで、2016年3月上旬に発売されるサムスンの最新スマートフォン「ギャラクシーS7(Galaxy S7)」やタブレット端末には「アップディ」がプレインストールされるという。スマートフォンのホーム画面から右へスワイプすると表示される仕様になっていて、デバイスのデフォルトシステムに統合されているのが分かる。

アクセル・シュプリンガー社の元エグゼクティブ・バイスプレジデント、ピーター・ベルテンベルガー氏とそのチームは、ほかのニュースアグリゲーターにはないものを携えて、サムスンにアプローチしたと語る。というのも、サムスンは彼らにとって魅力的なパートナーだった。スタティスタ(Statista)社の統計によると、英国のスマートフォン市場におけるサムスンのシェアは32%。45%のシェアを持つAppleに次いで、第2位につけている。ヨーロッパ全体でのサムスンのシェアは40~50%になるだろうとスタティスタ社は見ているのだ。

アップディ社のベルテンベルガー最高経営責任者(CEO)は米DIGIDAYの取材に対し、ニュースソースの発掘に人間とアルゴリズムを使っていること、パブリッシャー向けのプラットフォームを作ったこと、アドブロッカーを禁止していることについて語ってくれた。

人の手も加わった記事選択

ユーザーが「アップディ」を利用すると(旧バージョンのサムスン製スマートフォンのユーザーはアプリをダウンロードできる)、パブリッシャーからのコンテンツが「Tinder(ティンダー)」風の「アップディ」独自のカード形式で提示され、スワイプで次の記事を読める。記事はそれぞれ、「知るべき(Need to Know)」ニュースとしてローカルの記者チームによって監修される速報が主だ。

「アップディ」を見るたびに表示されるのは、毎回6~8本の新着記事。オプションで新着記事の通知を受け取ることもできる。「知りたい(Want to Know)」記事は、新規ユーザーが初回に入力する、好みの情報を基にアルゴリズムが選び出す。

Screen-Shot-2016-02-23-at-18.53.30右にスワイプする仕様

ベルテンベルガー氏は、米DIGIDAYの取材に、「人間のレポーターとアルゴリズムの組み合わせこそ、サムスンが我々と手を組んだ理由です。ヨーロッパ市場でこれをやっている例はほかにない。ライバルとの差別化になり得る」。

パブリッシャーを意識して開発

パブリッシャーにとって、「インスタント記事」のようなニュースアグリゲーター・プラットフォームへの参加は諸刃の剣となる行為でもある。オーディエンスへのリーチを獲得できる一方、収益の減少にも繋がるからだ。アクセル・シュプリンガーはこれまでも、Googleのような企業がパブリッシャーの利益をすくい取っていると、主張し続けてきた。

「我々は『アップディ』を、パブリッシャーのための製品、あるいはパブリッシャーのためのプラットフォームと呼んでいる」と、ベルテンベルガー氏。「アップディ」は、RSSフィードを取り込むだけなので、パブリッシャーが簡単に利用できる仕組みになっている。各カードには提供元になったパブリッシャーが表示されていて、カードをクリックすると、読者は、専用システムに組み込まれた、各パブリッシャー用Webブラウザへと誘導される。これはパブリッシャーへのトラフィックとしてカウントされる。ベルテンベルガー氏は、パブリッシャーサイトが「アップディ」というプラットフォームを信頼してコンテンツを提供していることを強調し、そこへリンクを返すことがいかに重要であるかを語った。

パブリッシャーはさらに、「アップディ」からのデータにもアクセスできる。これがもうひとつの魅力となって、いままでどのパブリッシャーも「アップディ」を拒否していない、とベルテンベルガー氏は話す。

Screen-Shot-2016-02-23-at-17.14.56パブリッシャーのプラットフォーム

コンテンツ提供者の収益を確保

アクセル・シュプリンガーでは現在、「アップディ」自体が利益を生み出すようになるまでの方策として、収益の一部をロイヤリティーとして徴収し、貯蓄している。米国の政治メディア「ポリティコ(POLITICO)」の記事によると、「アップディ」は広告収益の5%程度を手にする計画だそうだ。ベルテンベルガー氏は、ドイツ特有の法律によって、パブリッシャーは収益還付も受けられるだろうと説明する。

「ドイツには改正著作権法(Leistungsschutzrecht)があり、この法律はパブリッシャーの味方をしてくれる(「付随的著作権」法はドイツ国内で2013年に成立し、今後はほかのEU諸国にも拡大すると考えられている)。検索エンジンは、協力を得たパブリッシャーに対して収益の一部を支払わなければならない。それが公平というものだと考えている」とベルテンベルガー氏は述べる。

アドブロッカーは通用しない

「アップディ」では、たとえパブリッシャーのサイトへリンクされている場合でも、読者は広告をブロックできない。それが「Upday」の専用システムに組み込まれているからだ。アクセル・シュプリンガーによると、システムは、10~12枚のカードすべてで、ひとつの広告を表示し、読者の好みを学習するにつれて、よりターゲット化した広告を提供するようになるという。ターゲット広告は、まずディスプレイ広告から始まるが、ネイティブなコンテンツや動画もいずれは含まれるようになる。そのローンチは、数週間後に計画されているという。

「第1のルールは、広告でオーバーロードになってはいけない。第2のルールは、迷惑で邪魔になる広告はお断り。第3のルールは、広告表示はフルページで。なぜなら、私は広告を隠すのは嫌いだ。」とベルテンベルガー氏は語った。

Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)
Image via Dominik Klein