メディアは「分散型元年」をどう捉え、取り組めばよいか?

この記事は、メディア業界に一目置かれる、海外メディア情報専門ブログ「メディアの輪郭」の著者で、講談社「現代ビジネス」の編集者でもある佐藤慶一さんによる寄稿です。

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1年以上前に、「これからの報道に自社サイトは必要なくなるのか? 脱中心・分散型メディアの可能性」という記事を書いたことがありました。取り上げたのは、「BuzzFeed」「NowThis(ナウディス)」「Reportedly(レポーテッドリー)」「BBC Thai(BCCタイ)」「UkraineDesk(ウクライナデスク)」などソーシャルメディアを活用した分散型コンテンツ/メディア。「分散型(Distributed)」という戦略をとるメディアは時流に乗っていると思いつつも、当時はまだ実験の域を出ない雰囲気がありました。

しかし――。あれから1年、サイトに来てもらうのではなく、さまざまなプラットフォームを利用する読者のいるところに最適で効果的なコンテンツを出していく動きは「本流」となりつつあります。

まず2015年をひと言で振り返るならば、「流通」をめぐる1年だったといえるでしょう。

Facebookの「インスタント記事」やSnapchat(スナップチャット)の「ディスカバー」、Appleの純正ニュースアプリ「News」、Twitterの「ニュースタブ」やキュレーション機能「モーメント」、Googleのモバイルページ高速化「AMP(アンプ:Accelerated Mobile Page)」など、各社の取り組みを見るだけでも、コンテンツの流通について各プラットフォームが施策を打っていることが明らかです(参考:なぜプラットフォームは「ニュース」を欲しがるのか? )。

そして、2016年、メディア予測をするまでもなく、「分散型」が大潮流となっています。流通環境が整えば整うほど、この動きは加速するため、今年は「分散型元年」とも表現できそうです。いくつかのメディアやトピックを拾いながら、分散型のいまとこれからを捉えてみたいと思います。

「NowThis」が探る次の正攻法

ホームページをなくす、というラディカルな手法で注目を浴びたのは、新興の動画ニュースメディア「NowThis」でした。PC経由でWebサイトを訪問すると、各プラットフォームへと誘導を促すデザインとなっています。2016年1月にはさまざまなソーシャル/メッセージングプラットフォーム上での月間動画再生数が約10億回となるなど、分散型メディアとして急成長を遂げています(2015年10月には月間6億回再生だった)。

「NowThis」の編集体制における特徴のひとつは、Twitter、Facebook、Tumblr……各プラットフォームに担当者を配置していることです。分散型戦略を立てるにはまず、そこにいるユーザーの特性を理解することがすべてのスタート地点になるのです。ニューヨーク・タイムズが2014年に発表した「イノベーション」と題したレポートでも強調されていた「読者開発(Audience Development)」のような考え方が重要になっているのです。

現在、「NowThis」はFacebook、Twitter、Snapchat、Vine、インスタグラム、Tumblr、YouTube、Weibo、WeChatという9つのプラットフォームで 1日60ほどのコンテンツを展開しています。5つの編集チームのうち、Facebookには3つのチーム、Twitterには1つのチーム、それ以外に1つのチームという割合で動いているようです。

そのなかでも、特にFacebookに力を入れており、メインのページ以外にも「NowThis Election」や「NowThis Entertainment」といったジャンル特化型の展開も進めています。トランプ旋風をはじめ、すでに大盛り上がりを見せているアメリカ大統領選報道にも積極的に取り組んでいます。

「NowThis」がカバーする領域のほとんどが「ニュース」であることに加えて、短尺動画ということもあり、どうしてもまだしっくりとくるマネタイズモデルが描きにくいように見えてしまいます。また、分散型ではブランド構築のむずかしさという課題もあります。

しかし、逆説的に、新しいモデルを確立し、広くブランド認知を獲得することができれば、分散型時代に見習うべきひとつの正攻法となるのかもしれません。

日本では分散型への振り切りの良さからやや過大評価されているような気がするNowThis。メディア戦略は未完全ながらも、これまでになかったメディアのあり方を試行錯誤するその歩みは目を向けるに値します。

分散型時代には、各プラットフォームにおけるコンテンツの大量配信やデータ収集なども重要です(分散型はスローペースのメディアに向いていない)。たとえば、「NowThis」の初期のニュース動画にはアンカーを起用し、ニュースを読み上げていましたが、現在は字幕スーパーを掲載するかたちに落ち着いています。これも大量の実験によって、得られた答えを反映しているのでしょう。

米DIGIDAYでもいくつか「NowThis」についての記事が配信されています。

運営戦略とパートナーシップ部門の上席部長であるエイサン・ステファノポウロス氏によれば、「NowThis」は「製作した1本の動画を、インスタグラム用に15秒へ再編集したり、Vine投稿向けに6秒へカットするようなことはしない」という。「あえて各プラットフォームに合わせた、最適な見栄えのビデオニュースを製作し、それぞれ独自に配信している」
「分散型メディア」の作り方。プラットフォーム別に見る「NowThis」の#LoveWinsコンテンツ

サイトに載せるコンテンツづくりは古い?

2006年にスタートした「BuzzFeed」は、かつての「ハフィントンポスト(The Huffington Post)」が検索で優位をとってきたのとは異なり、ソーシャルメディアでコンテンツを多く共有してもらうことに成功してきました。現在では、Facebook(動画)やアプリ、そしてSnapchat経由でのトラフィックが多くを占めるようになっているようです。

3月の第2週と3週にかけて開催されたSXSWのセッションにて、「BuzzFeed」は1日600コンテンツ、すべてのプラットフォーム上で月間60億回の閲覧数というデータを発表していました。「ニュースとエンターテインメントのためのグローバルで、クロスプラットフォームなネットワーク」だけあって、その数は圧倒的です。

もちろん分散型を考えるうえで、コンテンツ数は重要。「BuzzFeed」は数に加えて、テキストや写真、GIF、動画をはじめコンテンツの種類も多様です。それらを広く流通させ、得られるデータをもとに、より良いコンテンツづくりにフィードバックするという循環はプラットフォームを乗りこなす上で欠かせません。

「BuzzFeed」は2014年夏、5000万ドル(約54億円)という巨額の資金調達をしましたが、そのとき「BuzzFeed Distributed」というデザイナーやイラストレーターを中心としたチーム結成を計画しました。このことは、人々とコンテンツの出会いが、Webサイトの外になりつつあり、その点を研究・実験が必要となっていることの証左でしょう。

このチームでは、オリジナルイラストなど一瞬で消費でき、話題となりそうなネタをソーシャルメディアやメッセージアプリに次々と投稿しているのです。buzzfeed.com向けにつくらない、Webサイトに載らないコンテンツをつくる、という点で非常に新鮮に感じました。


「BuzzFeed」の編集部門はBuzz、News、Lifeの3つに分かれてURL付きのコンテンツを制作していますが、「BuzzFeed Distributed」ではリンクのないコンテンツをひたすら外部、Twitter、Vine、Tumblr、インスタグラム、Facebook、Pinterest[ピンタレスト]、Snapchat Stories[ストーリーズ])に配信して、特にミレニアル世代の読者とのエンゲージメントを図っています(一部「BuzzFeed Motion Pictures」が手がける短長尺の動画もみられます)。

ただ、これだけ外部プラットフォームを活用しても、データがとれなければ次のコンテンツ作りに生かせません。TwitterやFacebookのようにある程度分析できるプラットフォームもあれば、インスタグラムのようにリンクも貼れず、まったくデータのとれない世界もあります。外部プラットフォームのデータは分散型時代の命綱でもあります。そのため、インスタグラムのパブリッシャー向けプログラムも待望されるところです。

Facebookという世界一のメディア

パブリッシャー向けプログラムといえば、分散型の流れを決定づけたFacebookの「インスタント記事」にも少し触れたいと思います。2015年5月にはじまり、日本でも2016年に入ってようやく全国紙など中心に導入が発表されました。世界を見れば、2016年4月12日から全パブリッシャーが利用可能になるとされています(Apple Newsも全パブリッシャーに開放されるようです)。

ただ、「インスタント記事」ではネイティブ広告やスポンサードコンテンツを配信できないため、ネイティブ広告によって売り上げを立てているメディアにとって、これからも向き合わなければいけないポイントとなります。それぞれのプラットフォームの事情・制約はたしかに存在していますが、一方でFacebook動画は「BuzzFeed」の成長に不可欠だったといえるでしょう。「BuzzFeed」のフードメディア「テイスティ(Tasty)」の爆発的人気をみれば一目瞭然です。

コンテンツ配信社とプラットフォームの関係には良悪どちらもありますが、分散型時代には諸事情を飲み込みながらも、うまく乗りこなすことが必要になります。巨大なプラットフォームをコンテンツの出し先とする場合、現状では広告のレベニューシェアモデルとなっているため、課金を主体とするメディアは乗りづらく、広告主体のメディアでも消耗してしまう場合も出てくるのかもしれません。分散型時代のマネタイズモデルは引き続き注目点です。

また、当然ながら外部でコンテンツが消費されてしまう場合、メディアブランドの認知をどのように獲得していくのか、読者との関係性をどのように構築していくのかは課題でしょう。これらのことを丁寧に積み上げて行きたいなら、この原稿に書かれていることをまったく無視して、プラットフォームに乗らない選択が賢いのでしょう。

それでも、ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)の調査が示す、Facebookを日頃のニュースソースとしている大人は4割というデータからもわかるように、各種メディア自体を第一ソースとするのではなくSNS自体が情報収集のための場所と化している現状がたしかにあります(もちろん閲覧するのは各種メディアの記事ですが)。

Facebookはプラットフォームでありながら、多くの人にとっていちばんのメディアとなっているのです(とはいえ、メディア側はコンテンツ表示がアルゴリズムに左右されるというまた違った課題と向き合うことになるのですが……)。

ちなみに先日、調査会社ニュースウィップ(NewsWhip)が発表した2月にFacebookでもっともシェアされたメディアランキングにおいて、「ハフィントンポスト」が「BuzzFeed」を抜いたことがわかりました(463万シェア)。アメリカ大統領選に関連したトランプに関する記事がヒットしたことが要因だとされていますが、コメント数でもトップになっていることも興味深いです。

アメリカ大統領選というビッグイベントと分散型元年とが重なったことで、Facebook、BuzzFeed、Snapchat……プラットフォームとメディアがどのように影響力を発揮し、小さな画面における情報戦争を戦っていくのか。この1年、注目していきたいと思います。

Written by 佐藤慶一
Image via Thinkstock / Getty Images