創業編集長が辞任、ハフポストにおける「中年の危機」:デジタルメディアの栄枯盛衰

ハフィントン・ポストは2005年のローンチ時、創業者アリアナ・ハフィントンの虚栄心のために作られたメディアと思われ、あまり大きな注目を集めなかった。

しかし、そんな疑いはすべて間違いであったと証明されることになる。データ中心主義を真っ先に取り入れ、トラフィックを生むための方法を次々と作り出し、オンライン上に巨大なオーディエンスを獲得したのだ。

その後、10年が経ち、デジタルニュースサイトの集団を先導するまでになった(また、トラフィックという点でも、多くのレガシーニュースメディアは敵わない)。成長過程では調査報道や重大ニュースを追いかけるために一気に雇用を拡大。ほかに類を見ない規模、そして、編集記事のような広告フォーマット(当時はまだネイティブアドという言葉は生まれてなかった)をもってして、ハフィントン・ポストは間違いなく、この分野の草分けとなっている。

2016年8月11日、このサイトの名前の由来となった共同ファウンダーである、アリアナ・ハフィントンが編集長を辞任すると発表。これまでの歴史を考えても、それはひとつの時代の終わりを意味した。

辞任の理由は、自身がはじめる新しい会社スライブ・グローバル(Thrive Global)の経営に集中するためだと述べている。しかし、ある意味、ハフィントン・ポストは、ピークを遠い昔に過ぎたサイトだ。広告分野において、同サイトからイノベーションは起きていない。

また、エディトリアル分野でも幅広いトピックを扱っており、業界の分野集中型(バーティカル)というトレンドから外れている。ほかのパブリッシャーたちは、自分たちのコンテンツを異なるソーシャルプラットフォームに適応させることをいち早く実践してきた。

かつては躍動的な新参者であったハフィントン・ポストは、衰えを許さないデジタルメディア界において、老いを見せている(本記事の掲載[※原文掲載は8月15日]までに、エグゼクティブのコメントを出せないと、ハフィントン・ポストは米DIGIDAYに伝えてきた)。

オーディエンスのシフト

ニュースウィップ(NewsWhip)によると、Facebook上でのいいね!やコメント、シェアの数に注目した場合、いまだにハフィントン・ポストはもっとも影響力が大きいパブリッシャーとして君臨しているという。しかし、ほかのパブリッシャーもそこに追いつきつつある。

バイラルコンテンツを量産するBuzzFeedがそのひとつだ。ハフィントン・ポストの創立を手伝ったあと、ジョナ・ペレッティ氏はBuzzFeedを立ち上げた。去る6月にBuzzFeedは、Facebook上でハフィントン・ポストと、ほぼ同じレベルのエンゲージメントを獲得している。しかも、投稿数はハフィントン・ポストの3分の1でしかない。

過去1年半で、ハフィントン・ポストはアメリカのトラフィックの36%を失った。一方、BuzzFeedは一気に追い上げ、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストといった古参のパブリッシャーも、ハフィントン・ポストにほぼ追いついた形となった。

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メジャーニュースサイトのトラフィック推移

ハフィントン・ポストはオーディエンス獲得において、ホームページからの閲覧ではなく、記事やコンテンツごとに入ってくるサイドドア・トラフィックに、常に大きく依存している。そのためトラフィックの減少は、人々が違うプラットフォーム上でコンテンツを閲覧していることが一因となっていることは間違いない。これは業界全体のトレンドとも一致している(しかし、コムスコア[comScore]の数字は、Facebookインスタント記事のトラフィックを含まない。またコムスコアがパブリッシャーたちのオーディエンスを完全に把握できているとは、パブリッシャーたちは思っていないという点も留意すべきだ)。

躍進後の停滞

ハフィントンが辞任を発表する前から、ハフィントン・ポストは勢いを失ったという印象が、メディアバイヤーや元エグゼクティブたちのあいだでもたれていた。ハフィントン・ポストは自らが最前線で築き上げた、ポータル時代を乗り越えて進化することができていない。よりフォーカスされたメディアの時代に入りながら、ハフィントン・ポストは、60以上のセクションを抱えている。なかでも定義が曖昧なカテゴリーに「離婚」「良いニュース」、そして内向的なオーディエンスのためという「静かな革命」がある。6月の段階で、グローバルに1日1500本ものエディトリアルコンテンツをパブリッシュ。NYTやBuzzFeedが、それぞれ1日に公開するコンテンツ数の実に6倍だ。

「基本的にはハフィントン・ポストはポータルサイトになった。ポータルサイトはソーシャルプラットフォームによって置き換えられてしまった。もしも、消費者が広い範囲のニュースを知りたいと思った場合、ソーシャルプラットフォーム上を探すだろう」と、OMDの最高投資責任者であるベン・ウィンクラー氏は言った。

最初の段階では、リベラルな視点を大きく抱える場所であっただけで、ハフィントン・ポストにとっては十分であった。しかし、今日のバイヤーたちは、同サイトを「特別なところの無い、多くのことについて少しだけ触れているメディア」と捉えている。一方で、ウェザーチャンネル(The Weather Channel)やデマンド・メディア(Demand Media)、ブルームバーグ・メディア(Bloomberg Media)といった、ほかのパブリッシャーたちは自分たちが得意な分野に絞ったほうが良いことに気づいた。

広告主から熱望される、ミレニアル世代へ情報供給するという点では、ハフィントン・ポストはナショナル・ジオグラフィックやピープルなどと同等の価値しかない。ハフィントン・ポストにおける18才から34才のオーディエンス率は45%なのに対して、BuzzFeedのようなメディアはミレニアル世代に集中している。

エディトリアルに関しては、ハフィントン・ポストのように幅広いセクションを抱えていては、サイトが何を表わしているのか判断するのも難しくなっている。数年前、ハフィントン・ポストはNYTやヴァニティ・フェアから有名なジャーナリストたちを引きぬき、エディトリアルの信頼度を強化しようとした。2012年にはピュリッツァー賞を受賞すらしている。しかし、ピーター・グッドマン氏やロリ・レイボヴィッチ氏、マイク・ホーガン氏といった、これらの引き抜きジャーナリストたちの多くは、その後ハフィントン・ポストを去った。

ハフィントン・ポストはその報道に羨望と尊敬を集める一方で、不可解な動きも見せてきた。2014年に国家安全分野の報道をする記者として、元NFL選手のドンテ・ストールワース氏を雇ったのは、そのひとつの例だ。2015年の夏には、ドナルド・トランプに関する報道を、政治ではなくエンターテイメントのカテゴリーに、一時分類したりもしている。2016年に入っても、ハフィントン氏の睡眠に関する新しい本のプロモーションのために、リソースを割いていることに非難が集まった。

また、ハフィントン氏が役員として参加したばかりだったUber(ウーバー)に関する批判的なニュースネタを取り消したことも批判されている。また批判元は業界だけではない。つい先日、コメディアンであるジョン・オリバー氏のケーブルTV番組では、「ジャーナリズムの苦悩」について語るセグメントにおいて、「アリアナ・ハフィントンによる出版物やほかソースからの引用文・発信局」と、呼ばれてしまった。

イノベーターのジレンマ

ある意味、ハフィントン・ポストは自らの成功の犠牲者であると言える。リンクトイン(LinkedIn)とミディアム(Medium)といった、ほかの媒体によって、そのプラットフォームアプローチはコピーされ、ハフィントン・ポストのさまざまな寄稿者を呼ぶ戦略は、特別なものではなくなった。

ほとんどの点において近年、ハフィントン・ポストはイノベーションを起こしていない。ハフィントン・マガジンと、ライブストリーミングビデオであるハフポスト・ライブという2大ローンチも上手くいっていないようだ。過去1年間で、もっとも大きなプラットフォームイニシアチブであったFacebookインスタント記事と、Snapchatディスカバーのローンチパートナーにも含まれていなかった。

BuzzFeedが大胆かつ決断力のあるビデオ方向への転換を行ったのに対して、ハフィントン・ポストは躓いてしまった形だ。ハフポスト・ライブは2012年に創られたが、これはサイト上で定刻に視聴できるというものだった。しかし、決められた時間にユーザーにサイトを訪れてもらうというのは非常に難しいことが分かった。特にユーザーがあらゆるコンテンツをソーシャルメディア上で消費している時代ではそうだ。

そこで、1月にはサイトだけでなく、ソーシャルプラットフォーム向けのビデオも制作するように方向転換。調査企業チューブラーラボ(Tubular Labs)による調査では、6月にはAOL全体として、複数プラットフォームにおけるビデオ再生回数トップ10のメディアにも達しなかった(ハフィントン・ポストを含むAOLは、12位であった。トップ3はBuzzFeed、タイム・ワーナー、ウォルト・ディズニー)。

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チューブラーラボによる動画再生回数の調査

その一方で、デジタルオンリーおよびレガシー問わず、ほかのパブリッシャーたちは、新しい広告プロダクト、記事の扱い方、そしてコンテンツ配信のフォーマットにおいて足並みを揃えてきている。NYタイムズは、ネイティブアドとビジュアル・ジャーナリズムのスタンダードを定めるポジションとなってきた。ミック(Mic)はモバイルビデオアプリプラットフォームであるハイパー(Hyper)を買収。ガネット(Gannett)ですら、2014年からVRに取り組んできている。ビデオが今後もより大きな役割を果たすことを業界人が予測するなか、VRエージェンシーであるライオット(Ryot)を買収したことに関しては、ハフィントン・ポストを誉めなくてはいけない。

あるトップデジタルバイヤーは次のように指摘する。「ハフィントン・ポストはインターネットの寵児が経験する3つの段階を通過した。まず、(バイヤーにとって)計画書に載せないといけない存在となること、それから、提案依頼(RFP)のリストに載せないといけない存在となること。仕事界隈で聞いている話だと、もはや提案依頼のリストにも載らない存在となったようだ。検討するリストにも入っていない。ほかのメディアがその場を奪ってしまった」。

かつて、ハフィントン・ポストはネイティブアドのトレンドを決めるプレーヤーであったが、バイヤーたちによるとその分野でも停滞しているようだ。ハフィントン・ポストがクライアントに提供するネイティブアドは、ここ3年変わっていないという。「彼らはこれまで作り出したものから変えようとしない、一方でほかのパブリッシャーたちは、より率先して動こうとしている」と、同バイヤーは言う。ディープ・フォーカス(Deep Focus)のCEOであるイアン・シャファー氏によると、そのスケールの大きさからハフィントン・ポストは、まだ検討されるポジションにあるが、ほかのパブリッシャーが提供する広告の方がクリエイティブという点ではより面白いという。

「我々はHBOのトークショー『ポリティカリー・インコレクト(Politically Incorrect)』の広告のため、我々にとってはじめてのスポンサー契約を購入した。本当に最初の段階で、そこに行き着いたんだ。ハフィントン・ポストを推薦しないというよりも、クリエイティブな仕事という点について考えた場合に、(業界で)もっとも豊かな仕事を提供しているとは限らない」と、シャファー氏は語った。

メディアコム(MediaCom)北米の最高デジタル・アナリティクス責任者であるスティーブ・カルボーン氏はハフィントン・ポストに関して、もう少し優しい態度を取っているようだ。それでも、ハフィントン・ポストが提供するものが、ほかのデジタル・パブリッシャーと同じ程度のクオリティだとしても、マーケットには類似のオーディエンスとリーチを提供するオプションがほかにもあるため、ハフィントン・ポストに当てられる予算は下がると語っている。

不確定な将来

ハフィントン・ポストは近年CEOであるジャレッド・グルスド氏によって率いられてきたが、常にハフィントン氏の見せ場となってきた。そして、エディトリアルに彼女が深く関わってくることは、ニュース編集室にとってフラストレーションの原因となってきた。新しい編集長を獲得することで(まだ探している最中だ)、ハフィントン・ポストが集中する分野を見つける良いキッカケとなるかもしれない。(アリアナ・ハフィントン氏が出版した本の題材である)睡眠やハフィントン氏の野心的なグローバル拡大計画は、新しい編集長の下、カットされていくのだろうか。

しかし同時に、親会社の下でどうやってハフィントン・ポストが変わっていけるのかという疑問もある。1年前にベライゾン(Verizon)がAOLを買収した際に、ハフィントン・ポストもベライゾンの傘下となった。つまり、この5年間で、ハフィントン・ポストは独立会社から2つのデジタル会社の一部という立場に変わったことになる。しかも、グループに米ヤフーも加わったことで、差別化はさらに難しくなるだろう。広告バイヤーたちは、GoogleとFacebookに変わる協力な第三のオプションを探しているとは言っても、「場違いなオモチャの島」とデジタル・バイヤーたちに呼ばれてしまっている場所から購入するとは限らない。

Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)