マイクロペイメント、新手法を見出すパブリッシャーたち:かつての失敗を踏まえて

マイクロペイメント(少額決済)は、パブリッシング事業を救済するという約束を果たしていない。しかし、パブリッシャーは新規サブスクライバー開拓において、マイクロペイメントの新しい利用価値を見出してきた。

パブリッシャーとベンダーの両者がこの転換を牽引しており、これは、パブリッシャーによる広告事業拡大に向けた長い道のりの初期段階となっている。

「これまでは、広告主の利益のためにオーディエンスに売り込む方法が重視されてきた」とパブリッシャーのデジタルオーディエンス開拓を支援する、メリッサ・チョウニング・メディア(Melissa Chowning Media)のメリッサ・チョウニング氏は述べる。 「しかし、いまでは自社の有料プロダクトのために、オーディエンスをどうしたら細分化できるのかに注目が集まっている。マイクロペイメントは、メンバーシップモデルの観点から、パブリッシャーにとってもっとも適していると私は考えている」。

マイクロペイメントの失敗

数年前、インクル(Inkl)やブレンドル(Blendle)といったスタートアップが、読んだコンテンツに対して記事ごとに支払いを行う機会を提供しはじめたとき、マイクロペイメントは勢いづいた。ニューヨークタイムズ(The New York Times)、フィナンシャルタイムズ(the Financial Times)、エコノミスト(The Economist)といった一流パブリッシャーもマイクロペイメントを試している。この試みは費用がそれほどかからず、彼らの提供するコンテンツはお金を払う価値があるという考え方を支持したものだ。

エコノミストでインターナショナルシンジケーション・ライセンシングディレクターを務める、シリリア・ナワルカル氏は、「見込み客に我々のコンテンツを紹介することで、この機会を利用したい」と語った。

しかし、サードパーティーによるマイクロペイメントは、少なくとも米国内では失敗している。ブレンドルは、米国市場に参入してから約18カ月もベータ版のままだ。同社は幹部にコメントを控えさせている。

ブレンドルの米国市場参入に参画したある幹部は、「何のアクションも起きていない」と述べた。 「ペイウォールやメーター制の話が出たとき、戦略づくりのデータポイント獲得の助けになることを考慮して、テストのつもりでそれに着手した。しかし、何も起こらない」。

独立型の収入源として、マイクロペイメントはいくつか構造上の問題に直面している。賛同するパブリッシャーたちのサイトから広告をとり除く、前向きなサブスクリプションサービスを提供する、スクロール(Scroll)CEO、トニー・ハイル氏によると、なかでも根本的な問題は、アローの情報パラドックス(Arrow information paradox:Wiki[英])だという。このパラドックスとは、それが何かを知らないまま、消費者は情報または知識に対価を払わない、しかし、同時にその消費者は何が得られるかわかってしまうと、それに対して支払う理由を失ってしまうということだ。「その情報を消費したあとは、その情報の価値はゼロになる、なぜなら、すでに消費してしまっているからだ」と、ハイル氏は述べる。

レイターペイ(LaterPay)を含む一部の企業は、ユーザーのツケ払いを認め、あとで対価を支払ってもらうことでこの問題を回避しようとしている。

メーター制の問題解消

ウィニペグフリープレス(Winnipeg Free Press)のようなほかの企業は、ペイウォールを補填するものとして、マイクロペイメントの使用を開始した。 フリープレスは、約2年前に記事ごとに27カナダセント(約24円)でコンテンツ販売を開始した。依然として継続はしているが、現在ではマイクロペイメントは収益源というよりは、デジタルサブスクリプションの対象者は誰かを見極める方法として認識されている。

現在までに、1万人がフリープレスのマイクロペイメントシステムを使用して、少なくともひとつのコンテンツを消費し、そのうち15%がデジタルサブスクライバーになっている。

「マイクロペイメントからもっとも価値の高い人々を継続的に獲得している」とウィニペグフリープレスのデジタルテクノロジーバイスプレジデント、クリスチャン・パンソン氏は語る。

マイクロペイメントは、無償の回数制限に到達するまでコンテンツを読んでいるが、必ずしもサブスクリプションを検討していない人にとって妥協点になっている、と同氏は語る。

「典型的なメーター制ペイウォールにまつわる問題を解消したかった。通常のメーター制ペイウォールでは、無償のあとはすぐに20ドル(約2274円)に跳ね上がる。それに興味のない人のためにフリープレスでは、マイクロペイメントという救済措置を用意している」と、パンソン氏は説明する。

「ツケ払い」という手段

その負荷を軽減するために、一部のパブリッシャーは、全額支払いを求める前に、人々のツケ払いを認めはじめている。昨年、ドイツのシュピーゲル(Der Spiegel)は、登録して支払いを求める以前に、レイターペイを通して読者に5ユーロ(約662円)相当の記事の閲覧を認めることにした。そのやり方で、記事の限度数に到達したときに、登録と支払いの誘いを目にした読者の約4分の3から、300万本の記事を売り上げた。シュピーゲルは現在、これら登録ユーザーに対してデジタルサブスクリプションを売り込んでいる。

「マイクロペイメントはパブリッシャーのファネルを拡大する手段になるだろう。我々はパブリッシャーが彼らのコンテンツを異なる方法で提示するためのツールを提供する必要がある。パブリッシャーが選んだ価格が正しいのか間違っているのかはわからない。あらゆる種類の価格設定について実験が必要だ」と、シュピーゲルの利用するシステムを設計した、レイターペイCEO、コズミン・エネ氏は述べた。

Max Willens(原文 / 訳:Conyac)